【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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序章 兄弟

アルフレッド、コモーノと再び対峙する

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「今日はいよいよ面会の日だ。サリィ、粗相のないようにね?」

「わかってますよ。おぼっちゃまの、しいては私の今後に関わるお話ですからね」

 アルフレッドは散々引き伸ばされた面会日に腐ることなくその日を楽しみに過ごしていた。既に作物の収穫は済ませてある。
もし庭の作物について従者が何か咎めても、それを交渉の切り札にするつもりでいた。

 そんなもので職人が雇えるのなら安いものだ。
 しかし──やってきた人物はアルフレッドの想定した職人などではなく、追い出し追い詰めたコモーノ本人だった。

「久しぶりだな、アルフレッド」

「兄さん、どうしてここへ?」

「どうしてとは? オレは交渉の場に赴いただけだ。偶然交渉相手がお前だっただけの事。何を驚く必要がある? パメロ、本日分の食事をお出ししろ」

「は、ご主人様」

 コモーノは従者へ指示を出すと、そこへ置かれたのは見慣れたお盆。そう、交渉相手はあの日からずっとコモーノだったのだ。
 それを見抜けなかったとして、アルフレッドは負けた気持ちで拳を握る。

「さて、アルフレッド。お前にとってオレは憎い相手。思うところもたくさんあるだろう。しかしオレから言わせて貰えば、お前も同じくらい憎らしい。こんな交渉の場でなければお前と顔も合わせたくないのが本音だ」

「ではどうして来たんですか? 顔も見たくなければ来なきゃよかったでしょう」

「事情が変わったんだよ。お前のもたらした霊草ニュクス、あれが王国貴族の耳に入った。我が家はお前のやらかしの尻拭いで右往左往する羽目になった。担ぐ予定のない第一王子ルード様をお担ぎする、そんなふうに見られてしまった。そこでだ」

 コモーノは演技がかった身振りでアルフレッドを射抜く。
 その凄まじい違和感に、アルフレッドは言葉を発さずにはいられなかった。

「失礼ですが、貴方は誰ですか?」

「実の兄に向かってなんて口の聞き方だ、アルフレッド」

「見た目は兄さんそっくりだからこそ、今の貴方からは兄さんらしさがまるでないんです!」

「そうなのか?」

「まぁ、以前のコモーノらしさは皆無ですね。わがまま放題、贅沢し放題のコモーノ様の面影は今現在つゆほどもございません」

「だ、そうだ。オレも成長するんだ。特にデビュタントの失敗が痛かった。お前はいつもあんな舞台に立っていたんだな。オレはそれを知らずにお前に辛く当たっていた。世間知らずだったのはオレの方だった」

「本当にあの兄さんなのですか? あまりにも別人すぎて今でも戸惑いの方が勝ちます。では単刀直入に言います。兄さん、あの菓子はどこで仕入れたのでしょう? この世界の技術であれがあるのはあまりにもおかしい」

「おかしいとは?」

「あれは僕の夢の中に出て来た男の作るものだ。それを関係ない兄さんが入手してる事全てがおかしいんだ!」

 アルフレッドの言葉に、コモーノは目を細める。
 ブツブツと何かの単語を呟いたと思ったら、すぐさま考えるようなそぶりをした。

「マジか、お前中途半端にオレの前世を引き継いだのか」

 途端、口調を変えた兄の態度にアルフレッドは目を丸くする。
 前世。それは生まれてくる前の人生。
 アルフレッドが見ていた記憶は兄の前世だったと聞いてびっくりせざるを得ない。
 詰まるところそれは、あの菓子を作ったのが兄コモーノであると言うことを認めなくてはいけないと言う事だった。

「兄さんが、あの男の転生先? では僕は一体何者なんだ!」

 思わず叫び出す。
 アルフレッドにとって唯一の救い。その情報の持ち主がこの離れに追放した兄のものだと受け入れ難いのだ。

「お前は多分、本来オレに納められるべき能力が膨大すぎて分裂してしまった別人格。過去の記憶だけがオレに残り、それ以外のすべてがお前に行った。そう考えると辻褄が合う」

「僕が、兄さんに渡るはずの能力をとってしまった?」

「いや、オレの器が小さすぎて受け取れきれずにお前に流れた可能性を見ている。正直お前のスペックはおかしいところばかりだ。オレじゃなくてもお前をおかしいと思ってるぞ?」

「ここに来て負け惜しみですか?」

 アルフレッドの売り言葉に、コモーノは苦笑しながら「ああそうだ」と答えた。普通ならば癇癪を起こして会話が断絶されるまである兄とのやり取り。
 ここまで会話が妨げられる事なく受け答えが続いているのが奇跡だとアルフレッドは気が付いている。

「兄さんは、いつ記憶が?」

「お前がそこのメイドと死にそうになってるシーンを見て、正気を取り戻した」

「ああ、1ヶ月前のあれですか? 実は仲良く食中毒になってて」

「おおかた黄金キノコと何か別の素材でも混ぜたんだろう。あれは単品だと美味だが他の食材を混ぜると途端に激毒になるからな」

 実際に体験したアルフレッドとサリィだけがわかる事を、体験もしてないのに見知ったように述べるコモーノ。
 ああ、本当にこの場所を、ここの世界を全て把握しているんだと、どうして自分はその知識を引き継げなかったと後悔する。

「それからお父様は?」

「オレが急に真面目になったってビックリしてるよ」

「それはそうでしょう。それでもデビュタントで失敗したのですか?」

 今のコモーノならば余裕で乗り越えそうだとも思った。
 ならどうして失敗するのか?

「記憶を取り戻す前に失敗したんだ。前迄のオレは有頂天だったろ? お前に負けて散々挫折は味わったが、衆人環視の中での失態に耐えられる心は持ち合わせていなかったんだよ」

「それで僕に矛先を向けた?」

「まぁ前までのオレなら他に当たる先もないしな」

「嫌われたものですね」

「そうだな、記憶を引き継いだ今でもお前のことはどうかと思ってるよ」

「ひどい!」

「散々勝ちを持ってかれたんだぞ? 勝ち逃げするな。今度はオレが勝つから。戦いの舞台から逃げるな」

「追い落とした人に言われましても……」

「それもそうだな。パメロ、追加の菓子を出せ。話が弾みすぎて消費が早い」

「まさか本題に入る前に消化し切るとは思いませんでした」

「オレもだ。アルフレッドが理性的で良かったよ」

「それと、例の契約も上手くいったようですね」

「そのようだ」

 従者と共に談笑する兄コモーノに対し、アルフレッドが割って入る。

「兄さん、契約とは?」

「そうだな……一番の被害者であるお前には話しておくか。我々スグエンキル家は王国の忠臣とは名ばかりの呪いの契約によって国に仇なす存在の死刑執行人だ。ここまではいいか?」

「うん、そりゃ先祖代々剣士を世に出して来た軍閥だし? そこらへんはわかるよ。でもそれと僕になんの関係があるって言うのさ」

「お前の職能、王の采配は国家転覆レベルのヤバい代物なんだよ。国の番犬であるスグエンキルが放っておくわけないだろう」

「待って、じゃあ父様が僕に暴力を振るったのって?」

「お前の職能が判明したからだ。いいか、アルフレッド。文字化けは国にとって存在しちゃいけない都合の悪い職能なんだ。父様が劣化の如く怒り出した因果はそこにある」

「じゃあ、どうして今兄さんは平常で居られるの?」

「平常ではないんだな、これが。来い、アスティ!」

 コモーノが右手を天に高く掲げると、落雷がその場所に落ちるように現れ、それはガタガタと震えている。
 今にもアルフレッドに飛びかかっていきそうな殺意が剣そのものに込められてる。
 それをコモーノがつまらなそうに椅子の横に立てかけ、交渉に戻る。

「これは……魔剣!」

「オレの武器兼、お前を一番殺したがってる奴だ。でも事前に執り行った契約に縛られ、お前には手出しできないようにしてある。さぁ、楽しい交渉を始めようぜ」

 コモーノは椅子の横でガタガタ震える魔剣を尻目に交渉を続けた。アルフレッド達はいったいこの日のためにどれだけ入念な準備を進めて来たのかと、コモーノを見定めていた。


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