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囚われのお姫様を救う者

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「わたしは物じゃない! 四鬼さんも美雪さんも、柊先生だってあなたの道具じゃない!」

 悔しくて叫んでいた。

「残念だが、感情論では一族を率いていけない。私とて一族の駒だ」

 淡々とシャーベットを消費してから、当主はグラスを飲み干す。わたしの怒りを受け止めず、否定や肯定もしない。そのうえ話題を移す。

「さて、上に部屋をとってある。行こうか」

「は?」

「まだ子を成す予定はないが、姫が誰の物なのか、はっきりさせよう」

「わたしは物じゃ……」

「何度も言わせないでおくれ。我々が生きていくには感情だけでは駄目なのだよ。姫には四鬼の立派な跡継ぎを産む義務がある」

「跡継ぎなら四鬼さんがいます!」

「人との間にもうけた千秋、鬼姫が授ける子、一族の長としてどちらが相応しいのか。父親の私にあえて言わせるのかい?」

 話が通じない。給仕が当主の椅子を引くと、ふぁさり、紙ナプキンを床へ落として踏みつけた。まるでこれまで他者を踏みにじって生きてきたように。

「嫌、あなただけは嫌!」

 離席を試みたが、あっさり当主に捕まった。

「嫌いで結構。千秋が稀なだけで、私の父親、祖父とて鬼姫に懸想を抱いてなどいなかったからな」

「……だから、わたしはあなた達の代では姿を表さなかったのね」

「そうかもしれない。だが、現れた以上は一族の役に立って貰おう。それが約束だ、鬼姫」

「離して、触らないで!」

 力を加減せず当主を振り払う。と、甘い香りを濃くしてきた。

 かつて鬼姫であった者等は口を揃え、わたしにこう教えた。

【歴代の鬼姫は四鬼の花嫁となり幸せになれた。桜子、運命を違わないで。約束された結婚だけがあなたを幸せにするわ】

 約束された結婚、約束された幸せ。これが呪い似た願いだと気付く。
 確かに幸せな結婚になれた事もあったのだろう。四鬼の花婿を愛し、愛される運命が心地良かったんだろう。けれども当主の態度はどうだ? 鬼姫を子供を産む道具にしか見ていないじゃないか。

 時を経て、擦り切れて薄っぺらくなった誓い、わたしはいつまで縋り続けなきゃならないの?

「ーーそっか、わたしは待っているんじゃなく探しに行ったのね」

「? 何だ? 何がおかしい?」

「わたしは桜の木の下で四鬼さんが迎えに来てくれるのをずっと、ずっと待っていた。そこに浅見桜子が来たの」

 本物の浅見桜子は桜をスケッチしに来て、わたしが見えていた。待ち人の話を打ち明けると彼女は早く来るといいねと言い、筆を走らす。

「自由に動く筆を眺めているうち、完成した絵が見てみたいと思った」

 浅見桜子は繋がれていた約束から踏み出せる切っ掛けをくれた。

「下らない昔話なぞ、付き合っている暇はないーーっ!」

 わたしはテーブルへ手を伸ばし、グラスの中身を当主に浴びせた。隙きをつき駆け出そうとする。
 が、すぐさま床に押し付けられていた。
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