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花嫁には口付けを

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 秀人は体調不良を誤魔化すよう、口付けを再開する。優子は流されまいと秀人の額へ手を当てた。

「いいから、集中しろ」

「で、でもーー!」

 秀人の腕が腰から胸へ上がってきて、衣擦れをおこす。優子は自らの胸が形が変わる勢いで揉まれるのに呆然とし、少しして妙な気持ちがわいてきた。それは擽ったさとは違う感覚だ。

「あの、衣装が皺になってしまいますので」

 控えめに秀人の動きを制止する優子。

「男共が言っていたが、俺は男性の機能だけは素晴らしいそうだぞ。どうだ?」

「そう言われましても、わたしにはーーっ」

 秀人は胸の頂きを見つけ、指の腹でなぞる。頂きは刺激されたことで場所をくっきり主張して、これに怯え逃れようとする優子に秀人がわざと優しい口付けを落とす。

 処女の優子では秀人の手練の優劣は判別しがたい。それでも秀人との口付けは身体の芯を痺れさせる。無理やりされた時も今見たく啄む時も。
 優子の唇が雛鳥がエサを貰う風に自然と開いていき、後ろ髪を一度撫でられてから深く絡めあった。

「お前は不出来な生徒だな、舌を使え」

「ん! は、はぁ、んーー」

 もはや優子は息で返事をしていた。いつの間にか外の会話が耳に入ってこなくなり、ぴちゃ、ぴちゃ、という水音しか聞こえない。

「秀人様、体調がーー」

「まだ言うか。黙って感じてろ」

 野生の動物でもあるまいに、弱ったところを見せたがらない秀人。この様子では体調不良を酒井にすら教えていないだろう。
 結婚式の最中にこんな口付けを交わすなどあり得ない。しかし酸素が足らず、理性が行き渡らない優子は秀人の熱に飲み込まれ、降参とばかりに腕を垂らす。
 その指先に誓いの指輪がはめられていないと気付き秀人がちっと舌を打つ。

「秀人、さま?」

 口付けの雨が止む。

「ーーはは、どんなに綺麗な顔をしていても、所詮は雌だな」

「い、痛っ!」

 秀人はいきなり汗ばむうなじに噛み付く。痛みに仰け反り、そのまま扉を伝って座り込む優子は不敵な笑みを見上げる。
 首筋へ手をやり、一体何をされたのかと瞬きを繰り返す。それに雌呼ばわりされた。

「戻るぞ。いつまでも油を売っていると小言が飛んでくる」

「……」

 拒まなかったのに機嫌を損ねられて、優子は傾げる。

「そんな物欲しそうな顔しなくても、夜にはたっぷり可愛がってやる。早く立て」

 秀人は有無も言わさず優子を引きずり上げた。会場へ戻ると言われても優子はまだ熱から覚めておらず、足取りや思考はふわふわして定まらない。
 一度、鏡台で身なりを確かめたいが許可はおりなかった。秀人は乱れた花嫁の髪を雑にすき、これで充分と頷く。
 もしも優子が自分が今どんな顔をしているか見たなら、決して人前には出ないだろう。


 二人の戻りを待つ酒井は並んで歩くーー正解に表すと優子が引ずられてくる姿が見えるなり、準備を整えた。

「お待たせしました、新郎新婦の登場です! どうぞ盛大な拍手でお迎えくださいませ」

 小芝居じみた演出に秀人は額を押さえる。仕方ないと息を吐いて、優子に腕を組むよう顎で指示を出す。
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