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告白

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 これ以上、聞いていられないと優子は遮った。

「わたしはそんな風に想って貰える人間じゃないんです、わたしは汚れているんです!」

「優子! どうした?」

 呼吸が荒くなり、気遣う秀人の腕を強く握る。涙で洗い流せない罪がついに溢れ、表情を汚す。こんな顔を見せたくないと感じつつ、優子は秀人を仰ぐ。

「ーーわたしは人殺しです」

 目を逸らしたりせず、しっかり伝える。
 
「は? 何を言ってる? やったのは徳増だろう? 間接的に関わったことをそう言ってるのか?」

 ぽかん、としてしまうのが秀人。徳増の罪を共に背負おう意味で聞き取る。

「いえ、わたしが丸井家の先代を殺めました。先代に乙女を散らされ、我を失ったわたしが殺めたのです」

「いや、何だ、何を言ってる? お前が殺めたのなら、どうして心中で片付けた? 亡骸は一体誰だ? 一連のいきさつは徳増が優子を連れ去る為にやったんだろ?」

 秀人の結婚を認めない徳増が先代を巻き込み、優子を連れ去った。これが秀人の中の筋書きである。
 矢継ぎ早に問を投げかけてしまうのは、秀人の筋書きとは優子への信頼で成り立つものだからだ。

「あの遺体は姉の良子です」

「ーーさっきの話によれば、良子さんは亡くなってるんだよな?」

 優子は両親の死に対して驚き悲しむが、良子の死には両親ほどの悼みを確かに見せていなかった。つまり、知っていた。

「姉はわたしの身代わりとなったのです」

 おぞましい記憶が恐怖とともに蘇り、優子の爪が腕に食い込む。

「秀人様のお気持ちは嬉しい、本当に嬉しい。ですが、人殺しに応えられるはずありません。申し訳ありません」

「嘘だ! お前がそんな。嘘だろ? 人殺しなんて最低な真似を?」

 今度は膝から崩れ落ち、優子へひざまずく秀人。優子の告白の衝撃で立っていられなくなる。

「こんな噓までついてまで俺の側に居たくないのか? なぁ?」

 頬へ手を伸ばし、唇の輪郭をなぞって嘘だと言えと促す。

「嘘ではありません」

 優子がそっと手を剥がす。

 秀人の手がもう一度伸びかけ、はたりと落ちた。羽ばたきをやめた鳥のごとく、心も墜ちる。

「大抵なら受け止められると考えていたが、人を殺していたとはな。思いもしなかった」

「……申し訳ありません」

「俺に謝っても仕方ないだろ」

 優子が先代を殺めたなど秀人はとても信じられない、信じたくない。しかしながら、あの心中騒動以来、徳増は丸井の手足となり暗躍した。
 丸井家が先代の死後も変わらない影響力を持ち続けるのは、徳増による非合法な活動があってこそ。

 優子の為にしか働かないのが徳増だ。単に優子を奪いたいだけならば、あんな心中騒動などと言う周りぐとい手段を選ばなくていい。優子の罪を隠匿するため丸井に従ったのであれば、しっくりくる。

「で、立花も知っていたんだな?」

「はい。でも立花さんはわたしを屋敷へ運んでくれただけです」

「屋敷?」

「確か、実家に? 意識が朦朧としていて覚えていないんです」

「……まぁ、言えねぇか。惚れた女が人を殺してるなんて。俺、何の夢を見てたんだろうな。すまない、ちょっと頭を冷やしてくる」

 秀人は苦笑いを浮かべ、出ていこうとしたがふらつく。咄嗟に介助しようとした優子を払ってしまった。

「どうして黙っていてくれなかった? なんであの時、俺の名を呼んだ? こんな恨み言をぶつけてしまうから触らないでくれ。格好悪い所を見せるのは嫌だ」

「わたしは、あなたに謝りたかった」

「俺に謝るなってば。謝られても何もしてやれない」

 ごめんなさい、優子の謝罪は扉閉める音で届かなかった。
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