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花嫁には口付けを

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 優子は腕をじっと見つめて、すぐには行動へ移せない。何故なら秀人に触れると熱がぶり返しそうだから。
 優子が必死で熱を治めようとしている一方、秀人は冷静。調子の悪さ、もろもろ感じさせない。
 口付けに慣れているのだ、きっと口付け以上の行為にも。優子の指先が拳を作る。

「何してる、早くしろ」

 二人の睦まじい光景を期待して、会場内から拍手が起こる。酒井が白々しく盛り上げているのだろう。

「……男性は仕方なく女性を抱けると徳増が言っていました」

「はぁ? なんの話だ?」

 ゆっくり扉が開き始めた。秀人は優子から腕を組むのにこだわる。

「秀人様も同じなんですね」

 祝福の声が漏れてきて、優子はやっと腕を組んだ。秀人の体温を悔しいほど意識してしまうのが虚しい、唇が震えてくる。でも泣いたら駄目と堪える。

「だから何の話だ? お前こそ俺がやった指輪ーー」

 扉が左右に開かれた途端、秀人の言い分は大きな歓声と拍手で掻き消されてしまう。夫婦はあっという間に参列者で周りを囲まれ、対応に追われた。

 秀人が仕立てた衣装をみなが口々に褒め称える。純白は純情で可憐な優子を引き立たせ、秀人が隣に立つことで尚、明暗がつく。泥水を飲んで成り上がってきた秀人、苦労などさせず大事に育てられた優子という夫婦の立体感がでるのだ。


「秀人様、丸井様へご挨拶を」

「分かった」

 腕を組む優子は秀人が若干緊張したのが伝わる。

「奥様もご一緒にご挨拶をして下さい」

「いや、こいつはいいだろう。仕事の話についてこれない」

「……いいえ、そういう訳には。ご挨拶できますよね? 奥様」

 足手まといになると秀人は気が乗らないみたいだが、参列者に挨拶をするのは当然。ただ気になるのは酒井の言い方だ。それから丸井家の名が出た際の空気。
 酒井に促され、三人で丸井家に挨拶へ向かう。

 と、背後で誰かが言った。

「丸井家の旦那様は若くてきれいな女性、しかも人妻が随分とお好きだからな」

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