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【キアラ編】魔女の呪いを受けた少女
歓迎のお子様カレー
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キアラはやっぱり女の子だったようだ。
黒髪が忌み嫌われる集落で、迫害を受けて生きてきて。
母親と弟の面倒を見るためにもお金が欲しくて今回の移住に参加したようだ。
「髪色差別って結構あるのか?」
「金髪以外は劣等種族って言い回ってる貴族ならいる」
もぐもぐとハンバーグを頬張りながら、過去のことを思い返すようにヨルダが語る。
「生まれが良かっただけでそんなに偉そうにされちゃたまんないよ」
大好物の唐揚げをぱくつきながらもいまだに怒りが収まらないルディ。
「あ、あの。私は別に大丈夫ですから。その、慣れてますし」
「お前、ここの村に来たならもう大丈夫だからな! ここは身分や家柄、能力差、そして髪色で差別しない良い場所だ! それはここに住んでるオレが保証する」
ドンッと力強く胸を叩くヨルダに、ずっと堪えてきたであろう涙がついに決壊したキアラ。
「本当に、私なんかが、こんな立派な村に住んでも良いんですか? この髪色でご迷惑かけないでしょうか?」
「迷惑だなんてとんでもない。ですよね、お師匠様?」
なぜか弟子達に巻き込まれる形で、促された洋一観念するように頭を掻く。
もしここでためらえば、感情に出てしまう。
迫害を受けていたと聞いた。つまり他人の顔色を窺って生きていたと言うことだ。
それをされた過去がいくつも思い出され、だからこそはっきりと力強く応える。
「今までよく頑張ったね。今日から君はこの村の一員だ。わからないことがあったら聞きなさい。皆親身になって教えてくれるよ」
「はい、はい……ありがとうがざいまじゅ」
泣き疲れたのか寝入ってしまったキアラはヨルダたちに介抱されている。
自分たちよりも小さな子が、どこでどんな迫害を受けてきたのかその体につけられた傷跡を見ればわかる。
普段より強い結束で、守ろうと言う決意が二人の弟子の瞳から窺えた。
これで一件落着。
結局村の移住に成功したのはキアラだけだった。
他のは、わかりやすいくらいに悪態を並べて元きた道を帰っていった。
若いと言ってもすっかり街に染まった連中だ。
娯楽の少ないこんな田舎じゃ、早々に飽きが来たのだろう。
どちらにせよ、数日も持たなかった。
そんなわけでキアラの移住が決定した。
同世代の女子がいる方がいいだろう、住む場所はなぜか洋一たちの水車小屋に決定する。
事後報告である。
まぁ、今更二人が三人に増えたところでやることは変わらんかと洋一はそれを引き受けた。
後日、畑の世話をする前にヨルダがつきっきりで村の案内を始めた。
パン屋のロバートとの顔合わせは済んでるが、それ以外の住人とはまだだったようなので、気を利かせたのだろう。
ルディも普段なら付き合わないのに、今日は一緒に着いていく。
人の機微を察する子だ。
自分がやられたら嫌なことを率先してやらなかった。
せっかく迎え入れた住人と心の距離を開く真似をしたくなかったのだろう。
洋一は近隣動物の間引きをしながら、キアラや逞しく成長する弟子達にとっておきの料理をお披露目することを決意した。
「師匠、ただいまー」
「ただいま戻りました」
「おかえり二人とも。今日はご馳走を用意してるから楽しみにしてろよ?」
ヨルダが心配だったのか、ロバートのところに顔を出し、キアラを引き連れて帰宅する。
帰る家がある。迎えてくれる家族がある。
たったそれだけのことなのに、キアラは感極まって泣いてしまった。
涙もろい子だ、なんて思わない。
家族との愛情に飢えていたのだろう
両親や弟とどんな暮らしをしてきたのかは想像に難くない。
「へぇ、ご馳走だって! キアラ、楽しみだな?」
「もしかして白いパンが食べられるのでしょうか?」
「白いパンってロバートのおっちゃんのところの?」
「はい。まだ生地を触るところもできてませんし、出来上がったのを眺めるだけです。いつか口にしてみたいところですね」
「その願い、案外早く叶うかもしれないぜ?」
「そうなんですか?」
思った通り、願う夢が小規模だ。
もっといっぱい贅沢ができる、といっても想像だにできないんだろう。
人は、実際に体験したことしか想像力が働かないからな。
キアラもそうだ。
だからヨルダがヤキモキしている。
「ただいま帰りました、お師匠様」
「おかえり、ルディ」
「何やらいい香りですね。小屋の外まで匂ってきましたよ?」
「ご馳走だって! 師匠が楽しみにしてろっていってたぞ!」
「それは、また何が出てくるやら想像もできませんね」
洋一はこれまで弟子に食べさせてきたメニューを思い浮かべる。
ステーキ、ハンバーグ、干し肉入りスープ
ソーセージ、ムニエル、季節野菜のパスタ、天ぷら、唐揚げ(バリエーション)
ピザ、ホットドッグ、カツサンド、唐揚げドッグ
どれも脂っこくて、力がみなぎるメニューだ。
だが、ここらでかき集めた香辛料を生かすときではないか?
そう考えた洋一が選んだのはカレーだった。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎに該当する野菜は確保してある。
あとはスパイスだが、この前こぞってやってきた商人たちの交渉道具にそれらしいものを発見、取引に成功した。
納得のいくカレースパイスがなかなかできなかったが、別に完璧じゃなくたっていいじゃないか。
この世界にはこの世界の食べ方がある。
そう考えた洋一は、ほんのり辛さを抑えた野菜を加えて甘みのあるお子様カレーを作った。
果実の類もたくさん用立てた。
たくさん購入しすぎて扱いに困るところだったが、ここらで一気に消化してしまうのも手だ。
じっくりと煮込まれた野菜に出汁と炒めたカレースパイスを投入して混ぜ合わせる。
ジャガイモから溶け出した澱粉質がねっとりとしたとろみを加え、パンによく絡むよう調整した。
ここは食べ慣れてない麦飯よりもパンだろう。
中でも弟子の二人がパン工房に従事してると言うのもある。
だが、一人だけ仲間はずれにしてしまうのも嫌な予感がした洋一は具はコッコ肉、トッピングにゆで卵を添えた。
皿に配膳し、皆の前に出す。
テーブルの中央にはバゲット。
事前に切り込みを入れてあるので、食べる際には染み込ませて口に運ぶことを事前に説明した。
「すげー、いい香り!」
「初めて見る食べ物です。これはなんて言う食べ物なんですか?」
「一応はオリジナルだが、俺の国ではカレーと言われている料理だ。本当はもっと辛みを強調させてるし、合わせるのはまた違うものだが、今ある材料からではこれが限界だった。具材はスープに溶け出してあるし、ほんのりとした辛味が肌寒くなる今の時期にちょうどいいと思ってな」
「すごく、お腹の空く香りです」
「さて、おかわりはまだまだいっぱいある。味わって食べるんだぞ?」
「「「いっただっきまーす」」」
「え、いた? だきましゅ」
食事をいただく前の作法をみっちり叩き込んでおいたので、洋一と弟子はいつもの調子で叫ぶ。
一泊遅れてキアラが作法を真似て、周囲が感嘆の声を上げるのをみて、意を決して道なる料理に挑む。
「ふぁ……わぁ!」
瞳を輝かせながら、キアラは柔らかくちぎれるパンに感動し、そしてパンに染み込んだ濃厚で独特の旨みが特徴的なカレーのあじわいに驚愕した。
「う、ふぅ……」
感極まって泣き出すキアラに、どうしたものかと慌てる三人。
「ごめんなさい、私涙脆くて。こんな料理、食べたことなくて。できることなら、お母さんや弟にも食べさせてあげたいなって、思って。ただでさえご迷惑をおかけしてるのに、そんな身勝手ことを思ってしまって……」
「別にそれくらいなら全然だよ、なぁ師匠?」
「親御さんたちはこちらに来れない事情でもあるのかな?」
キアラは首を横に振るばかりで詳しい事情を話してくれない。
ただ、糧を得られたことに感謝しながら、感情を押し流すように泣いた。
結局その日はキアラから詳しい事情は聞き出せず、翌日を迎える。
「このカレー、パンに入れたら絶対美味いと思うんだけど。どう思う師匠?」
「美味いかもしれないが液状だぞ? 絶対に滲み出る。持ち歩くのには適さないな」
「うおー、これも村のみんなにも食べさせてやりてー!」
「そんなに気に入ったか」
「唐揚げの次にな」
「トップは塗り替えられなかったか、残念だ」
「やっぱ外で食えるかどうかの利便性で一歩劣るかな?」
贅沢な悩みである。
だが、ヨルダらしいなと思う洋一だった。
対照的にルディは最高評価を入れていた。
やはり決め手はコッコ肉だろう。
持ち歩きには拘らない彼女らしい採決方法だ。
あんまり刺激物を厩舎に持ち込むのは御法度なので、そう言う意味でもカレーは家で食うものとしたいらしい。
キアラからは美味しいとだけ感想をもらった。
他に比べられる食事が思いつかないと言うのもあるが、洋一はそんな感想しか抱けない新弟子に、これからもどんどん塗り替えてやろうと言う気持ちが湧いてきた。
黒髪が忌み嫌われる集落で、迫害を受けて生きてきて。
母親と弟の面倒を見るためにもお金が欲しくて今回の移住に参加したようだ。
「髪色差別って結構あるのか?」
「金髪以外は劣等種族って言い回ってる貴族ならいる」
もぐもぐとハンバーグを頬張りながら、過去のことを思い返すようにヨルダが語る。
「生まれが良かっただけでそんなに偉そうにされちゃたまんないよ」
大好物の唐揚げをぱくつきながらもいまだに怒りが収まらないルディ。
「あ、あの。私は別に大丈夫ですから。その、慣れてますし」
「お前、ここの村に来たならもう大丈夫だからな! ここは身分や家柄、能力差、そして髪色で差別しない良い場所だ! それはここに住んでるオレが保証する」
ドンッと力強く胸を叩くヨルダに、ずっと堪えてきたであろう涙がついに決壊したキアラ。
「本当に、私なんかが、こんな立派な村に住んでも良いんですか? この髪色でご迷惑かけないでしょうか?」
「迷惑だなんてとんでもない。ですよね、お師匠様?」
なぜか弟子達に巻き込まれる形で、促された洋一観念するように頭を掻く。
もしここでためらえば、感情に出てしまう。
迫害を受けていたと聞いた。つまり他人の顔色を窺って生きていたと言うことだ。
それをされた過去がいくつも思い出され、だからこそはっきりと力強く応える。
「今までよく頑張ったね。今日から君はこの村の一員だ。わからないことがあったら聞きなさい。皆親身になって教えてくれるよ」
「はい、はい……ありがとうがざいまじゅ」
泣き疲れたのか寝入ってしまったキアラはヨルダたちに介抱されている。
自分たちよりも小さな子が、どこでどんな迫害を受けてきたのかその体につけられた傷跡を見ればわかる。
普段より強い結束で、守ろうと言う決意が二人の弟子の瞳から窺えた。
これで一件落着。
結局村の移住に成功したのはキアラだけだった。
他のは、わかりやすいくらいに悪態を並べて元きた道を帰っていった。
若いと言ってもすっかり街に染まった連中だ。
娯楽の少ないこんな田舎じゃ、早々に飽きが来たのだろう。
どちらにせよ、数日も持たなかった。
そんなわけでキアラの移住が決定した。
同世代の女子がいる方がいいだろう、住む場所はなぜか洋一たちの水車小屋に決定する。
事後報告である。
まぁ、今更二人が三人に増えたところでやることは変わらんかと洋一はそれを引き受けた。
後日、畑の世話をする前にヨルダがつきっきりで村の案内を始めた。
パン屋のロバートとの顔合わせは済んでるが、それ以外の住人とはまだだったようなので、気を利かせたのだろう。
ルディも普段なら付き合わないのに、今日は一緒に着いていく。
人の機微を察する子だ。
自分がやられたら嫌なことを率先してやらなかった。
せっかく迎え入れた住人と心の距離を開く真似をしたくなかったのだろう。
洋一は近隣動物の間引きをしながら、キアラや逞しく成長する弟子達にとっておきの料理をお披露目することを決意した。
「師匠、ただいまー」
「ただいま戻りました」
「おかえり二人とも。今日はご馳走を用意してるから楽しみにしてろよ?」
ヨルダが心配だったのか、ロバートのところに顔を出し、キアラを引き連れて帰宅する。
帰る家がある。迎えてくれる家族がある。
たったそれだけのことなのに、キアラは感極まって泣いてしまった。
涙もろい子だ、なんて思わない。
家族との愛情に飢えていたのだろう
両親や弟とどんな暮らしをしてきたのかは想像に難くない。
「へぇ、ご馳走だって! キアラ、楽しみだな?」
「もしかして白いパンが食べられるのでしょうか?」
「白いパンってロバートのおっちゃんのところの?」
「はい。まだ生地を触るところもできてませんし、出来上がったのを眺めるだけです。いつか口にしてみたいところですね」
「その願い、案外早く叶うかもしれないぜ?」
「そうなんですか?」
思った通り、願う夢が小規模だ。
もっといっぱい贅沢ができる、といっても想像だにできないんだろう。
人は、実際に体験したことしか想像力が働かないからな。
キアラもそうだ。
だからヨルダがヤキモキしている。
「ただいま帰りました、お師匠様」
「おかえり、ルディ」
「何やらいい香りですね。小屋の外まで匂ってきましたよ?」
「ご馳走だって! 師匠が楽しみにしてろっていってたぞ!」
「それは、また何が出てくるやら想像もできませんね」
洋一はこれまで弟子に食べさせてきたメニューを思い浮かべる。
ステーキ、ハンバーグ、干し肉入りスープ
ソーセージ、ムニエル、季節野菜のパスタ、天ぷら、唐揚げ(バリエーション)
ピザ、ホットドッグ、カツサンド、唐揚げドッグ
どれも脂っこくて、力がみなぎるメニューだ。
だが、ここらでかき集めた香辛料を生かすときではないか?
そう考えた洋一が選んだのはカレーだった。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎに該当する野菜は確保してある。
あとはスパイスだが、この前こぞってやってきた商人たちの交渉道具にそれらしいものを発見、取引に成功した。
納得のいくカレースパイスがなかなかできなかったが、別に完璧じゃなくたっていいじゃないか。
この世界にはこの世界の食べ方がある。
そう考えた洋一は、ほんのり辛さを抑えた野菜を加えて甘みのあるお子様カレーを作った。
果実の類もたくさん用立てた。
たくさん購入しすぎて扱いに困るところだったが、ここらで一気に消化してしまうのも手だ。
じっくりと煮込まれた野菜に出汁と炒めたカレースパイスを投入して混ぜ合わせる。
ジャガイモから溶け出した澱粉質がねっとりとしたとろみを加え、パンによく絡むよう調整した。
ここは食べ慣れてない麦飯よりもパンだろう。
中でも弟子の二人がパン工房に従事してると言うのもある。
だが、一人だけ仲間はずれにしてしまうのも嫌な予感がした洋一は具はコッコ肉、トッピングにゆで卵を添えた。
皿に配膳し、皆の前に出す。
テーブルの中央にはバゲット。
事前に切り込みを入れてあるので、食べる際には染み込ませて口に運ぶことを事前に説明した。
「すげー、いい香り!」
「初めて見る食べ物です。これはなんて言う食べ物なんですか?」
「一応はオリジナルだが、俺の国ではカレーと言われている料理だ。本当はもっと辛みを強調させてるし、合わせるのはまた違うものだが、今ある材料からではこれが限界だった。具材はスープに溶け出してあるし、ほんのりとした辛味が肌寒くなる今の時期にちょうどいいと思ってな」
「すごく、お腹の空く香りです」
「さて、おかわりはまだまだいっぱいある。味わって食べるんだぞ?」
「「「いっただっきまーす」」」
「え、いた? だきましゅ」
食事をいただく前の作法をみっちり叩き込んでおいたので、洋一と弟子はいつもの調子で叫ぶ。
一泊遅れてキアラが作法を真似て、周囲が感嘆の声を上げるのをみて、意を決して道なる料理に挑む。
「ふぁ……わぁ!」
瞳を輝かせながら、キアラは柔らかくちぎれるパンに感動し、そしてパンに染み込んだ濃厚で独特の旨みが特徴的なカレーのあじわいに驚愕した。
「う、ふぅ……」
感極まって泣き出すキアラに、どうしたものかと慌てる三人。
「ごめんなさい、私涙脆くて。こんな料理、食べたことなくて。できることなら、お母さんや弟にも食べさせてあげたいなって、思って。ただでさえご迷惑をおかけしてるのに、そんな身勝手ことを思ってしまって……」
「別にそれくらいなら全然だよ、なぁ師匠?」
「親御さんたちはこちらに来れない事情でもあるのかな?」
キアラは首を横に振るばかりで詳しい事情を話してくれない。
ただ、糧を得られたことに感謝しながら、感情を押し流すように泣いた。
結局その日はキアラから詳しい事情は聞き出せず、翌日を迎える。
「このカレー、パンに入れたら絶対美味いと思うんだけど。どう思う師匠?」
「美味いかもしれないが液状だぞ? 絶対に滲み出る。持ち歩くのには適さないな」
「うおー、これも村のみんなにも食べさせてやりてー!」
「そんなに気に入ったか」
「唐揚げの次にな」
「トップは塗り替えられなかったか、残念だ」
「やっぱ外で食えるかどうかの利便性で一歩劣るかな?」
贅沢な悩みである。
だが、ヨルダらしいなと思う洋一だった。
対照的にルディは最高評価を入れていた。
やはり決め手はコッコ肉だろう。
持ち歩きには拘らない彼女らしい採決方法だ。
あんまり刺激物を厩舎に持ち込むのは御法度なので、そう言う意味でもカレーは家で食うものとしたいらしい。
キアラからは美味しいとだけ感想をもらった。
他に比べられる食事が思いつかないと言うのもあるが、洋一はそんな感想しか抱けない新弟子に、これからもどんどん塗り替えてやろうと言う気持ちが湧いてきた。
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