上 下
39 / 94
【シータ編】派閥争いに負けた聖女

新しい村人

しおりを挟む
「新しい人が来る、ですか? この前やってきた商人関係の? え、それとはまた違う? はぁ……」

 突然村長ギルバートに呼び出された洋一は、今度新しく村に人が来るから歓迎の準備をして欲しいと話を受けていた。

 歓迎と言っても、春が明けてすぐのことである。
 冬の間にほとんどの備蓄は食べ尽くしてしまった。
 挽いた麦こそあるが、コッコの廃棄肉や鶏卵だけで歓迎会をするとなると、ずいぶんと小規模な宴になってしまうと告げた。

 ここに村の野菜なんかがあれば、ピザパーティでも実演するんだが、そういうのはすぐには出来そうもない。
 なんせ急な話だ。
 もっと早く伝えてくれたら、まだ準備はできたかもしれないのに。
 ギルバートも急に話が来て困っている感じだったので、洋一はそれ以上追求するのをやめた。

「最悪スープだけでも歓迎するよ。どうだろう?」
「恩義あるギルバートさんの頼みとあらばやぶさかではありません。出来るだけ盛大になるように努力しますよ。それはそうと畑の再開はいつ頃になりそうですか? 種などは取ってありますが、ウチだけ始めてしまうのもアレですし、こういうのは皆に倣って始めようと思いまして」

 新参が先達を追い越してはまずいだろうと先に確認を取る洋一。

「ヨルダちゃんが急かしているのかい?」
「厳密には、キアラの方ですね。パンの仕事が始まるまでは畑が主戦場ですので。ルディはもう厩舎に向かってますし、ヨルダは鍬などの農具のチェックなどで家にいないもんですから、暇を持て余してるのです」

 姉弟子たちが忙しくしてるのに、自分だけ手持ち無沙汰というのに納得がいってないのだろう。
 同年代にしてみたらしっかりしているが、それをここで言われてもなって感じだ。
 ここにいる限り、タダで飯が食える生活とはおさらばしてるのもある。

「そうだったか。小さいのにえらいね」
「ここでは年齢に関係せず、働かないと食事も得られませんからね。そう教えてますし、これから来る人にもそう接します」
「それで良い。ワシらとしても、特定の相手だけ優遇する真似も余裕もない」
「年貢の問題でしょうか?」
「ワシらにこれといったノルマなんぞないぞい? 通りがかりに強奪していく王国騎士団が居るくらいだ。あの方々にとっては、ワシらは畑の世話人くらいの感覚なのでしょう。国の畑を世話してる世話人。収穫物は全て国のもの。だから好きなだけ持っていく。ワシらが食っていけなくなっても、まるで気にしておらん」
「え、そうだったんですか?」
「言ってなかったかね?」

 初耳だ、と洋一は声を上げた。
 しかし同時に腑に落ちる。
 騎士団が根こそぎ収穫物を奪っていったという話は聞いていた。
 そして魔の森に近いこともあり、肥沃な土地であることも理解している。

 最初こそはすぐに収穫できるから、なんの問題もないと理解したが、そういうことではない。
 洋一は野菜を一から育てたことがないので、これが普通だとは思ってはいないが、確かに収穫までの時期は早く感じた。

 しかしそれは、きちんと世話をしたからだ。
 あれだけ手間暇をかけて作り上げた野菜や麦。
 それを根こそぎ奪っていかれたら、そのやるせなさときたら想像もできない。

 何せ自分たちの小さな畑ですら満足しているのだ。
 最初からそう言い聞かされたとしたって、納得はいかないと思う。
 話を聞いているだけだが、本格的に国と関わり合いになりたくないと感じる洋一だった。

「と、いうわけで。この村に新しい住人が来るそうだ。みんな、仲良くするように」
「どんな人?」
「詳しくはわからないんだ。ギルバートさんも詳しく聞いてないようでな。どうもこの村は成り立ちからしてよろしくないみたいだ。国にとって仇なす存在の行き着く場所、流刑地とでもいうのかな? 今度来る人もそういう類の人でね。仲良くできると良いが」
「ああ、やっぱり。ここはそういう村なんですね」

 ルディは妙に納得した心地で頷いた。

「お前、知ってたのか?」
「正確にはわからないよ。けどさ、前の村と明らかに雰囲気がおかしくなかった?」
「雰囲気ってーと?」
「村の人を守るための防衛設備があまりにもなさすぎた。まるでここで野垂れ死ぬのも目的の一つなんじゃないかとさえ思えた。自分で畑をやってみればわかっただろうけど、それを根こそぎ持っていかれても反論の声は一切上がらなかった。変だと思ったんだよ」
「つまり?」

 まだわかんないの? と言いたげな顔で、ルディは残酷な現実を話す。

「ここでは、村人に自由はないんだ。上からの命令に従い、死を待つだけの村。定員になるまでに人は長生きできず、闊歩するモンスターも魔の森から出てきた超強いやつばかりってことさ。自ら手は下さずとも、僕たちに死ねっていってるんだよ」
「ひでぇな」
「まったくだ。俺も胸糞が悪くなってきてる。だからこそ、みんなでそういう人にも優しくしていきたい。異論はあるか?」

 キアラが小さく挙手をした。

「どうした、キアラ」
「その人が、村の人に暴力を振るってきた場合も、優しくしたほうがいいの?」
「そうだなぁ。流石にこちらにも選ぶ権利がある。キアラが嫌だと思ったら、ちゃんと声を上げなさい。それでも多数決で決まったら、嫌わない努力をしてみたらどうだろう? 案外ぶっきらぼうで人に優しくするのを知らないで育ってきた人かもしれないしね」
「そっか。第一印象だけで決めちゃダメだよね」
「そうだな。他ならぬキアラが同じ目にあったらどうする?」
「嫌だ」

 髪の色をこの村では気にする人はいない。
 けど、新しく来る人はそうじゃないかもしれない。
 自衛手段も教えたほうがいいかもしれないと洋一は考え込む。

「だったら、キアラから打ち解けてやりなさい。騎士の人たちも、きっとまだこの村の素晴らしさを理解できてないだけさ」
「この村の素晴らしさってーと?」
「ご飯がうまい。あとは、ロバートさんやキアラが一生懸命に作ったパン、ロウドさんとルディの育てたコッコの卵なんか世界に誇れると思ってる。当然、農業や暮らしを支える大魔法使いヨルダの活躍も忘れてはならないだろう。つまりは、自分たちを誇れということだな」
「そんなんでいいんなら、任せてよ」
「うん、いっぱいこの村のいいところをアピールしなきゃ」
「キアラも、いっぱいアピールする!」
「よーし、そのためにも作戦会議だ。少ない素材で歓迎会をやらなきゃいけないからな。みんなで美味しい料理を振る舞ってやろうじゃないか」

 そういって聞かせてやれば、弟子たちも素直に頷いた。
 そして洋一はこうも思う。

 流刑地だのなんだのは、周りが勝手にいってることだ。
 だったらその場所を、自分たちからみて楽園に思えるくらいに作り変えてやれば、こんなものを作った相手を見返してやれるんじゃないか?
 そんな気がした。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

奇文修復師の弟子

赤星 治
ファンタジー
 作品に不思議な文字が出現し、やがて作品を破壊する現象・【奇文】。  奇文に塗れた作品の世界に入って解消する者達を奇文修復師と呼ぶ。  奇文修復師に憧れていた少年モルドは、デビッド=ホークスの弟子となって修復作業に励む。しかしある人物の出現からモルドは悍ましい計画に巻き込まれていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...