66 / 119
好きな鬼を選べばいい
5
しおりを挟む
「噛む? それはいけません、可愛いあなたに痛い思いをさせてしまう。どうせなら気持ち良い方が良いでしょうに」
「気持ち良いって、そんな……」
「恥ずかしがらなくていいですよ。そんなあなたも悪くありませんが」
とろんと蕩けた瞳にいつもの理性が伺えない。先生の唇が袖のホックを外してきて、貧弱な腕が晒された。
「白くて華奢で傷1つもない綺麗な肌。簡単に折れそうです。ほら」
ぐっと指が食い込み、骨が軋む。
「痛い、です。離して……」
「ちょっかい出したつもりが本気になってしまいました。鬼姫には惑わされまいとたかを括ってましたが、やはりあなたは魅力的だ」
「痛いです! 先生、離して下さい!」
「泣いてもいいですよ? そういうのも悪くない」
このままでは本当に折れてしまうかもしれない。凄い力だ。先生が鬼の性に囚われているのは明らかで力加減を忘れている。
「やめて! 触らないで!」
そしてスカートの上から腿を撫でられそうになり、頬を叩いてしまった。これが先生を更に焚き付ける。
「こういう場面で抗うと悪い男はぞくぞくするんですよ?」
「ひ、柊先生」
「先生呼びも煽るだけ。いえ、あなたは存在するだけで私達を煽る」
わたしの髪を1筋、手に取ると口元へ寄せる。
「キレイな黒髪」
次は顎をくいっと上げられた。
「整った顔立ち。それからーー」
まるでわたしを確認する作業に、どっどっど、鼓動が早まる。
突き飛ばしてでも逃れなきゃいけないのに
纏わりつく香りが判断を鈍らせた。血を欲して昂る同胞を放っておけないと感じてしまう。
「慈悲深い瞳。あなたは私を哀れんでいる」
目元を撫でられた。
「私がもっと可哀想な者と知れば、側に居て下さいますか? 愛してくれとは申しません。あなたが側に居てくれたらいい」
わたしは先生に同情しているつもりはなく、彼もわたし越しの誰かに聞いている。
「分家の中で柊の立場はかなり悪い。小間使いをさせられています。それはいいのですが、妹を弄ばれたり恋人を奪われたのは許せません」
「さっき恋人は居ないって?」
「かつて愛した人は居ました。彼女も私を愛し、鬼となり共に歩むとまで言ってくれたのです。けれど亡くなってーーいえ、殺されました」
柊先生は熱に浮かされているせいで心の扉が緩み、普段は覗かせない1面を露わにした。
「慎重に吸血を重ね、彼女は鬼に変わろうとしていたのに。当主様が鬼姫として彼女を……」
最後まで言わなくとも結末が分かった。柊先生は口を覆う。
先生は愛した人を鬼とする為、鬼姫を活性化するお茶や吸血欲求が抑えられる薬を開発したのだ。けれど当主により未来は潰えてしまう。
人工的とはいえ鬼の女性。あの当主ならば手元に置きたがるはずだ。
束縛が弱まり、わたしは半身を起こすと先生を抱き締める。
「気持ち良いって、そんな……」
「恥ずかしがらなくていいですよ。そんなあなたも悪くありませんが」
とろんと蕩けた瞳にいつもの理性が伺えない。先生の唇が袖のホックを外してきて、貧弱な腕が晒された。
「白くて華奢で傷1つもない綺麗な肌。簡単に折れそうです。ほら」
ぐっと指が食い込み、骨が軋む。
「痛い、です。離して……」
「ちょっかい出したつもりが本気になってしまいました。鬼姫には惑わされまいとたかを括ってましたが、やはりあなたは魅力的だ」
「痛いです! 先生、離して下さい!」
「泣いてもいいですよ? そういうのも悪くない」
このままでは本当に折れてしまうかもしれない。凄い力だ。先生が鬼の性に囚われているのは明らかで力加減を忘れている。
「やめて! 触らないで!」
そしてスカートの上から腿を撫でられそうになり、頬を叩いてしまった。これが先生を更に焚き付ける。
「こういう場面で抗うと悪い男はぞくぞくするんですよ?」
「ひ、柊先生」
「先生呼びも煽るだけ。いえ、あなたは存在するだけで私達を煽る」
わたしの髪を1筋、手に取ると口元へ寄せる。
「キレイな黒髪」
次は顎をくいっと上げられた。
「整った顔立ち。それからーー」
まるでわたしを確認する作業に、どっどっど、鼓動が早まる。
突き飛ばしてでも逃れなきゃいけないのに
纏わりつく香りが判断を鈍らせた。血を欲して昂る同胞を放っておけないと感じてしまう。
「慈悲深い瞳。あなたは私を哀れんでいる」
目元を撫でられた。
「私がもっと可哀想な者と知れば、側に居て下さいますか? 愛してくれとは申しません。あなたが側に居てくれたらいい」
わたしは先生に同情しているつもりはなく、彼もわたし越しの誰かに聞いている。
「分家の中で柊の立場はかなり悪い。小間使いをさせられています。それはいいのですが、妹を弄ばれたり恋人を奪われたのは許せません」
「さっき恋人は居ないって?」
「かつて愛した人は居ました。彼女も私を愛し、鬼となり共に歩むとまで言ってくれたのです。けれど亡くなってーーいえ、殺されました」
柊先生は熱に浮かされているせいで心の扉が緩み、普段は覗かせない1面を露わにした。
「慎重に吸血を重ね、彼女は鬼に変わろうとしていたのに。当主様が鬼姫として彼女を……」
最後まで言わなくとも結末が分かった。柊先生は口を覆う。
先生は愛した人を鬼とする為、鬼姫を活性化するお茶や吸血欲求が抑えられる薬を開発したのだ。けれど当主により未来は潰えてしまう。
人工的とはいえ鬼の女性。あの当主ならば手元に置きたがるはずだ。
束縛が弱まり、わたしは半身を起こすと先生を抱き締める。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる