【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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序章 兄弟

アルフレッド、水路を開拓する

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「おぼっちゃま、起きてくださいおぼっちゃま!」

 翌朝、サリィの大声に呼び起こされる様にアルフレッドは目を覚ました。

「どうしたの?」

「昨日耕してもらった畑からですね、植えてないはずの苗があったんです」

「ああ、それ」

「おぼっちゃまはご存知だったんですか?」

「それね、僕の職能から取り出せるかなって試したら出来たからこっちでも育てられるっぽいよ?」

「すいません、理解が追いつきません!」

「だろうね、詳しい説明をする前に朝食にしようか」

「ですが私たちの食糧はパンがあと少しだけです」

「そのパンね、増えたから」

「増えた!?」

 増えたのだ。職能に食べかけのパンを持ち込んで、植えたら増えてしまった。

 ダメ元で挑戦したら、何故か焼き上がった様な湯気が立つパンが生った。

 意味が理解できないのはアルフレッドも同様だ。
 ちなみに植えるたびに数が増えて収穫可能だ。

 それを現実でも同様に植えてみたら見事に生った。
 もしこれが表に出ればパン屋は失業だ。
 植えるだけで良くなるからな。

 無論、こんな非現実が可能なのは職能“王の采配”に関わ他土地に限るだろうが。

「はいこれ。今日から一人一個ね?」

「えっと、説明をお願いします」

「だろうね」

 自分の分のパンをもぐもぐと食べ終わり、アルフレッドは痛む上体を起こす。

「僕の職能はどうやら一般の理解の外にある物の様だ」

 一般貴族の扱う職能とは大きく異なるのは間違いない。
 職能とは本来ここまでの力はもたいない物だ。

 せいぜいが適性の有無を示すくらいで、あとは熟練度と呼ばれる努力の伸びが良くなる程度。

 アルフレッドの蓄積熟練度は一般貴族を大きく超えてしまった。だからと言って王族に砂をかける才能を授かるとは思いもしない。
 父が危惧した様に、もしかしたら文字化けと評したのは王族の指示による物ではないかと言う思いがあった。

「練度の蓄積次第では今以上のことも?」

「起こるだろうね。これで熟練度Ⅰだと言うのだから呆れてものも言えないよ」

「笑えないですよ。本当に、おぼっちゃまが倒れられてからおかしな事ばかりの連続で……」

 無理もないことだと思う。
 廃嫡されて自他共に貴族の地位を失ったアルフレッド。そんな人物のお付きとして付き従うサリィ。

「でも、この不思議な力で食い繋ぐ事ができた。そこは素直に喜ぼう」

「それよりも畑の苗は何ですか?」

「干し肉の苗」

「もう一度言っていただけますか?」

 そうなるよな、と思う。
 パンの実も一見して大きな木の実を割ったら焼きたてのパンが出てきたのだ。
 他に説明のしようがない。見た目はよくわからない植物、野菜の様であるが。

 よくハムの原木という言葉がある。
 あれは肉塊を熟成させることで大量に作る技法から原木と呼ぶが、果実が干し肉の味がする場合の旨い例えをアルフレッドは持ち合わせていない。

「兎に角だ、その植物からは干し肉の代わりになる果実がなると思ってくれていい」

「本当に意味がわかりませんが、人が生きていくには水分が必要ですよ」

「水路の開拓か。手がないわけではないが、コストがな」

「可能なのですか?」

「可能だが後先考えずに投資するのはどうか。一度近隣を捜索してみて、難しい様だったら考えるがいいか?」

 活動資金は10,000
 農業Ⅰを覚えて9,000
 そこで水路事業を開始すると一気に4,000まで落ちる。
 開拓資金の収入がないのに投資するにはコストが重すぎるのだ。

 が、背に腹はかえられぬ。
 確かにパンと干し肉だけでは喉が渇くというのもあった。

「食事を終えたら早速行動開始だ」

「まだ動くにはお怪我が……」

「そうも言ってられないだろう? サリィが居たから僕は生きながらえた。この命を無駄に使うつもりはないよ。けど一人で歩くのは厳しい、肩を貸してくれないか?」

「わかりました、お身体をお預かりいたします」


 サリィはアルフレッドに肩を貸しながら外に出た。
 寝床から今を抜けてキッチン、その次が玄関だ。
 埃に塗れた飾り気のない意匠の扉を潜ると大自然が目の前に広がる。

 井戸は裏庭にある。畑を作った場所から数分歩いた場所である。井戸の奥は山につながっており、その場所に水路があるのだろうが木々の根が張り巡らされ、その根が枯れている頃から潰えて随分と時が経った様だ。

「サリィは身体強化の魔法は使える?」

「メイドの基本技能にございます」

 侯爵家に仕えるメイドは基本的に力仕事が多い。
 侯爵が兎に角力仕事を他人任せにする為である。
 生まれが低くとも、身体強化が出来れば侯爵家でメイドの仕事が可能であった。

「ならば僕の魔力を授ける。あまり多くないから考えて使って」

「!」

 魔力付与。それは貴族でも扱える事が少ない技能。
 それを10歳で扱えるアルフレッドの凄さにサリィは再び目を見張る。
 せめて与えられた才能が恵まれていたのなら廃嫡などされなかったのに。そう思わずにはいられない。

「少し速度を上げます」

「無理はしない様にね?」

「おぼっちゃまの魔力を無駄には致しません」

 拠点から山を一つ超えた先に、水源と思われる場所があった。
 そこに居着いていたのは、見上げるほどの巨大な亀だった。
 グランドドラゴンだ。

 眠っているのか、手足を引っ込めていた。
 これが居座っているから湖と家までの水路が途切れたのだろう。どうしようもない、これは人の手に余るものだ。

「どうしますか、おぼっちゃま?」

「下手に起こせば水源どころの話ではないな。どうにか恵んでもらうことはできないだろうか? いや、待てよ?」

 アルフレッドは即座に『王の采配<アナザーキングダム>』を起動させる。
 指定したフィールドにはもちろん何もない。

 現実とリンクしているのだろう、マップは酷似していた。
 そこには豊かな水源が海原の様に広がっていた。
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