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画家と新妻

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 彼はーー画家の立花。立花の絵は国内外で高い評価を受けるとともに高額で取引されており、優子は彼を何かの紙面で読む。

 見ての通り、食えない性格をしているがそれがまた魅力とする声もあって、芸術家とは気性に難があっても許される風潮だ。装いがだらしない上、無精髭までたくわえた彼は優子以上に浮いている。

「俺のことを知っているのか?」

「ご謙遜を。今や話題の中心じゃないか。オレは嫌いじゃないよ、金があるって隠さない下品な振る舞い。良家のお嬢さんを娶って上流社会に混じろうとする浅はかさも単純で好ましい」

「……挑発してくれるな」

「秀人様、こちらは画家の立花様です。丸井家お抱えの方ですよ」

 分かりやすい挑発とはいえ、秀人は喧嘩を売られたならば買ってしまう質だ。だから頭に血が上りきる前に優子が喧嘩相手を紹介する。

「はいはい、ご紹介に預かりました丸井家お抱えの画家、立花です」

 続いて、立花は煽りをやめない。

「丸井家がなぜ画家を囲う? こいつ、おっさんだぞ? それも小汚らしい」

「秀人様! 丸井家は芸術家たちがより良い作品を生み出せるよう資金援助をしているそうです」


 そう言えど、優子とて丸井家のからくりを察していた。価値がある芸術品は値崩れしにくい資産となりうる。分野発展の善意を幾ばくか持っていようと援助に打算が働いているだろう。

「絵が金になるのは知っている。どうせ囲うなら、もっと可愛げがある奴がいいって言ったんだ。ひょっとしてこいつの影響で丸井の息子も画家になったんじゃないか?」

 秀人は立花の後ろ盾が丸井と知っても態度を改めない。

「ん? 息子? 敬吾くんだね? あの子があんな性格となったのは、とある家庭教師のせいだな」

 家庭教師と聞き、そんな秀人の眉が更に上がった。

「あの家庭教師は教え子を作品みたいに扱う。敬吾くんは彼にとって失敗作だ」

「何故、失敗作なんなんでしょうか? わたしにはそう見えませんでしたが」

 優子が敬吾を庇う。ただし明確な根拠がある訳じゃない。悪口はいけないからだ。

「それは君が成功作だからかな」

 ぐっとワインを飲み干す立花。鼻から抜けてゆく香りを楽しむ目元で優子を観察する。

 どうやら立花は優子のことも承知している。
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