おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)

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【ヨルダ編2】元落ちこぼれ令嬢の魔法革命

積み上がる実績

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「まず最初に、ノコノサート様は符術による魔法の簡略化をなさっていますよね?」
「よく勉強しているね」

 オメガからの直伝である。
 王宮魔導庁についての知識はオメガから、それ以外の魔法構築はヨウから教わったヨルダ。

「それをストック式魔術として待機しておく技術があります。符術との大きな違いは、上級魔法のストックはできないという点ですが」
「だろうね、符術のメリットはそこにある。術者が問いかける、符が応えるの二つの手順でそれを簡易化したのが符術だ」
「ですが、持ち運べる量に限界があるのではありませんか?」
「確かにそれはあるが、数を必要としないからこその上級魔法だ。量を誇るのは構わないが、それは威力を犠牲にするというのに他ならないのではないのかね?」

 それは確かにそう思われても仕方ない。
 この王国の魔法学は一撃に全てをかける必殺技。
 上級魔法がまさにそれだ。
 こいつは敵わない! そう思わせるのが目的であるような術式のオンパレード。
 その最終形が上級魔法なのだ。

 だからこそ魔力量に非常にこだわる。
 ヒュージモーデン家が代々魔法使いを輩出してこれたのはそこに至るためだ。
 ヨルダはその基準を満たさなかったからこそ、ヒルダに頼った。

 しかしそれは一つの結末でしかないとヨウから学ぶ。
 魔法とはイメージだ。一つの形にこだわるから自由でなくなる。
 もっと自由なイメージをもて。それがお前の力になる。

 そう言われた時、自分の求めるイメージがようやく見つかったヨルダであった。
 その答えが魔力総量が少なく、放出系に向かない加護持ちでも扱える魔法式『ホルダー』

 今の王国が目指す魔導士とは異なる最終形を、今からノコノサートへ披露する。
 恐れ多いのではないか?
 果たして自分なんかの魔法が認められるのか?

 そんな思いは抱きつつも、自分なんかよりも遥か雲の上の存在から『お前はやれる子だ』と背中を押されて今ヨルダはここに居た。
 
「ノコノサート様は初級魔法の応用をどこまでお考えでいらっしゃいますか?」
「応用と来たか。続けて」
「実際に見ていただいた方が早いかと思います。詠唱の速さは言わずもがな、それが連射可能となれば使える幅は大きく変わってきます」
「しかし全ての魔導士が扱えるわけではあるまい?」

 訓練場に移動しながら、ノコノサートが尋ねてくる。

「ええ、多少の訓練は必要としますが、一日に一回。魔法をストックしておくことで実践の時に即座に使用可能。むしろこれは派手で大威力な中級から上級魔法を扱うよりも一度に扱う魔力が少なく、かつ連射が利くという利便性で示してみせようと思います」

 魔法訓練場にて、ヨルダの前には特定の魔力量以外では一切傷がつかないデコイが置かれている。
 これらは上級魔法でも最上級クラスの魔法用のデコイ。ヨルダはこれらを初級魔法の『ストック』で撃破してみせると大きくでた。

「ではまいります」
「お手並み拝見と行こうか」

 ノコノサートは、オメガと全く同じ口癖を述べる。
 こういうところは親子っぽいなと思うヨルダである。

 パチン!
 指を鳴らす。
 それだけで溜め込んでいたあらゆる属性の初級魔法が待機状態で現れる。
 その数は百や千では利かない。

「なんと、その量を同時にストックして置けるというのかね?」

 ノコノサートがあまりに膨大な術式の発動に息を呑む。
 初級魔法という、一見して子供騙しな威力の魔法だが、確かにそれだけ束ねればデコイを崩せるかもしれない。
 そんな気さえ胃してしまうほど圧倒的な魔力が感じられる。

 ガガガガガガガッ!

 しかし、大魔法用デコイは微動だにもしない。
 やはり一発一発の威力が足りないのだ。
 ノコノサートも内心では「そうだろう」と思いながらもデコイがのけぞる様子を見ながら「もしかして、いけるのでは?」と思い始める。

「あら、これでは壊れませんか。でしたら」

 パチン!
 先ほどの魔法とは違う魔法構築。
 そう、これは中級魔法だ。
 対象を一体に絞った初級魔法とは異なり、中級からは範囲魔法となる。
 上級は対軍、最上級は対城と範囲が拡大していくのだ。

 だが、これをヨルダは初級と中級で越えようとしている。
 威力でも範囲でも劣る魔法で、事をなそうとしているのだ。

「初級魔法以外もストックできるというのか?」

 ノコノサートの質問に、ヨルダは微笑んで答えとする。
 できないとは言ってない。
 上級魔法はできないが、中級魔法は可能である。

 が、それは可能性の一つ。
 しかしそれで相手が倒れない時のために取っておく。
 魔導士としての切り札だ。

 そしてヨルダが用いた中級魔法は風属性の『ロックシュート』

 これは遠投の要領で対象を内側に収束させ、圧縮させた風を束ねて投げるだけの魔法だ。
 もちろん束ねたものは着地と同時にばらけるものである。
 それをヨルダは初級魔法に使っただけ。

 だが、普通はそう使わないからこその驚きがあった。
 後から如何様にでも変化を付け加えることが可能。
 それがストックの最大の利点だとノコノサートは察していた。

「魔法の複合化!? いや、違うな。これは同時使役か? ストックならそれが可能と?」
「どうとっていただいても構いませんが」

 デコイに向けて一つの塊が到達し、中心地点で全く別方向へとデコイの本体を爆散させる。
 ある程度の魔力をぷけ切るコアさえ壊せば、あとはただの木偶の坊に過ぎない。

 それはある意味で力技だった。
 しかし、その力技は歴史に名を刻むタイプの力技だった。

「素晴らしい! ぜひその技術の一端を我々に示してくれないか?」
「もちろんです、私の編み出した新しい術式で、王国の国防に役立ていただけたら何よりの褒美です」

 それ貴族としての矜持である。
 それは賛美されるほどの美徳であり、新しい術式の『ストック』は今まで雑用に回されていた低い魔力量の貴族の子供にも適用され、ヨルダは王宮魔道庁で新しい部門の魔道長として就任した。

 国王デイブもこれを喜んだ。
 ノコノサートからの入れ知恵もあったが、役立たずだった貴族が優秀な魔導士に生まれ変わったのだから。
 どう扱おうか考えあぐねていたが、これは大変喜ばしいと今度はワルイオスの意見を跳ね除けて叙勲式を行った。

 ヨルダは王国内での地位をメキメキとあげていった。

 まだ、貴族名鑑の更新はされていない。
 ワルイオスには朗報であると周囲からは賛辞が送られるのだが、当人に至っては胃の痛くなる話だった。

 まだヒルダの入学が控えているが、どう転んでもヨルダの実績を上回る未来が見えなかったのだ。
 もう、魔力量でどうこうなる話ではなくなっていた。
 
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