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花嫁には口付けを
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昨日の今日では良子が選んだ衣装の重みは別物で、優子は身に着けるのが正直心苦しかった。衣装にまとわりつく後ろめたさを脱ぎ捨ててしまいたい。
秀人が用意した衣装に手を伸ばす、優子。昨夜の件が無ければ着替えをしなかっただろう。
二着とも他者に仕立てられたものでも、暁月の花嫁の衣装は優子の趣向に近い。まるで少女時代に憧れた花嫁の印象を具現化した衣装だ。ふんだんに施された手縫いの刺繍が見事なうえ、光の加減で様々な表情をみせる。
「別に気に入らないなら着なくてもいいぞ」
「……素敵です」
「は、当たり前だろう。暁月の花嫁に恥じない仕立てだ。だが、お前はそれが着たかったんだろう?」
「……こちらを着てもいいですか?」
「着たいなら勝手にしろ」
秀人は部屋を出ていき、入れ替わりで身支度を整える者達が入ってきた。
優子は彼女等にこの衣装に似合う化粧や髪型を所望し、鏡台の前に立つ。
■
新たな衣装に見を包まれた優子を見て、秀人は八重歯を覗かせる。彼の少年みたいな笑顔の二面性があり、それは無邪気さと残酷さだ。
「奥様、大変お似合いですよ」
「何故、お前が先に言う?」
「秀人様が花嫁を前に、いつまでも無言でいらっしゃるからですよ」
「言おうとしてたさ」
「美しいと?」
また繰り広げられる会話に優子は眉を下げる。秀人と酒井は侍従関係というより仲の良い友人同士だ。
秀人は酒井の切り返しに間を置き、ぶっきらぼうに告げる。
「まぁ、最高の衣装を着たら誰でも見られるだろうよ」
「はぁ、またそんな言い方を。奥様、秀人様は素直になれないだけで奥様をお美しいと思っていますよ」
それにしても酒井に奥様、奥様と呼ばれるのは慣れない。確かに形式上、優子は暁月の妻である。しかし秀人は認めていない、いや認めていないというより優子に内助の功など期待しないだろう。
「そういえば例の使用人はどうした? 草葉の陰で泣いているか?」
いちおう目出度い席であるのに草葉の陰は如何なものか。優子は首を横に振った。
「徳増は使用人ではなく教育係です」
「はぁ、ご結婚されてまで教育係をお連れになるとは【女性として一人前ではない】そう聞こえてもしまいますよ。あなたの家は未熟な花嫁を暁月家に嫁がせたのですか? 違いますよね?」
ここで厳しい指摘をしたのは酒井。
「使用人? 教育係? 肩書はどうであれ、嫁入り道具に男を持ってくるなんて……私も驚きましたよ。奥様は聡明な方であると聞き及んでおりましたのでーー」
すると、みなまで言うなと秀人が手を翳す。
「……で、参列者らは何か言ってきたか?」
小言を遮りはするが、秀人は酒井の優子への軽口を咎めなかった。それは優子の言葉を真似れば、酒井は使用人でなく秘書であり、優子にへりくだる義務はないから。
「公認の愛人とやらに興味をお持ちの方は多いようですが、表立って詮索はされませんでしたね。と言っても早めの対処をお願いします」
「対処? なんのだ?」
「新婚早々、別居をされませんようにと言ってるんです」
秀人が用意した衣装に手を伸ばす、優子。昨夜の件が無ければ着替えをしなかっただろう。
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「何故、お前が先に言う?」
「秀人様が花嫁を前に、いつまでも無言でいらっしゃるからですよ」
「言おうとしてたさ」
「美しいと?」
また繰り広げられる会話に優子は眉を下げる。秀人と酒井は侍従関係というより仲の良い友人同士だ。
秀人は酒井の切り返しに間を置き、ぶっきらぼうに告げる。
「まぁ、最高の衣装を着たら誰でも見られるだろうよ」
「はぁ、またそんな言い方を。奥様、秀人様は素直になれないだけで奥様をお美しいと思っていますよ」
それにしても酒井に奥様、奥様と呼ばれるのは慣れない。確かに形式上、優子は暁月の妻である。しかし秀人は認めていない、いや認めていないというより優子に内助の功など期待しないだろう。
「そういえば例の使用人はどうした? 草葉の陰で泣いているか?」
いちおう目出度い席であるのに草葉の陰は如何なものか。優子は首を横に振った。
「徳増は使用人ではなく教育係です」
「はぁ、ご結婚されてまで教育係をお連れになるとは【女性として一人前ではない】そう聞こえてもしまいますよ。あなたの家は未熟な花嫁を暁月家に嫁がせたのですか? 違いますよね?」
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「使用人? 教育係? 肩書はどうであれ、嫁入り道具に男を持ってくるなんて……私も驚きましたよ。奥様は聡明な方であると聞き及んでおりましたのでーー」
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「公認の愛人とやらに興味をお持ちの方は多いようですが、表立って詮索はされませんでしたね。と言っても早めの対処をお願いします」
「対処? なんのだ?」
「新婚早々、別居をされませんようにと言ってるんです」
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