107 / 119
囚われのお姫様を救う者
1
しおりを挟む
「わたしは物じゃない! 四鬼さんも美雪さんも、柊先生だってあなたの道具じゃない!」
悔しくて叫んでいた。
「残念だが、感情論では一族を率いていけない。私とて一族の駒だ」
淡々とシャーベットを消費してから、当主はグラスを飲み干す。わたしの怒りを受け止めず、否定や肯定もしない。そのうえ話題を移す。
「さて、上に部屋をとってある。行こうか」
「は?」
「まだ子を成す予定はないが、姫が誰の物なのか、はっきりさせよう」
「わたしは物じゃ……」
「何度も言わせないでおくれ。我々が生きていくには感情だけでは駄目なのだよ。姫には四鬼の立派な跡継ぎを産む義務がある」
「跡継ぎなら四鬼さんがいます!」
「人との間にもうけた千秋、鬼姫が授ける子、一族の長としてどちらが相応しいのか。父親の私にあえて言わせるのかい?」
話が通じない。給仕が当主の椅子を引くと、ふぁさり、紙ナプキンを床へ落として踏みつけた。まるでこれまで他者を踏みにじって生きてきたように。
「嫌、あなただけは嫌!」
離席を試みたが、あっさり当主に捕まった。
「嫌いで結構。千秋が稀なだけで、私の父親、祖父とて鬼姫に懸想を抱いてなどいなかったからな」
「……だから、わたしはあなた達の代では姿を表さなかったのね」
「そうかもしれない。だが、現れた以上は一族の役に立って貰おう。それが約束だ、鬼姫」
「離して、触らないで!」
力を加減せず当主を振り払う。と、甘い香りを濃くしてきた。
かつて鬼姫であった者等は口を揃え、わたしにこう教えた。
【歴代の鬼姫は四鬼の花嫁となり幸せになれた。桜子、運命を違わないで。約束された結婚だけがあなたを幸せにするわ】
約束された結婚、約束された幸せ。これが呪い似た願いだと気付く。
確かに幸せな結婚になれた事もあったのだろう。四鬼の花婿を愛し、愛される運命が心地良かったんだろう。けれども当主の態度はどうだ? 鬼姫を子供を産む道具にしか見ていないじゃないか。
時を経て、擦り切れて薄っぺらくなった誓い、わたしはいつまで縋り続けなきゃならないの?
「ーーそっか、わたしは待っているんじゃなく探しに行ったのね」
「? 何だ? 何がおかしい?」
「わたしは桜の木の下で四鬼さんが迎えに来てくれるのをずっと、ずっと待っていた。そこに浅見桜子が来たの」
本物の浅見桜子は桜をスケッチしに来て、わたしが見えていた。待ち人の話を打ち明けると彼女は早く来るといいねと言い、筆を走らす。
「自由に動く筆を眺めているうち、完成した絵が見てみたいと思った」
浅見桜子は繋がれていた約束から踏み出せる切っ掛けをくれた。
「下らない昔話なぞ、付き合っている暇はないーーっ!」
わたしはテーブルへ手を伸ばし、グラスの中身を当主に浴びせた。隙きをつき駆け出そうとする。
が、すぐさま床に押し付けられていた。
悔しくて叫んでいた。
「残念だが、感情論では一族を率いていけない。私とて一族の駒だ」
淡々とシャーベットを消費してから、当主はグラスを飲み干す。わたしの怒りを受け止めず、否定や肯定もしない。そのうえ話題を移す。
「さて、上に部屋をとってある。行こうか」
「は?」
「まだ子を成す予定はないが、姫が誰の物なのか、はっきりさせよう」
「わたしは物じゃ……」
「何度も言わせないでおくれ。我々が生きていくには感情だけでは駄目なのだよ。姫には四鬼の立派な跡継ぎを産む義務がある」
「跡継ぎなら四鬼さんがいます!」
「人との間にもうけた千秋、鬼姫が授ける子、一族の長としてどちらが相応しいのか。父親の私にあえて言わせるのかい?」
話が通じない。給仕が当主の椅子を引くと、ふぁさり、紙ナプキンを床へ落として踏みつけた。まるでこれまで他者を踏みにじって生きてきたように。
「嫌、あなただけは嫌!」
離席を試みたが、あっさり当主に捕まった。
「嫌いで結構。千秋が稀なだけで、私の父親、祖父とて鬼姫に懸想を抱いてなどいなかったからな」
「……だから、わたしはあなた達の代では姿を表さなかったのね」
「そうかもしれない。だが、現れた以上は一族の役に立って貰おう。それが約束だ、鬼姫」
「離して、触らないで!」
力を加減せず当主を振り払う。と、甘い香りを濃くしてきた。
かつて鬼姫であった者等は口を揃え、わたしにこう教えた。
【歴代の鬼姫は四鬼の花嫁となり幸せになれた。桜子、運命を違わないで。約束された結婚だけがあなたを幸せにするわ】
約束された結婚、約束された幸せ。これが呪い似た願いだと気付く。
確かに幸せな結婚になれた事もあったのだろう。四鬼の花婿を愛し、愛される運命が心地良かったんだろう。けれども当主の態度はどうだ? 鬼姫を子供を産む道具にしか見ていないじゃないか。
時を経て、擦り切れて薄っぺらくなった誓い、わたしはいつまで縋り続けなきゃならないの?
「ーーそっか、わたしは待っているんじゃなく探しに行ったのね」
「? 何だ? 何がおかしい?」
「わたしは桜の木の下で四鬼さんが迎えに来てくれるのをずっと、ずっと待っていた。そこに浅見桜子が来たの」
本物の浅見桜子は桜をスケッチしに来て、わたしが見えていた。待ち人の話を打ち明けると彼女は早く来るといいねと言い、筆を走らす。
「自由に動く筆を眺めているうち、完成した絵が見てみたいと思った」
浅見桜子は繋がれていた約束から踏み出せる切っ掛けをくれた。
「下らない昔話なぞ、付き合っている暇はないーーっ!」
わたしはテーブルへ手を伸ばし、グラスの中身を当主に浴びせた。隙きをつき駆け出そうとする。
が、すぐさま床に押し付けられていた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
男装の公爵令嬢ドレスを着る
おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。
双子の兄も父親の騎士団に所属した。
そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。
男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。
けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。
「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」
「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」
父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。
すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。
※暴力的描写もたまに出ます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる