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千秋と美雪と鬼

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 ただならぬ空気感に涼くんは言葉を無くすも、ドア付近で固まってしまうわたしを庭へ退避させた。

 庭は季節の花で彩られる。お祖母ちゃんの影響を受け、わたしも育てているのだ。お祖母ちゃんに比べたら未熟で小さな庭だけど、ここは落ち着く。
 大きく息を吸い、吐く。

 あぁ、尊敬するお祖母ちゃんがあんな事になってしまうなんて。

 自分の身に起きた出来事をどう説明したらいいのだろうか。面倒に巻き込まれたって怒るかもしれない 涼くんは超常現象やオカルト要素を全く信じないからだ。
 【鬼】を見たと言って、どういうリアクションをとるかは想像に難くない。

 あれから動きがない玄関を伺おうとすると、ふいに花の香りから汗の匂いに包まれた。

「……良かった、お前が無事で。心配させんなよ」

 涼くんがわたしを抱き締める。
 いちにもなく助けにきて、身を案じてくれる相手に対し、失礼な考えを巡らせてしまった。

「ごめんね、涼くん」

「いちいち謝んな。昔からだろ、助けてやるのは」

「うん、いつも迷惑かけてごめんね」

 そうだ、涼くんはわたしが泣いたり困ったりしたら必ず力を貸してくれる。

「ーーそれで何があった? 強盗が入ったか? 犯人はまだ家の中だろ、警察に通報するぞ」

 わたしも手を回しかけた時、抱擁は解かれた。空振りした腕の行き場が無くなり、涼くんの裾を掴む。今から話す内容で心が離れていきませんように、と。
 
「つまり隣町に住んでる祖母さんが来て、おじさんが怪我したと言ってきたかと思えば、包丁を持って襲ってきた? お前、頭大丈夫?」

 鬼とのやりとりを脚色せず伝えてみたが、ご覧の通り。

「はぁ、通報は俺がする。お前はおじさんか、おばさんに連絡しておけ。鬼だ、人ならざるものだとか、バカバカしい。強盗に入られて混乱したんだよ」

 取り付く島もなく、涼くんは話を打ち切ってしまった。何者かに侵入されたのは認めるものの、それ以外は信じない。

「鬼は居ないにしても、人ならざるものは目の前に居るじゃない?」

 恐怖体験を混乱の二文字で片付けられるのが悔しく、納得いかない。

「わたしは涼くんの血を飲まないと生きていけない、人ならざるものだよ! バカバカしくなんかない!」

 涼くんは反論に呆れて肩を竦める。

「あのな、そんな所で突っ掛かるな。お前はお前だろ? それとも両親や警察にも同じ事を言うのか?」

「それは……」

「もういいから、ここは俺に任せとけって。俺の家に行ってろ」

 ーーその後、涼くんの通報を受け警察がやってきたが、室内に犯人とおぼしき対象は居なかった。

 また、お父さんは怪我などしておらず、お祖母ちゃんとも連絡が取れる。事件があった時間、お友達と芝居を観ていたそうだ。

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