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告白

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「……この娘、暁月の使用人ですね」

 ひばりの似顔絵を見せると酒井は秀人が望むを導く。常に整頓が行き届いた記憶から、ひばりを照合するのは容易い。

 前置きや説明を一切聞かされない酒井だが、立花が目的なく描く訳なく、優子のいまいち浮かない態度を見て察する。

「それで医者の手配はできましたが如何いたしますか? 似顔絵の女性がひばりなのでしょう?」

 酒井は空の机上を横目に茶を淹れ始めた。秀人と立花の砂糖の数は把握しており、優子の分は側に添える。

「盗人は?」

「ひったくり犯は今回の件と無縁と考えますが、一応行動を見張らせてます。何かあれば連絡が来ますよ。抜かりはありません」

「わかった。似顔絵の娘は優子の側付きをしていたそうだ。今、医者を屋敷にやっても居ない可能性が高いだろうな」

「ひばりをお医者様にみせてくれないという事ですか?」

「十中八九、仮病でしょうね。娘は屋敷から逃げ出したかったと推察します」

「仮病って! ひばりは嘘など」

「だから貴女の為ですよ。その程度もお分かりになりません?」

 詰め寄りそうな優子を制す酒井の視線は冷たい。徳増が優子以外に接するように。

「奥様、私はあなたの徳増とは非なる者と思っていましたが、こうして茶を淹れたり仕事と無関係な事をしていると、徳増の気持ちが分からないでもないのですよ?」

 あなたの徳増ーー言い回しに鋭い棘を作り、牽制してくる。

 酒井は秘書、徳増は教育係兼世話役。前者は仕事と私生活を切り離してきた。優子との結婚は暁月の利となるも、社会的に亡くなっている優子の捜索が利となり得るのか? みなまで言わなくても分かりきっている。

「全力で支え、守ってきた相手を奪われたらどれほど失望するか。奥様を前にすると私も身につまされます」

 酒井は口をつけていない優子のカップにひとつ、砂糖が落とした。波優子の溺れそうな息苦しさでお茶はこぼれそうだ。

 秀人に言動を咎める動きはなく、酒井が自分に味方するのが当たり前と流す。
 奇しくも優子と徳増と関係をここで再現された。かたい絆、強固な信頼で結ばれる2人に割っては入れない。

「よし、それじゃあ、俺が医者を連れて、ひばりが屋敷に居るか確かめてくるか!」

 立花が紅茶を流し込み、勢いをつけて立ち上がった。

「お前、危険だぞ?」

「優子ちゃんはひばりの安否がはっきりしないとここを離れない構えだし、ぞろぞろ全員で行く? そっちの方が危ない」

 秀人が懸念する一方、立花が立候補するのを見越していた酒井は頷く。

「はい、そうして下さると助かります。仮に徳増に捕まっても立花様ならば、どうにか切り抜けるでしょう。宜しくお願いします」

「はは、買い被り過ぎ。暁月は優子ちゃんという人質がいれば凌げるけど」

 優子を場に残すのは秀人が手放すつもりがないのと、対徳増で一番有効な手札が優子であるから。秀人が許可するかは別とし、酒井は何かあれば手札を交渉材料として迷わず切る心づもりだろう。

「優子ちゃん、次は屋敷の位置を教えて」

「……立花さん」

「金になる絵を先代にひたすら描かされた俺を君が救ってくれたんだ。その借りを返すよ。ばったり徳増と行き合わなければ問題ない、そんな顔をしないでくれ」

 優子が先代を殺めた事に感謝する、口角に込めた立花。
 立花が丸井家にどんな扱いを受けてきたか、はっきり明かされないものの、絵描きとして屈辱的な仕打ちをされたと訴える。

 先代の死後、立花は歴代の人物画では表現してこなかった日常場面を好んで描いた。その一枚が優子が目にした紅茶を飲む女性の絵。

 優子は屋敷への道程を可能な限り、正確に伝える。

「ーー徳増は今夜遅くなるといって、出掛けていきました。鉢合せする可能性は低いと思います」

「有益な情報ありがとう」
 
 似顔絵と地図が揃い、足早に向かおうとする立花。

「あ、あの!」

 優子が呼び止めた。

「紅茶を飲む女性の絵を拝見しました! わたし、立花さんの絵を見てたくて、その、ひばりと話しているうちに色々あって……」
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