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一章 異世界クラセリア

マスコミへの制裁

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 クラスメイトが帰ってきてから特に何かしたわけでもなく、雑に一週間が過ぎる。
 自宅前から教室に転移すると、その光景を見慣れたクラスメイトがおはようと声をかけてきた。
 笹島さんだ。


「磯っち、転移スキル便利に使ってるよねー」

「もはや俺の日常に欠かせないスキルだよ」

「普通はそこまで多用しないものじゃない?」

「まぁね。でも寝不足でギリギリまで家で眠れると思ったらどうしても多用しちゃうんだよ」

「そうやって磯っちはダメ人間になってくんだねー」

「それを言われたら弱いかな?」


 笹島さんと他愛もない雑談を交わしながら着席。
 やはり結構距離感は近くなってきている気はする。
 以前までとは比べものにならないくらい、一度スキルを得てから女子達は俺に好意的な視線を向けるようになった。
 とは言え、俺そのものよりスキルに対して向けられてるものだ。
 勘違いしすぎは恥ずかしいぞ、俺ぇ。


「おはよう、磯貝。笹島さん」

「おう、岡戸」

「岡戸君、おはよう!」

「うん」


 異世界勇者こと岡戸達也のお出ましだ。
 かつて異世界に拠り所を見つけた岡戸だったが、向こうで悲しい別れをして以降、というより洗脳されていた事実を知ってからは割と執着しなくなったようだ。

 あれから家族にも不義理を果たした事を認め、きちんと会話し合うようになったとか。
 こいつ一人だけ一週間で壮絶な人生送りすぎだろ。
 他の連中なんて遊んでただけだぜ?


 俺? 俺はほら、いざという時のためにスキルを鍛えてたんだよ。
 安全圏でな。
 特にこの手のスキルって表沙汰にすると顔も見たこともない親戚がすり寄ってきたりするものじゃん?

 実際知らない人につけられることも何回かあって、転移頼りの生活を送らざるを得ないんだよね。
 今朝も家の前を見張ってる連中いたし。

 とーちゃんはデパート勤務なのでそのまま送ったりして、かーちゃんもついでにそこに。時間を見計らって家に帰したりしてるうちにもりもり転移先が増えた経緯があった。

 しかし世の中には異世界に希望を持つ人があまりにも多すぎる。
 一人だけやたら成長した岡戸の他は、見たくもない現実を突きつけられて傷心中だったりもするが、そんな話を聞いても「俺は違う」って謎の自信に包まれてるのがたまに出てくるんだ。

 まぁ木村のことなんだけど。

 あいつの『放送局』は、文字通り人力Wi-Fiで、異世界にいながらこっちの世界のネットに繋げるアホみたいなチートスキルだった。
 そこで登録したチャンネルが100万人を突破した事で、味を占めたあいつは、いろんな場所を見て回ろうとしているのだ。

 護衛として岡戸を雇って。
 他にもクラスメイトを誘ったりしてるが、割と付き合いが悪く(自分達の冒険を進めたいから)と断られていた。


 俺のルームは現在10個。
 俺用、かーちゃん用、父ちゃん用、木村用(+岡戸)、マスコミ(強制転移用)意外をクラスメイトに割り当てている。
 使えば使うほど熟練度は上がるので俺の方も願ったり叶ったりだ。
 別に異世界まで行かなくたって熟練度が上がるのがいいよな。


「そういえばマスコミの人ってこっちに帰した?」


 ホームルームを終えた後、笹島さんが思い出したように聞いてきた。
 あっ……忘れてたわ。
 いっけね。鬱陶しいからって異世界に送りっぱなしだったわ。
 どうせ戻したってろくな事しないだろ?
 ちょっと異世界で世間の厳しさってやつを味わえば大人しくなるかなって反省を促す意味で送ったまんまだ。


「その顔は……忘れてたな?」

「だってしょうがねーじゃん。あいつら、他人事だと思って器物破損ぐらいは当たり前でするし、それを弁償せずに中に押し入ってくるんだ。許せねーよ!」

「そりゃ御愁傷様。警察呼ぶなりすりゃいいのに。うちは呼んだぞ?」


 岡戸が解決策として最上と思われる策を提示する。
 しかし俺は口籠もった。
 警察も呼んだんだが、事情聴取以外の罪をでっち上げられそうになってるんだ。
 集団行方不明者の実行犯はお前だろうって、身に覚えのありすぎる罪がちらついて呼び出せないのだ。

 もう狸寝入りだよ、クソッ!
 罪のない一般人を疑いやがって。世の中クソだわ。

 ま、そういう意味でもマスコミを返しますかね、と二週間も異世界に送り続けたマスコミをこっちに戻そうと話題を変える。


「で、戻すにしたってどこに? 言っとくが自宅前はノーサンキューだぞ?」

「教室内も勘弁してほしいよねー」

「他に候補地はないのか?」

「クラスがパンパンになる規模の人数でしょ? 自ずと施設は限られてくるよね?」


 そこで俺は大人数が一度に現れても不自然がられない場所をピックアップした。
 最近とーちゃんを送ってるデパート、そして市営プールである。
 夏真っ盛りだし、プールにはしょっちゅうお世話になってる。
 入場料は無視してるのでバレるとやばいが……


「よし、プールにしよう」

「お前、鬼か」

「磯っち、鬼畜~」

「最悪、あの人たちのカメラを台無しにしてやりたい。そうする事で俺の溜飲も下がるってもんだ」

「まぁ、高い授業料だけど、こっちの世界に戻ってこられるだけマシかな? あっちの世界はマジで命の綱渡りだし」

「経験者の岡戸が言うと凄みがあるよな」

「ねー」


 笹島さんと一緒に茶化す。


「それで、もう帰ってきてるのか?」

「うん。プールの転移先が一つ消えたから、戻ってきてると思う」

「おい! お前らスマホ見てみろ、特報だぞ!」


 ちょうどいいタイミングで、授業前だと言うのにネットで情報収集をしていた木村が声をかけてくる。
 それがちょうど市民プールに突然現れた見知らぬ格好をした男女40名だった。


 よし、無事帰ってきたな。
 おかえり!
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