58 / 120
題材
2
しおりを挟む
「……さて、酒井はこれをどう見る?」
一通り目をとおした後、秀人は眉間を揉む。
「報酬面では悪い条件ではないかと。というより悪い条件がないです」
「ふむ、確かに」
「しかし、そこが怖いとも言えますね」
「だな」
唸り、最初から書面を見直す秀人。珍しく即決しかねている。優子も内容が気になるものの覗き込む訳にはいかず、床へ目線を落とす。
「丸井家からの依頼ですか?」
徳増が尋ねた。
「そんなところだな。しかし、仕事を回して貰うにあたり条件があるそうだぞ。使用人、お前はおおかた予想がついているんじゃないか?」
「滅相もないです。私にはさっぱり」
その応えに酒井が秀人へ目配せ。秀人はため息をつく。
「白々しい。丸井敬吾が優子を描きたいと言っているらしい」
名前を出されて、顔を上げる優子。
「優子、お前が絵の題材となれば丸井家がうちに仕事を恵んでくれるそうだ」
敬吾の絵を今さっき鑑賞した優子の中では驚きよりも不安が勝った。題材として選ばれるのは光栄であるが、とても務まる気がしない。
「あ、あの、わたしにはそんな大役……」
「そう言うと思った。仮にやらせたとして失敗したら目も当てられないしな」
本来は喉から手が出るくらい依頼を引き受けたい。けれど優子が題材として役目を全う出来なかった場合、どんな保証を求められるか分かったものではない。
「お言葉ですが、暁月家としては好機ではないでしょうか?」
発言したのはーー徳増。
「ほぅ、あなたが仰るとは意外ですね」
酒井が鼻を鳴らす。意外と言いつつ、徳増の反応は予想していたのかも知れない。腕を組んで注意深く言葉を選ぶ。
「あなたは奥様に危険な真似をさせないと思っていました」
「この場に私を同席させたのは、その危険とやらからお守りする為ではないのですか? 勘違いでしたら申し訳ありません」
「勘違いじゃありませんよ。依頼を受ければ秀人様は少なくとも2ヶ月間はここを離れないといけないでしょう。留守を預ける番犬はあなたが適任と私は思うのですが……」
秀人はどう考えるか、酒井が会話を振る。依頼を前にふたつ返事しなかったことからも乗り気でないのが伺われた。
一通り目をとおした後、秀人は眉間を揉む。
「報酬面では悪い条件ではないかと。というより悪い条件がないです」
「ふむ、確かに」
「しかし、そこが怖いとも言えますね」
「だな」
唸り、最初から書面を見直す秀人。珍しく即決しかねている。優子も内容が気になるものの覗き込む訳にはいかず、床へ目線を落とす。
「丸井家からの依頼ですか?」
徳増が尋ねた。
「そんなところだな。しかし、仕事を回して貰うにあたり条件があるそうだぞ。使用人、お前はおおかた予想がついているんじゃないか?」
「滅相もないです。私にはさっぱり」
その応えに酒井が秀人へ目配せ。秀人はため息をつく。
「白々しい。丸井敬吾が優子を描きたいと言っているらしい」
名前を出されて、顔を上げる優子。
「優子、お前が絵の題材となれば丸井家がうちに仕事を恵んでくれるそうだ」
敬吾の絵を今さっき鑑賞した優子の中では驚きよりも不安が勝った。題材として選ばれるのは光栄であるが、とても務まる気がしない。
「あ、あの、わたしにはそんな大役……」
「そう言うと思った。仮にやらせたとして失敗したら目も当てられないしな」
本来は喉から手が出るくらい依頼を引き受けたい。けれど優子が題材として役目を全う出来なかった場合、どんな保証を求められるか分かったものではない。
「お言葉ですが、暁月家としては好機ではないでしょうか?」
発言したのはーー徳増。
「ほぅ、あなたが仰るとは意外ですね」
酒井が鼻を鳴らす。意外と言いつつ、徳増の反応は予想していたのかも知れない。腕を組んで注意深く言葉を選ぶ。
「あなたは奥様に危険な真似をさせないと思っていました」
「この場に私を同席させたのは、その危険とやらからお守りする為ではないのですか? 勘違いでしたら申し訳ありません」
「勘違いじゃありませんよ。依頼を受ければ秀人様は少なくとも2ヶ月間はここを離れないといけないでしょう。留守を預ける番犬はあなたが適任と私は思うのですが……」
秀人はどう考えるか、酒井が会話を振る。依頼を前にふたつ返事しなかったことからも乗り気でないのが伺われた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい
鳥花風星
恋愛
女騎士であるニーナには、ガイアという専属魔術医務官がいる。エリートであり甘いルックスで令嬢たちからモテモテのガイアだが、なぜか浮いた話はなく、結婚もしていない。ニーナも結婚に興味がなく、ガイアは一緒いにいて気楽な存在だった。
とある日、ニーナはガイアから女避けのために契約結婚を持ちかけられる。ちょっと口うるさいただの専属魔術医務官だと思っていたのに、契約結婚を受け入れた途端にガイアの態度は日に日に甘くなっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる