聖女の蜜闇ー優しい仮面を剥がされて

八千古嶋コノチカ

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初夜

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 浴室までは迷うことはなく辿り着けた。道程に明かりが灯されていたからだ。徳増がやるはずがない、秀人であろう。

 秀人は気が利いているのか、単に早く身体を重ねたいだけなのか、優しいのか怖いのか、優子は迷いつつ秀人が自身を掴ませまいとしているのは分かる。

 初夜を迎えるにあたり優子もそれなりに知識をつけてきた。これからどんなことをするのか一連の流れは把握する。とはいえ式場で交わした口付けなど予習してこなかった真似をするのが秀人。

「わたし、生きて明日を迎えられるのかしら?」

 ふと零した一言が響き、優子は笑った。その笑いは柔らかい。本人も思いの外、落ち着いているのに気付く。着衣を払って素肌で鏡と向き合うと優子同士が頷いた。もう引き返せない、と。


 湯船から花の香りが漂う。この花弁は薔薇か。浮かぶ一片を掬い、初対面の秀人を巡らす。
 真紅の薔薇を携えて姉のもとへやってきた際、秀人は優子に薔薇が似合うと言う。優子は薔薇の中でも情熱的な真紅を好ましく思っていながら、同時に華やかな色が似合わないと感じていたので、秀人の言葉は素直に嬉しかったのだ。

 花のイロハを知らない秀人に言われたところでーーなどと皆が相手にしなくとも、優子は秀人の直感に肯定的でいたい。あの花嫁衣装も見事であったし、優子は感心する。

 ゆっくり身体を湯船に沈め、絡まる香りの中から左手を出す。残念ながら秀人の直感をもってしても薬指の寸法までは見抜けず、用意された結婚指輪はぶかぶかであった。

 姉の身代わり、あげく持参金なしで嫁いできて不備を言い出せるはずがなく。誓いをたてた証として付けたい気持ちがない訳ではないものの、やはり世間体の意味合いを強く意識する。この先、夫婦揃って招かれる場所があれば話をしてみよう。優子は脳内の計画帳へ記す。

 暁月の妻としての役割に対し、任せて貰えるとしたらと予防線をはるのは優子の性格だ。
 こういう優子の性格を周囲は奥ゆかしいと言い、姉の良子は自覚がないだけで全てを手に入れてきた人間と言って、徳増は他人の幸せばかり願う優しい女性だと言う。人の瞳が鏡なら優子は様々な顔で映り込む。

 さて、秀人はどう映すのだろう。また優子は秀人の瞳に映し出された自分をどう受け取るのだろう。


 身を清め終え、気持ちを整え、優子は客室へ戻る。

「優子です」

 扉を軽く叩くと、すぐ開かれた。

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