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察せない本心
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けれど、いざ行動へ移そうとすると秀人を怒らせてしまう。出過ぎた真似をするなと叱責される。
優子は秀人に嫌われたくない、嫌われてはいけない。実家へは帰れないのだ。たったひとつの居場所を失う危険を冒してどうする?
何の特技もない優子に経済的自立は出来そうもなく、大人しく秀人の指示に従った方がいい。
(そう、この結婚は政略の意味合いもあるの。旦那様に抱かれるのは当たり前。この身を捧げて秀人様の機嫌が直るなら、それでいいじゃない。わたしにはそれくらいしか出来ない)
■
秀人の次の一手は、首、鎖骨、腕、噛んだ箇所へ触れるだけの口付けを落とす。
「ん、あっ……」
緩急つけた愛撫に優子の思考がますます濁り、堪らえていた喘ぎが漏れた。
こうなると全ては秀人の手中に収まったも同然。秀人がその気になれば、快楽に耐性のないお姫様を籠絡するなど造作もない。最初から墜としてしまえば良かったのに、そうはしなかった。
「優子」
秀人は指の腹で優子の唇をなぞる。優子は順応な雛鳥。口付けの合図と読み取り、口を開けた。
「なぁ、お前は俺を愛しているのか?」
「ーーは?」
囁きの意図が見えない。現状、優子と秀人の何処に愛が介在できるというのか、優子はもはや疑って瞬く。
何度も瞬きしていると自分の置かれた現実がはっきりしてきた。
互いの呼吸を浴び、優子の身体が冷めていく。
「今更そんな確認されてもーー秀人様にわたしの心が必要ですか?」
こんなに濡れて乱されおいて、何を返そうと説得力がない。それでも優子は綺麗事を言うしかない。
「……」
「秀人様はわたしの心など要らないのでしょう?」
「ああ、そうだな」
気に入らないならば気に入るよう強制して、思い通りにしたらいいのに。やはり徳増の忠告へ耳を傾ければ良かった。秀人との距離が近くなると嬉しくなり、1人で期待し、1人で舞い上がり、1人で落とされる優子は道化だ。
「お前がここで生きていくには不条理であろうと、俺の機嫌を取り続けるしかない。俺を怒らせたらどうなるか、分かってるな?」
「承知しています」
試す物言いに一喜一憂しても仕方がない、そんな諦めと、最小限の痛みで済ませたい防御本能が優子に目を瞑らせた。
「どうぞ、わたしを秀人様が望むようにして下さい」
皮肉なもので、そうして心を眠らせる優子は描いたように美しい。
はっと秀人は息をのみ、彼の征服欲を一周回って萎えさせていく。所詮、相手に言わせたり、やらせるだけじゃ意味はないのだ。
「ーー宜しいでしょうか?」
その時、扉が叩かれる。
「宜しい訳ないだろ。俺達が今、なにをしてるか考えろよ」
言いつつ、秀人は優子から離れる。徳増の声がしても優子が動かないのを横目に、もしも優子が助けを求めていたらと巡らす。間違いなく徳増の目の前で優子を貫いたであろう。
「……用件はなんだ? そこで言え。寝室に土産なしで来た訳じゃないだろ? あぁ、またもや、こいつの父親でも連れてきたか?」
「まず優子様はご無事ですか?」
「無傷ではないな」
秀人は身体のあちこちに付けた跡を撫で、柔らかく触れる。眠り姫を促す口付けにそっと目を開けると苦しげな秀人が映り、優子は再び瞑った。
秀人は優子の自分を怖がる様子に髪を掻く。
「用件を早く言え」
「お茶を淹れますか?」
「あのなぁ、この状況で茶なんか要るかよ。相変わらず、お姫様を救いに来た騎士気取りだな。俺はさしずめ悪い魔法使いか、なにかか?」
「いいえ、わたしは教育係です」
「何度も言わせるなよ、元教育係。今は使用人だぞ」
秀人は徳増の立ち位置を訂正後、床に脱ぎ捨てた衣服を拾い、面倒に羽織る。
「秀人様、どちらへ?」
「別の女のところに決まってる。お前は大好きな男に慰めてもらえ」
「別の、女性……って」
堂々と不貞宣言されてしまうと、言葉につまる。
徳増を大好きな男と言われるのはもちろん誤解だが、秀人が先程の行為を他の女性とする方が気掛かりだ。いや、気掛かりというより不快。
おかしな話だが、秀人に噛まれる痛みすら優子1人で引き受けたい。ただ、どう伝えれば良いか分からなくて。下手にで、また秀人を怒らせるのは絶対避けたい。
「じゃあな」
「あの……」
「あ、そうだ! 絵の題材、しっかりやれよ」
「もう一度話をーー」
「話? お前に話すことなんか無いし、俺が何をしようと関係もないだろ!」
一方的に別れが告げられた。寝台の上で秀人の背中へ手を伸ばす優子は会話の糸口を掴めない。
扉の先で秀人と徳増が会話する。
「酒井が手配しているだろうが、丸井家に優子をやることにした」
「やる、とは? 絵の題材をして頂くという意味合いですよね?」
「言葉のままだが?」
「……」
「それじゃあ、お留守番よろしく」
腹の探り合いをすると思いきや、秀人はそうそうに切上げた。まるで、この場に留まるのが嫌そうに。
そして、その理由を徳増は知る。
薄暗い寝室の中、獣に食い散らかされた優子が泣いていた。
優子は秀人に嫌われたくない、嫌われてはいけない。実家へは帰れないのだ。たったひとつの居場所を失う危険を冒してどうする?
何の特技もない優子に経済的自立は出来そうもなく、大人しく秀人の指示に従った方がいい。
(そう、この結婚は政略の意味合いもあるの。旦那様に抱かれるのは当たり前。この身を捧げて秀人様の機嫌が直るなら、それでいいじゃない。わたしにはそれくらいしか出来ない)
■
秀人の次の一手は、首、鎖骨、腕、噛んだ箇所へ触れるだけの口付けを落とす。
「ん、あっ……」
緩急つけた愛撫に優子の思考がますます濁り、堪らえていた喘ぎが漏れた。
こうなると全ては秀人の手中に収まったも同然。秀人がその気になれば、快楽に耐性のないお姫様を籠絡するなど造作もない。最初から墜としてしまえば良かったのに、そうはしなかった。
「優子」
秀人は指の腹で優子の唇をなぞる。優子は順応な雛鳥。口付けの合図と読み取り、口を開けた。
「なぁ、お前は俺を愛しているのか?」
「ーーは?」
囁きの意図が見えない。現状、優子と秀人の何処に愛が介在できるというのか、優子はもはや疑って瞬く。
何度も瞬きしていると自分の置かれた現実がはっきりしてきた。
互いの呼吸を浴び、優子の身体が冷めていく。
「今更そんな確認されてもーー秀人様にわたしの心が必要ですか?」
こんなに濡れて乱されおいて、何を返そうと説得力がない。それでも優子は綺麗事を言うしかない。
「……」
「秀人様はわたしの心など要らないのでしょう?」
「ああ、そうだな」
気に入らないならば気に入るよう強制して、思い通りにしたらいいのに。やはり徳増の忠告へ耳を傾ければ良かった。秀人との距離が近くなると嬉しくなり、1人で期待し、1人で舞い上がり、1人で落とされる優子は道化だ。
「お前がここで生きていくには不条理であろうと、俺の機嫌を取り続けるしかない。俺を怒らせたらどうなるか、分かってるな?」
「承知しています」
試す物言いに一喜一憂しても仕方がない、そんな諦めと、最小限の痛みで済ませたい防御本能が優子に目を瞑らせた。
「どうぞ、わたしを秀人様が望むようにして下さい」
皮肉なもので、そうして心を眠らせる優子は描いたように美しい。
はっと秀人は息をのみ、彼の征服欲を一周回って萎えさせていく。所詮、相手に言わせたり、やらせるだけじゃ意味はないのだ。
「ーー宜しいでしょうか?」
その時、扉が叩かれる。
「宜しい訳ないだろ。俺達が今、なにをしてるか考えろよ」
言いつつ、秀人は優子から離れる。徳増の声がしても優子が動かないのを横目に、もしも優子が助けを求めていたらと巡らす。間違いなく徳増の目の前で優子を貫いたであろう。
「……用件はなんだ? そこで言え。寝室に土産なしで来た訳じゃないだろ? あぁ、またもや、こいつの父親でも連れてきたか?」
「まず優子様はご無事ですか?」
「無傷ではないな」
秀人は身体のあちこちに付けた跡を撫で、柔らかく触れる。眠り姫を促す口付けにそっと目を開けると苦しげな秀人が映り、優子は再び瞑った。
秀人は優子の自分を怖がる様子に髪を掻く。
「用件を早く言え」
「お茶を淹れますか?」
「あのなぁ、この状況で茶なんか要るかよ。相変わらず、お姫様を救いに来た騎士気取りだな。俺はさしずめ悪い魔法使いか、なにかか?」
「いいえ、わたしは教育係です」
「何度も言わせるなよ、元教育係。今は使用人だぞ」
秀人は徳増の立ち位置を訂正後、床に脱ぎ捨てた衣服を拾い、面倒に羽織る。
「秀人様、どちらへ?」
「別の女のところに決まってる。お前は大好きな男に慰めてもらえ」
「別の、女性……って」
堂々と不貞宣言されてしまうと、言葉につまる。
徳増を大好きな男と言われるのはもちろん誤解だが、秀人が先程の行為を他の女性とする方が気掛かりだ。いや、気掛かりというより不快。
おかしな話だが、秀人に噛まれる痛みすら優子1人で引き受けたい。ただ、どう伝えれば良いか分からなくて。下手にで、また秀人を怒らせるのは絶対避けたい。
「じゃあな」
「あの……」
「あ、そうだ! 絵の題材、しっかりやれよ」
「もう一度話をーー」
「話? お前に話すことなんか無いし、俺が何をしようと関係もないだろ!」
一方的に別れが告げられた。寝台の上で秀人の背中へ手を伸ばす優子は会話の糸口を掴めない。
扉の先で秀人と徳増が会話する。
「酒井が手配しているだろうが、丸井家に優子をやることにした」
「やる、とは? 絵の題材をして頂くという意味合いですよね?」
「言葉のままだが?」
「……」
「それじゃあ、お留守番よろしく」
腹の探り合いをすると思いきや、秀人はそうそうに切上げた。まるで、この場に留まるのが嫌そうに。
そして、その理由を徳増は知る。
薄暗い寝室の中、獣に食い散らかされた優子が泣いていた。
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