【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

序章 兄弟

アルフレッド、誰かの夢を見る

　アルフレッドは再び見知らぬ男の世界へと誘われていた。
　その男は『ゲーム』に夢中になっており、一日のほとんどを水晶パネルの世界に傾倒していた。

　その世界はアルフレッドから見ても夢の様であり、千差万別。
　武器を手にして大型モンスターに立ち向かう戦士に扮したり。

　畑に種を植えて作物を収穫したりと本当に様々な形態をとっていた。
　男は色んなゲームを遊ぶが、頻度が高いのは武器を手に取り、モンスターを打ち倒すものだった。
　見知らぬ言語で騒ぎ、興奮気味に叫ぶ。

　男にとってそれは自身の承認欲求を満たすもので……
　ただその先を知ろうとするとまたも意識が反転する。

　朝が来た様だ。
　今までの記憶は露と消え、アルフレッドは現実の世界で目覚める。

「あら、おはようございますおぼっちゃま」

「どれくらい寝てた？」

「外の陽は随分と高くなっておられますね」

「あ、掃除！」

　条件反射で飛び起きようとして、昨日の傷の痛みでベッドに仰向けで倒れた。
　その様子を見ていたサリィが笑う。

「もうお掃除はしていただかなくて結構ですよおぼっちゃま」

「そういうわけにもいかないだろう？　僕はサリィの雇い主だ。主人としては従者に見限られない様に努力をするのは当たり前だ」

「でしたら、少しお願いしたい事があります」

「ようし、任せておくれ」

　痛む体を引きずる様にアルフレッドは体を起こす。
　無理はしてほしくないと言いながらも食糧の問題は今後を左右する。
　サリィだってそれが分かっているからこその願い出だった。

「これは？」

　サリィに呼び出されたのは裏手の庭だった。
　庭というには自然と一体化しすぎてどこからどこまでが敷地内か非常にあやふやだ。

「実はここで菜園をしようと土を掘ったのですが、この通り」

　キィイイン！

　農具小屋があったそうで、そこから引っ張り出してきた鍬を振りかぶって地面へと振り下ろすサリィだが、設置面から随分と高い金属音が返ってくる。

「農地には向かないようだね」

「どうもこのお屋敷の地盤が長い年月放置されたことによって鍬をも通さぬ土地へと変貌してしまった様です」

「僕の知識ではどうにもならないよ？」

　アルフレッドの知識はせいぜいが侯爵家の本棚にあるものが殆どだ。
　領地経営からその特産物の扱い方。近隣の領とのしがらみなど、そんな余計な知識が多くを占める。
　さらに極め付けは授かった才能が文字化けしてるので、今まで育ててきた技術がまるで使えずにいる状態だ。

「そうなんでしょうが、私の知識だけでは手いっぱいで。ダメ元でお聞きしてるんです」

「現役農家に分からないことを素人の僕が分かるわけ……いや、待てよ？」

　夢の中で見た記憶が、才能を呼び覚ませと訴えかける。

「もしかしたらなんとかなるかもしれない」

「本当ですか？」

「あんまり期待しないでくれると嬉しいな。これはただの憶測でしかないから」

「憶測でも、その思いつきでウチは救われましたから！」

「ならここは僕に任せておくれ」

　そう言ってアルフレッドは男が『ゲーム』なる世界で合言葉を口にした。


「──ステータスオープン」