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【ソルベ村】村に人が集まってきた
村で生活をする上で知っておくこと2
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「はーい、皆さんそこまで!」
洋一が全員にストップを掛ける。
すっかり汗だくだ。
最初から全力を出しすぎである。
中には、すっかり体力を使い果たしものまで出ている。
別に強制なんてしちゃいないのにだ。
「とりあえず農業体験はそこでおしまいにしてください。根を詰めすぎても後々に響きます。軽く休憩を挟んでから趣味の時間としましょう」
スラムの住民や騎士たちは「この村は畑の育成をするだけじゃなかったのか?」という顔で洋一を見た。
趣味の時間と聞いてすっかり勘違いしてしまったようである。
「趣味というのではですね、お腹は一杯にならないけど、心が満たされる。どれだけやっても飽きないもう一つの仕事を指します。要は特技ですね。俺の場合は料理なんかがそれに当たります。今ある材料で、どれだけ皆さんの笑顔を引き出すことができるか、それを趣味としてます」
例にギルバートの編み物、ロバートのパン作り、マチルダの服飾デザイン、ロウドの畜産などを挙げる。
これらは完全に彼らの趣味であり、本来この村を立ち上げた時にはなかったものである。
それぞれが畑を持ち、野菜を育てて税金として収める。それが本来の仕事である。
洋一はヨルダの鍛治や建築、水路工事は全部趣味でやってるだけだと付け足した。
この村では労働の対価に賃金が発生しない。
その代わり、趣味を極めた先に村に豊かさが加わる。
趣味を高く評価されることで村の中での信頼が築ける。
それが己の誇りとなる。
もちろん、今趣味がなくとも興味があればその人に弟子入りすることも可能だとした。
街に住んでいた頃の商売の続きをしたいというのなら助力しよう。
その助力のお礼は商売の結果で果たしてくれと洋一は皆に伝えた。
仕事である農業と趣味。
街ではそれぞれを仕事と例えてお金をもらっていただろうけど、ここではそれが分かれて日常の中に溶け込んでいることを順序立てて教える。
「なら俺はワインを作りたい。そのためのブドウやバケツはどうやったら手に入れられる?」
「いい質問です。葡萄は週に一度のキアラの祝福の祈りの際に願ってみてください。ワインのみならその願いは却下されるかもしれませんが、子供達にも何かしらの恩恵があるなら叶えられる可能性は高まります」
ここで、キアラという少女がどういう存在か軽く触れる。
本人がまだ子供であること。
そしてお酒を飲んで暴れる大人をよく思ってない事。
その原因であるお酒全般を憎んでいることを告げる。
洋一の弟子たちは何かしらそういうトラブルを抱えている。
なので、趣味を全うするのはいいが、村の子供に悪影響を与える可能性があるものは取り払われると促した。
「ワイン以外……というと干し葡萄か?」
「グレープジュースなんかもあるぞ?」
「それだけあれば十分でしょう。この村で飲めるものと言ったら水か豆を絞った豆乳ぐらいしかありませんから」
「おお!」
少しは救いの芽が出たのか、ワイン作りをしたい男の目が輝く。
「そしてバケツに関しましては、可能であるなら自分で作ってみてはどうですか? うちのヨルダに頼っても、結局納得いくものが出来上がる可能性は低いと思われます。どのような構造のものを欲してるかまで伝えないと、あの子は依頼を引き受けてくれないかもしれません。頼む時は必ず、最終的にどこがどうなって欲しいかまで求めないといけません。それは自分がおなじ頼まれ方をされたらわかるでしょう。ワインといっても赤と白で製作工程や最終形が変わってきますよね? なんでもいいからワインをくれといわれても困るのではないでしょうか?」
洋一は、ただヨルダに依頼するだけでは自分の求めてるものは完成しないと補足する。
確かに彼女はそっちに関してはスペシャリストだ。
この村の中で誰よりもそつなくこなすだろう。
だが、その道のプロというわけでもない。
全てが手探りで、長い時間をかけて培ったものだ。
そしてそれを極めたところで、腹の足しにはならない。
何しろその労働に対して賃金が発生しないからだ。
だから趣味。
自分の心を豊かにするための技術であるとする。
「なるほどな、だからこその趣味か。俺はそこを履き違えていたよ」
「すぐには納得できないかもしれません。長い作業になることでしょう。ですがワインを使った料理は俺もいくつか覚えがあります。飲む以外の活かし方が増えたら、賛同してくれる人は増えてくると思います」
「それ、今の段階じゃほぼ却下って言ってるようなもんじゃないか?」
「それは今後のあなた次第です。今の段階ではどういう人となりかまではわからないですからね。これからお互いを知っていきましょう」
「そりゃそうだ」
男は頭を掻きながら理解する。
ついうっかり自分の願望を通そうと思ったが、まだ自分がこの村にやってきて一日も経過してないことを思い出したみたいだ。
あまりにも自分達が優遇されてる事に疑問を抱かなくなったが故に出てきた慢心であろう。
今なら何でも通るという考えは甘えでしかない事に至ったら急に恥ずかしそうにしていた。
それからワイン作り以外にもいくつか提案が出る。
今すぐに全ての要望を叶えるのは難しそうだが、そのうち叶う可能性は高いだろうと確約させれば、全員の表情が安堵に包まれた。
心に余裕が生まれれば、希望が生まれる。
あとはその希望に向かって何が何でも生き延びるために労働に向かう。
これが本来あるべきの人の生き方だ。
社会に染まるのが悪いこととは言わないけど、それによって生まれる弊害に目をつぶれる人間はそう多くないものだと洋一は話を締め括った。
洋一が全員にストップを掛ける。
すっかり汗だくだ。
最初から全力を出しすぎである。
中には、すっかり体力を使い果たしものまで出ている。
別に強制なんてしちゃいないのにだ。
「とりあえず農業体験はそこでおしまいにしてください。根を詰めすぎても後々に響きます。軽く休憩を挟んでから趣味の時間としましょう」
スラムの住民や騎士たちは「この村は畑の育成をするだけじゃなかったのか?」という顔で洋一を見た。
趣味の時間と聞いてすっかり勘違いしてしまったようである。
「趣味というのではですね、お腹は一杯にならないけど、心が満たされる。どれだけやっても飽きないもう一つの仕事を指します。要は特技ですね。俺の場合は料理なんかがそれに当たります。今ある材料で、どれだけ皆さんの笑顔を引き出すことができるか、それを趣味としてます」
例にギルバートの編み物、ロバートのパン作り、マチルダの服飾デザイン、ロウドの畜産などを挙げる。
これらは完全に彼らの趣味であり、本来この村を立ち上げた時にはなかったものである。
それぞれが畑を持ち、野菜を育てて税金として収める。それが本来の仕事である。
洋一はヨルダの鍛治や建築、水路工事は全部趣味でやってるだけだと付け足した。
この村では労働の対価に賃金が発生しない。
その代わり、趣味を極めた先に村に豊かさが加わる。
趣味を高く評価されることで村の中での信頼が築ける。
それが己の誇りとなる。
もちろん、今趣味がなくとも興味があればその人に弟子入りすることも可能だとした。
街に住んでいた頃の商売の続きをしたいというのなら助力しよう。
その助力のお礼は商売の結果で果たしてくれと洋一は皆に伝えた。
仕事である農業と趣味。
街ではそれぞれを仕事と例えてお金をもらっていただろうけど、ここではそれが分かれて日常の中に溶け込んでいることを順序立てて教える。
「なら俺はワインを作りたい。そのためのブドウやバケツはどうやったら手に入れられる?」
「いい質問です。葡萄は週に一度のキアラの祝福の祈りの際に願ってみてください。ワインのみならその願いは却下されるかもしれませんが、子供達にも何かしらの恩恵があるなら叶えられる可能性は高まります」
ここで、キアラという少女がどういう存在か軽く触れる。
本人がまだ子供であること。
そしてお酒を飲んで暴れる大人をよく思ってない事。
その原因であるお酒全般を憎んでいることを告げる。
洋一の弟子たちは何かしらそういうトラブルを抱えている。
なので、趣味を全うするのはいいが、村の子供に悪影響を与える可能性があるものは取り払われると促した。
「ワイン以外……というと干し葡萄か?」
「グレープジュースなんかもあるぞ?」
「それだけあれば十分でしょう。この村で飲めるものと言ったら水か豆を絞った豆乳ぐらいしかありませんから」
「おお!」
少しは救いの芽が出たのか、ワイン作りをしたい男の目が輝く。
「そしてバケツに関しましては、可能であるなら自分で作ってみてはどうですか? うちのヨルダに頼っても、結局納得いくものが出来上がる可能性は低いと思われます。どのような構造のものを欲してるかまで伝えないと、あの子は依頼を引き受けてくれないかもしれません。頼む時は必ず、最終的にどこがどうなって欲しいかまで求めないといけません。それは自分がおなじ頼まれ方をされたらわかるでしょう。ワインといっても赤と白で製作工程や最終形が変わってきますよね? なんでもいいからワインをくれといわれても困るのではないでしょうか?」
洋一は、ただヨルダに依頼するだけでは自分の求めてるものは完成しないと補足する。
確かに彼女はそっちに関してはスペシャリストだ。
この村の中で誰よりもそつなくこなすだろう。
だが、その道のプロというわけでもない。
全てが手探りで、長い時間をかけて培ったものだ。
そしてそれを極めたところで、腹の足しにはならない。
何しろその労働に対して賃金が発生しないからだ。
だから趣味。
自分の心を豊かにするための技術であるとする。
「なるほどな、だからこその趣味か。俺はそこを履き違えていたよ」
「すぐには納得できないかもしれません。長い作業になることでしょう。ですがワインを使った料理は俺もいくつか覚えがあります。飲む以外の活かし方が増えたら、賛同してくれる人は増えてくると思います」
「それ、今の段階じゃほぼ却下って言ってるようなもんじゃないか?」
「それは今後のあなた次第です。今の段階ではどういう人となりかまではわからないですからね。これからお互いを知っていきましょう」
「そりゃそうだ」
男は頭を掻きながら理解する。
ついうっかり自分の願望を通そうと思ったが、まだ自分がこの村にやってきて一日も経過してないことを思い出したみたいだ。
あまりにも自分達が優遇されてる事に疑問を抱かなくなったが故に出てきた慢心であろう。
今なら何でも通るという考えは甘えでしかない事に至ったら急に恥ずかしそうにしていた。
それからワイン作り以外にもいくつか提案が出る。
今すぐに全ての要望を叶えるのは難しそうだが、そのうち叶う可能性は高いだろうと確約させれば、全員の表情が安堵に包まれた。
心に余裕が生まれれば、希望が生まれる。
あとはその希望に向かって何が何でも生き延びるために労働に向かう。
これが本来あるべきの人の生き方だ。
社会に染まるのが悪いこととは言わないけど、それによって生まれる弊害に目をつぶれる人間はそう多くないものだと洋一は話を締め括った。
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