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第四部 そして剥がれ落ちる

中ボスの彼女が知った真実

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目の前で 、鮮やかな緑に変わってゆく世界の方よりも

今、目の前でヴァルデ様に言われた事実の方へ意識が向かってしまう。

"あちらの世界のウィルミナを、連れて来る時に、近くにいた貴方達を巻き込んでしまったの。"

……って、は??

おい待て、ちょっと待て、それ貰い事故って言わねぇか?
横でフロルちゃんも「え?は?え?」と
言っている。

ヴァルデ様は、そんな俺達に

「だって貴方達、死んだ記憶ある?」

と聞いてきた、確かに死んだ覚えは無い…無いが、職業柄有りうると思っていた。

横でフロルちゃんも

「あ…そういえば無い…けど、そう言うものかなって…えええ。」

2人揃って同じって同じ考えぇぇ

そんな俺達をヴァルデ様は、少し微笑ましそうに見ながら

「じゃあ、前の世界の最後の記憶は?…もう思い出せるはずよ?」

そう言われて、試しに思い出してみる
あの世界の最後の記憶



…あの日、久しぶりに帰って来た弟と、たまには外で飲もうと街へ出た。

その時、凄い悲鳴が聞こえて半ば無意識に、人だかりの中に割って入って行った

そこには、男に馬乗りになって殴りまくってる女性?と、その横で腹にから血を流して倒れてる男性だった。

「おい!」

と、隣の弟に声をかけ走り出す。
目の端で、弟が2人を離すのを見ながら
俺は、目の前の男性の容態を見る。

弟もすぐに、こちらに来て男性の様子を確認しながら 、スマホを取り出し救急車を呼ぼうとしていた。

そこで、記憶は終わっている

ああ…つまり

「あの男性が、ウィルミナ様だった?」

ヴァルデ様はこくりと頷き

「あの瞬間、あの子の命が消える前に、こちらの世界に無理矢理引き込んだの …それで、勢いが強すぎたみたいで…。」

ごめんね?と謝るヴァルデ様を尻目に、横のフロルちゃんと目を合わせる。

どうやら、思い出したフロルちゃんは、俺を見ると「…兄ちゃん?」と言った。

「お前かよおおお!!」

そうだったわ!俺の弟自衛官だったわ!

んでもって俺に「under.the.Rose」を教えたっつーか、萌え語り延々としてたのお前だったわ!
それよりも、弟だって気が付かなかったの、地味にショックなんだけど!

頭を抱える俺に、ヴァルデ様はおずおずと話を続ける

「貴方達が、思い出さない様に記憶を曇らせてたから…。気に病まないで?」

「ご…ごめんね?それで…あのもう1つ言わなきゃいけない事があってね?」

これ以上に何が?とノロノロ顔を上げると

「ルル、来てくれる?」

そう言って宙に手を差し伸べると、ウィルミナ様の弟ルル様が、いつの間にかヴァルデ様に抱かれてそこにいた。

それを見た、フロルちゃんが「え?誰?」
と言うので 

「去年生まれた、ウィルミナ様の弟。」

と説明すると

「は?ありえないでしょ、そんな名前のキャラ、元のゲームにはいなかったよ?」

と言われた、言われて見ればそうだ
元々の世界の時間軸で、この世界がヴァルデ様の精神世界なら、ウィルミナ様の"お父様"はもう亡くなっている。
"弟"が出来る筈は無いのだ

ヴァルデ様も、その言葉を引き継ぐ様に、説明を続ける

「ええ、この子はウィルミナの弟では無いわ、この子は…マルガレーテちゃん。」

え?ちょっと待って

「…この子は、マルガレーテちゃんをずっと護っていた魂、貴方と一緒にこちらへ引き込んじゃった、もう一人の子。」

待って、待ってくれ

「貴方達と違って、あちらの世界でも魂だけの状態だったから、下手にいじるのも怖くて。」

"そいつ"に何かしてみろ絶対に許さない

「…だから 、"私の夫を殺した"ドラゴンの宝玉を依代にして保護したの、そしたら赤ちゃんの姿になって…。」

「すみません!女神か?!ありがとうございます!!」

思わず叫んで、スライディング土下座した
そんな俺に

「あにち、げんちんしゅぎ。」

舌足らずに罵倒された 、ああダメだ声をかけられて、色々決壊した

「~っっだってっだっておまぇさぁ~っ」

こんなの無理だ、冷静に受け止められる訳が無い、いきなり泣き出した俺に、フロルちゃんが

「え?誰??」

と、暢気に聞いて来たので

「お前のもう一人の兄ちゃんだよ!」

つい怒鳴ってしまった。

「あにち、おとおと、おこりゅの 、め」

また怒られたって言うか、お前ずっと一緒にいたのかよ、いてくれてたのかよ

「いたよぉ。」

そう言って、にぱぁと笑う顔は、記憶の中のあいつの笑顔そのままだった。
ヴァルデ様から受け取り、そっと抱きしめる、まさかこんな奇跡が起こる何て思っても見なかった。

ヴァルデ様が、そんな俺達を見ながら

「ルルちゃんね、最初から凄く魔力の使い方が上手かったの、魔力のリソースを渡しただけで、身体を作っちゃうんだもの、びっくりしたわ。」

マジか、すげぇな俺の弟

「ありぇは、もちょのもちぬちが、ゆじゅっちぇくりぇたの。」

いやそれでも凄ェわお前、ラノベのチート主人公並だわ、そんな風に感心していたらクイっと服を引っ張られた

「あにょね」

俺の顔を見ながら、遠慮がちに言う

「うん?」

「あのひ、にげるのしっぱいしちゃって、ごめんね?」

涙腺崩壊、再び、もうダメ

「もうお前が今生きてるなら、良いよぉおおおお!!」

そんな俺を見て、フロルちゃんこと、弟は

「兄貴のそんな泣き顔、初めて見たわ。」

とか言いやがった、てめぇ覚えてろよ…。
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