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嫉妬キス
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「ちょっと寒いね、もう寝よう。涼くんは明日早いでしょ?」
春の夜風は冷たい。わたしはカーディガンを擦る真似をして窓を閉めようとした。
「なぁ」
「ん?」
わたしは目を合わせない。高橋さんの事を涼くんの口から聞きたかったな、唇を噛む。
「そっち行っていいか?」
「えっ?」
いいも悪いもなく既にこちらへ飛び移ろうとしており、反射的に彼を招く動作をしてしまう。
わたしでも超えられる距離なので涼くんが手こずるはずなく、軽やかに部屋へ入ってきた。
「い、いらっしゃい、なのかな?」
「……」
涼くんは疑問形の挨拶を無視し室内を一周見回す。少し気まずそう、いや悔しそうに唇を噛む。
別に見られて困るものはないが、せっかくなのでお茶を用意した方がいいんだろうか。
「涼くんがわたしの部屋に来るなんて久し振りだね。まだお母さん起きてるからお茶を持ってきて貰うね?」
いそいそと涼くんのクッションを準備した。
「待てやめろ、俺を殺したいのか?」
「はい? 今は血を飲む時じゃないし、部屋に入ってこられてもいいじゃない。まぁ遅い時間だから注意されるかも。あー、玄関使わなかった事も怒られるか」
「……そんなんだからじゃねぇの?」
ふ、と涼くんの雰囲気が変わった、明確に呆れから怒りへ変わった。クッションを踏まれ、プリントされたキャラクターの表情が歪む。
「涼くん?」
「お前がそんなんだから、四鬼千秋にキスされるんじゃねぇのか?」
急に手を強く引っ張られバランスを崩す。姿勢を取り直す間なく、近くのベッドへ倒れ込んだ。
ぎしりと軋む音が追いかけてきて、涼くんは片膝を乗り上げる。
「母さんが電話で話してるの聞いたんだ。四鬼千秋と病室で抱き合ってキスしてたって? そんな事してれば勘違いするよな? まぁ勘違いじゃねぇかもしれないが」
「ちが、っ!」
起きて弁解しようとしても、させてくれない。涼くんはわたしの両肩をシーツへ固定する。
「四鬼千秋とキスしたのか?」
「……こ、怖いよ涼くん」
「俺はキスしたのかって聞いてんの! 答えろよ」
怒鳴られ、びくつく。おろおろ視線を泳がすだけで返事ができないでいると、顎をぐいっと掴まれた。
「血、やろうか?」
見せつけるみたいにスウェットを捲り、腕を唇の前へ差し出す。今は特に乾いていないが、くれると言われれば飲みたくなる。涼くんの血ならいつでも飲みたい。
ごくんーー条件反射で喉を鳴らすわたしに涼くんは傷付いた顔をした。あぁ、やっぱり飲ませたくないのかな。
「……要らない」
可能な限り、負担をかけたくないので断った。しかし、それはそれで涼くんが複雑な顔をする。
「俺の血は必要ない? あぁ、四鬼千秋に血を強請ったのか? 四鬼千秋の血を飲んで間に合ってる?」
「ねだってない! わたしは涼くんの血しか欲しくない、飲みたくないよ!」
「ならキスなんかさせるんじゃねぇ! 他の男に気安く触らせるな!」
涼くんの腕を退かそうともがく程、吸血しろとばかりに押し付けられる。話している最中にこれを繰り返すと歯をかすめ、出血させてしまった。
垂れる血を物欲しそうに見てはいけない、わたしは目をぎゅっと瞑る。視界が閉ざされれば血の香りがより鮮明となり、逆効果なのは分かっていた。
それでも涼くんに血だけ欲しいと思われたくない。
「おい飲めよ。お前が飲まないと血が止まんないだろ、ほら」
「……」
「お前が四鬼千秋の血を飲んだと勘違いした。キスは、その、あれだ、四鬼千秋と間接キスなんて冗談じゃないというかーーいや、マジのキスしたのか?」
「血は飲んでない。キ、キスは慰めようとしてくれたんだよ。わたしが高橋さんの事件をニュースで見て、泣いていたから!」
目を開けないまま言う。
「マジか、やっぱキスはしたのか」
「キスはともかく、涼くんも高橋さんの事を言わないよね? どうして? 涼くんはわたしに相談しても無駄だって思ったんじゃないの?」
春の夜風は冷たい。わたしはカーディガンを擦る真似をして窓を閉めようとした。
「なぁ」
「ん?」
わたしは目を合わせない。高橋さんの事を涼くんの口から聞きたかったな、唇を噛む。
「そっち行っていいか?」
「えっ?」
いいも悪いもなく既にこちらへ飛び移ろうとしており、反射的に彼を招く動作をしてしまう。
わたしでも超えられる距離なので涼くんが手こずるはずなく、軽やかに部屋へ入ってきた。
「い、いらっしゃい、なのかな?」
「……」
涼くんは疑問形の挨拶を無視し室内を一周見回す。少し気まずそう、いや悔しそうに唇を噛む。
別に見られて困るものはないが、せっかくなのでお茶を用意した方がいいんだろうか。
「涼くんがわたしの部屋に来るなんて久し振りだね。まだお母さん起きてるからお茶を持ってきて貰うね?」
いそいそと涼くんのクッションを準備した。
「待てやめろ、俺を殺したいのか?」
「はい? 今は血を飲む時じゃないし、部屋に入ってこられてもいいじゃない。まぁ遅い時間だから注意されるかも。あー、玄関使わなかった事も怒られるか」
「……そんなんだからじゃねぇの?」
ふ、と涼くんの雰囲気が変わった、明確に呆れから怒りへ変わった。クッションを踏まれ、プリントされたキャラクターの表情が歪む。
「涼くん?」
「お前がそんなんだから、四鬼千秋にキスされるんじゃねぇのか?」
急に手を強く引っ張られバランスを崩す。姿勢を取り直す間なく、近くのベッドへ倒れ込んだ。
ぎしりと軋む音が追いかけてきて、涼くんは片膝を乗り上げる。
「母さんが電話で話してるの聞いたんだ。四鬼千秋と病室で抱き合ってキスしてたって? そんな事してれば勘違いするよな? まぁ勘違いじゃねぇかもしれないが」
「ちが、っ!」
起きて弁解しようとしても、させてくれない。涼くんはわたしの両肩をシーツへ固定する。
「四鬼千秋とキスしたのか?」
「……こ、怖いよ涼くん」
「俺はキスしたのかって聞いてんの! 答えろよ」
怒鳴られ、びくつく。おろおろ視線を泳がすだけで返事ができないでいると、顎をぐいっと掴まれた。
「血、やろうか?」
見せつけるみたいにスウェットを捲り、腕を唇の前へ差し出す。今は特に乾いていないが、くれると言われれば飲みたくなる。涼くんの血ならいつでも飲みたい。
ごくんーー条件反射で喉を鳴らすわたしに涼くんは傷付いた顔をした。あぁ、やっぱり飲ませたくないのかな。
「……要らない」
可能な限り、負担をかけたくないので断った。しかし、それはそれで涼くんが複雑な顔をする。
「俺の血は必要ない? あぁ、四鬼千秋に血を強請ったのか? 四鬼千秋の血を飲んで間に合ってる?」
「ねだってない! わたしは涼くんの血しか欲しくない、飲みたくないよ!」
「ならキスなんかさせるんじゃねぇ! 他の男に気安く触らせるな!」
涼くんの腕を退かそうともがく程、吸血しろとばかりに押し付けられる。話している最中にこれを繰り返すと歯をかすめ、出血させてしまった。
垂れる血を物欲しそうに見てはいけない、わたしは目をぎゅっと瞑る。視界が閉ざされれば血の香りがより鮮明となり、逆効果なのは分かっていた。
それでも涼くんに血だけ欲しいと思われたくない。
「おい飲めよ。お前が飲まないと血が止まんないだろ、ほら」
「……」
「お前が四鬼千秋の血を飲んだと勘違いした。キスは、その、あれだ、四鬼千秋と間接キスなんて冗談じゃないというかーーいや、マジのキスしたのか?」
「血は飲んでない。キ、キスは慰めようとしてくれたんだよ。わたしが高橋さんの事件をニュースで見て、泣いていたから!」
目を開けないまま言う。
「マジか、やっぱキスはしたのか」
「キスはともかく、涼くんも高橋さんの事を言わないよね? どうして? 涼くんはわたしに相談しても無駄だって思ったんじゃないの?」
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