聖女の蜜闇ー優しい仮面を剥がされて

画家と新妻

６

　優子の着せ替えを充分楽しみ、秀人は精算を促す。店主は女性の顔から商人の顔と変わり、自分の衣装であったものへ一番高い値をつけたのだった。

　店主の言い値で支払いを済ませた秀人は店を出ていく。その際、店主を労うでもなければ挨拶もしなかった。

「今日はありがとうございました。この衣装は……」

　今更、衣装を横取りしてもいいのか不安になり優子が声を掛ける。

「お代は頂きましたのでお持ち帰り下さい。念の為に付け加えておきますが、破廉恥な仕立てではありませんよ。奥様がお召になるとより刺激的なだけです。決して破廉恥な衣装ではないです」

　そっと優子の肩に手を添え、退店を勧めた。

「そうだ、お茶をされるならこの先に良い店があります。店内に多くの絵画が多く飾られ、奥様も気に入られるでしょう」

「ありがとうございます！」

　親切に店まで教えてもらえ、優子は無邪気な笑みで感謝を告げる。そこにはもう後ろめたさは微塵もない。
　弾む足取りで秀人へ駆け寄る姿を店主が真顔で見送っていようとは知る由もない。