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【藤本要編】偽物令嬢ヨルダ=ヒュージモーデン
要人襲撃
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「全く、陛下にも困ったものだ」
ソートはうんざりとしたようにぼやいた。
「どんなお話をされたんです?」
王宮魔導士長の子息であるオメガがソートに尋ねた。
「隣国が難癖をつけにきたから、気をつけろと」
「隣国というと?」
「ザイオンらしい。第七子が商人の商品の中に混ざっていたのだと言いがかりをつけられた。謁見は時間稼ぎ。すでに何人かの密偵が話を穏便に進めるために用心の誘拐をしているんだってさ」
「普通にソート様の身を案じておられるのですよ」
とは言っても、俺のレベルは50だぜ?
世界の広さを知らぬソート。
オメガは眼鏡の縁をクイっとあげながらメガネを光らせる。
「なんにせよ、警戒は強める必要があるでしょう」
「お前までそんなことを言うのか? 心配しすぎだって。そんな奴ら、返り討ちにしてやるぜ!」
ソートは剣を振るうポーズを取った。
オメガは万全を期すに越したことはないと締め括る。
ソートは昔からの付き合いながら、オメガのこう言う生真面目なところに対して馬が合わないと感じている。
「あら、オメガ様。ご機嫌麗しゅう」
そこへ上機嫌のヨルダがカクティを連れて現れる。
王太子を前にして、最初に声をかけるのがオメガなのか? とソートは少し面白くなさそうな顔をした。
「ヨルダ様、ソート様の御前です」
「申し訳ございません、最近目が霞んでいまして。無視したわけではありませんのよ? ソート様、オメガ様。ご機嫌麗しゅう」
ボケボケでありながらもなんとか挨拶の形をとる。
安定の二日酔いである。
オメガ以外の周囲がぼやけている故の凡ミスだった。
こうしてカクティをそばにつけているのはそのためである。
安定しない視界のサポートだ。
そんなにフラフラなら授業休めば? と思うかもしれないだろうが。
これでも二限ほどバックれて、少し回復してきたので教室に向かうところだった。
「わざとだったら不敬であったぞ?」
「申し訳ございません。王族の方は眩し過ぎて視界で捉えるのが難しいのですわ」
「ふふん、そう言うことであるならば仕方がない。特別に許してやろう」
ヨルダはとってつけたような称賛を送った。
普段は周辺に女子生徒がいて、黄色い声をあげてるので聞き分けることができるのだが、今日は不思議と周囲に人がいない。
「カクティ様。普段からここはこのように人だかりが少なかったですか?」
「いえ?」
ヨルダが何かに気づいたのを即座に察するオメガ。
「何か異変を感じ取ったか? ヨルダ嬢」
「異変というものではありませんが……今日は随分と虫や鳥の声が聞こえないと思って」
確かにおかしいと言えばおかしい。
耳を澄ませるオメガは、腕を引くようにしてソートを下がらせる」
「ソート様、お手を」
「なんだというのだ?」
一人だけ訳がわからぬと言ったように手を引かれ、そしてさっきまでいた空間が斜めに切断される。
何もない空間から刃が浮き出て、それが引っ込められる。
すぐに襲撃だと察知するヨルダは、カクティに出番を与えた。
「カクティ様、結界を」
腐っても聖女である。
聖魔法は得意中の得意だった。
「カクティ=ケッツァーナが命じる。清浄なる源泉よ、我らに聖なる祝福を! ホーリーヴェール!」
しかし、見えない斬撃がカクティの張ったバリアを飴細工のように砕いていく。
あと数発もくらえば、ただの飾りだ。
「姿の見えぬ敵か。からくりは……そこか」
オメガの無詠唱魔術。
目敏く違和感の原因を突きつけての攻撃だったが、途中で何かに弾かれてしまった。
襲撃者のはなったものだろう。
ヨルダは拙いなとオメガと襲撃者の双方に気を向ける。
「あら、いけませんわオメガ様。そんな斬撃では相手に逃げ場を与えるようなものです」
特に何気なく、ヨルダが指を弾いた。
それだけで周囲に魔法陣が張り巡らされる。
その周囲の重力が何倍にもなったかのように錯覚する。
いや、錯覚ではない。
確かに周囲の建物に亀裂が入っている。
重力魔法だ。
ただの指パッチンで仕込んでみせたヨルダに対して称賛の声をあげるのはオメガだけだった。
ソートやカクティはヨルダが何をしたのかすら見抜けてない。
絶技の応酬による感覚の麻痺だ。
「さすがだな、ヨルダ嬢。そこまでの緻密な魔術構築、是非時間を設けて話し合いたいものだ」
「今はそれどころではありませんわよ、オメガ様」
「おっとそうだった」
オメガの打ち砕いた魔道具によって、姿をみせた謎の襲撃者。
そのものは地面にめり込む形で悔しそうにヨルダを見上げていた。
「獣の耳ですの?」
「陛下のおっしゃる通りだったか」
「どういうことですの?』
今日初めてその話を聞くヨルダは、どういうことだとソートに尋ねるのは不敬なのでオメガにそれとなく聞いた。
「かくかくしかじか。隣国が我が国に言いがかりをつけてきたようだ。その国の名が獣王国ザイオン。我らヒューマンとは異なる、ワービーストが住まう土地。当然全ての国民が獣の特徴を持つ」
「へぇ、これが」
ヒールの先で襲撃者を突くヨルダ。
「ヨルダ様、お行儀が悪いですよ」
「こんなに小さな子供が襲撃者?」
オメガが信じられないという顔をした。
襲撃者の背格好から察するに、10年は生きてないような姿である。
「お食事も満足にされてないようですわね」
「使い捨てということか。許せんな」
「相手の国はどんな国か詳しくお聞きしても?」
すっかり酔いが覚めた顔で、ヨルダはオメガに問いかけた。
その暗殺者に、かつての自分を重ねたのである。
「許せねぇよな」
「何かおっしゃいました?」
ぼそりと漏らした本音に、カクティだけが気がついた。
前を行く男二人はその子供の背景を気にする様子もない。
カクティもまた、捨て駒の少年兵に同情すら向けない。
命を狙ってきた相手だ。
情状酌量の余地なしということなのだろう。
それでも、ヨルダは見過ごせなかった。
ソートはうんざりとしたようにぼやいた。
「どんなお話をされたんです?」
王宮魔導士長の子息であるオメガがソートに尋ねた。
「隣国が難癖をつけにきたから、気をつけろと」
「隣国というと?」
「ザイオンらしい。第七子が商人の商品の中に混ざっていたのだと言いがかりをつけられた。謁見は時間稼ぎ。すでに何人かの密偵が話を穏便に進めるために用心の誘拐をしているんだってさ」
「普通にソート様の身を案じておられるのですよ」
とは言っても、俺のレベルは50だぜ?
世界の広さを知らぬソート。
オメガは眼鏡の縁をクイっとあげながらメガネを光らせる。
「なんにせよ、警戒は強める必要があるでしょう」
「お前までそんなことを言うのか? 心配しすぎだって。そんな奴ら、返り討ちにしてやるぜ!」
ソートは剣を振るうポーズを取った。
オメガは万全を期すに越したことはないと締め括る。
ソートは昔からの付き合いながら、オメガのこう言う生真面目なところに対して馬が合わないと感じている。
「あら、オメガ様。ご機嫌麗しゅう」
そこへ上機嫌のヨルダがカクティを連れて現れる。
王太子を前にして、最初に声をかけるのがオメガなのか? とソートは少し面白くなさそうな顔をした。
「ヨルダ様、ソート様の御前です」
「申し訳ございません、最近目が霞んでいまして。無視したわけではありませんのよ? ソート様、オメガ様。ご機嫌麗しゅう」
ボケボケでありながらもなんとか挨拶の形をとる。
安定の二日酔いである。
オメガ以外の周囲がぼやけている故の凡ミスだった。
こうしてカクティをそばにつけているのはそのためである。
安定しない視界のサポートだ。
そんなにフラフラなら授業休めば? と思うかもしれないだろうが。
これでも二限ほどバックれて、少し回復してきたので教室に向かうところだった。
「わざとだったら不敬であったぞ?」
「申し訳ございません。王族の方は眩し過ぎて視界で捉えるのが難しいのですわ」
「ふふん、そう言うことであるならば仕方がない。特別に許してやろう」
ヨルダはとってつけたような称賛を送った。
普段は周辺に女子生徒がいて、黄色い声をあげてるので聞き分けることができるのだが、今日は不思議と周囲に人がいない。
「カクティ様。普段からここはこのように人だかりが少なかったですか?」
「いえ?」
ヨルダが何かに気づいたのを即座に察するオメガ。
「何か異変を感じ取ったか? ヨルダ嬢」
「異変というものではありませんが……今日は随分と虫や鳥の声が聞こえないと思って」
確かにおかしいと言えばおかしい。
耳を澄ませるオメガは、腕を引くようにしてソートを下がらせる」
「ソート様、お手を」
「なんだというのだ?」
一人だけ訳がわからぬと言ったように手を引かれ、そしてさっきまでいた空間が斜めに切断される。
何もない空間から刃が浮き出て、それが引っ込められる。
すぐに襲撃だと察知するヨルダは、カクティに出番を与えた。
「カクティ様、結界を」
腐っても聖女である。
聖魔法は得意中の得意だった。
「カクティ=ケッツァーナが命じる。清浄なる源泉よ、我らに聖なる祝福を! ホーリーヴェール!」
しかし、見えない斬撃がカクティの張ったバリアを飴細工のように砕いていく。
あと数発もくらえば、ただの飾りだ。
「姿の見えぬ敵か。からくりは……そこか」
オメガの無詠唱魔術。
目敏く違和感の原因を突きつけての攻撃だったが、途中で何かに弾かれてしまった。
襲撃者のはなったものだろう。
ヨルダは拙いなとオメガと襲撃者の双方に気を向ける。
「あら、いけませんわオメガ様。そんな斬撃では相手に逃げ場を与えるようなものです」
特に何気なく、ヨルダが指を弾いた。
それだけで周囲に魔法陣が張り巡らされる。
その周囲の重力が何倍にもなったかのように錯覚する。
いや、錯覚ではない。
確かに周囲の建物に亀裂が入っている。
重力魔法だ。
ただの指パッチンで仕込んでみせたヨルダに対して称賛の声をあげるのはオメガだけだった。
ソートやカクティはヨルダが何をしたのかすら見抜けてない。
絶技の応酬による感覚の麻痺だ。
「さすがだな、ヨルダ嬢。そこまでの緻密な魔術構築、是非時間を設けて話し合いたいものだ」
「今はそれどころではありませんわよ、オメガ様」
「おっとそうだった」
オメガの打ち砕いた魔道具によって、姿をみせた謎の襲撃者。
そのものは地面にめり込む形で悔しそうにヨルダを見上げていた。
「獣の耳ですの?」
「陛下のおっしゃる通りだったか」
「どういうことですの?』
今日初めてその話を聞くヨルダは、どういうことだとソートに尋ねるのは不敬なのでオメガにそれとなく聞いた。
「かくかくしかじか。隣国が我が国に言いがかりをつけてきたようだ。その国の名が獣王国ザイオン。我らヒューマンとは異なる、ワービーストが住まう土地。当然全ての国民が獣の特徴を持つ」
「へぇ、これが」
ヒールの先で襲撃者を突くヨルダ。
「ヨルダ様、お行儀が悪いですよ」
「こんなに小さな子供が襲撃者?」
オメガが信じられないという顔をした。
襲撃者の背格好から察するに、10年は生きてないような姿である。
「お食事も満足にされてないようですわね」
「使い捨てということか。許せんな」
「相手の国はどんな国か詳しくお聞きしても?」
すっかり酔いが覚めた顔で、ヨルダはオメガに問いかけた。
その暗殺者に、かつての自分を重ねたのである。
「許せねぇよな」
「何かおっしゃいました?」
ぼそりと漏らした本音に、カクティだけが気がついた。
前を行く男二人はその子供の背景を気にする様子もない。
カクティもまた、捨て駒の少年兵に同情すら向けない。
命を狙ってきた相手だ。
情状酌量の余地なしということなのだろう。
それでも、ヨルダは見過ごせなかった。
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