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獣は誰か

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 徳増は捜索を依頼するのに迷いがないどころか、良子の安否を気遣う素振りすらない。

「あの、徳増はお姉様を探さないの? わたしも一緒に探すわ」

 そのうえ、優子の言葉に眉を上げる始末だ。

「敬吾さんに任せておけば大丈夫ですから。私達が探しても時間の無駄です。そうだ、所在が分かったらご実家に報告に行きましょう」

 ついぬ良子に関わること自体、時間の無駄と切り捨てた。
 姉との結婚には反対だが、徳増には良子を案じて欲しいという矛盾に優子は項垂れ、実家のくだりのみ肯定する。

「……えぇ、そうね。お父様に会いたい。お加減はどうなのかしら?」

「暁月が手配した医者がおりますし、大事はないと思います」

「秀人様がお医者様を紹介してくださって有り難いわ。あ、まだお礼を言ってないから、あなたからもお願いね?」

「医者の手配は結婚の条件ですので、礼は必要ないかと」

「そういう言い方はよして、どうしてあなたはいつも……」

「承知しました。お説教はご勘弁を」

 途端に冷たくなる口調で会話を終わらせ、優子のカップが空になれば、すかさず椅子を引きに来て自室へ促す。

「お嬢様」

 退出間際、呼び止められた優子は傾げ、徳増が深く頭を下げた。

「暁月は仕事でしばらく留守です。その間はお嬢様とお呼びしても? 私はまだ教育係として過ごした日々が恋しい、忘れられない。お願いします」

 まるで子離れできない生き物の主張。しかし要求を断われば、牙を剥きそうな迫力と緊張がある。

「えぇ、いいわ」

 本能で優子は頷き返していた。許可を得て顔を上げる徳増はにっこり微笑む。三日月の形に細めた瞳は優子を飲み込むよう深い色をしていた。

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