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それぞれの誓い
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「だから徳増は? 何処?」
掴みかかってきそうな鋭さで徳増を探す良子。
「徳増なら仕事へ。今夜は遅くなると聞いてますが……あの、徳増が何か?」
「は、あんたに関係ないでしょう? あんたは暁月と結婚するんだからさ」
いまいち良子の目的が掴めないが、優子は姉に椅子をすすめてみる。誤解があるなら解きたい、話し合いをしたい。もう一度仲の良い姉妹に戻りたい。
「わたしはお姉様が無事ならそれでいいんです。暁月様との結婚を身代わりとは考えていません。お姉様が心に決めた相手とーー」
話の途中でかぶりを振る良子。それ以上は言ってくれるなという意味だ。
「その相手が徳増だと言ったら、あんたはどうする?」
良子は着席せず、本棚へ寄りかかった。家出をした令嬢であるのを誤魔化す服装は胸元を強調しており、丈も随分短い。街ですれ違う人々は良子の顔より身体へ意識を向けるだろう。
「徳増?」
優子が質問を聞き返すだけなので、良子は分かりやすく噛み砕いて言い直す。
「あたし、徳増が好き。徳増と結婚したい」
「……」
「使用人と結婚したいなんて物好きと笑えばいいよ。あたし本気。徳増を愛している」
「そんな、まさか、お姉様が徳増を愛している?」
「気付かなかった? まぁ、気付くはずないわよね。あんた鈍感だもの」
良子は適当な一冊を抜き出すと、姉妹の在りし日がそこへ綴られているかのよう語り始めた。
「あんたに専属の使用人がつくと聞いた時、他の使用人達と同じであたしを馬鹿にするんだと思った。綺麗で頭も良くて、おまけに性格までいい妹と比べてくるに違いないと決めつけてた」
「違う! 徳増はそんな人間じゃない!」
「そう、その通り。徳増はあたしみたいなのにも礼を尽くしてくれた、否定しないでくれたよ。だから惹かれたんだ。
ねぇ、徳増をあたしにくれない? あんたは結婚するんだし、徳増はもう要らないよね?」
優子は姉の幸せを願う一心で暁月との結婚を決めた。ところが真実の蓋を開いてみれば、良子が心に決めた相手というのは徳増であると言う。これは手放しで喜べない。
優子にとっても徳増は信頼出来る人間である。徳増へ心を寄せる良子を責めるつもりはないが、愛している相手に父の世話をさせろと平然と言い放つ唇が信じがたく受け入れ難い。
第一、徳増はものではなく、譲る譲らないの対象とはなり得ないのに。
「申し訳ありませんが、お姉様のお願いでもきけません。徳増はわたしと共に暁月家にまいります」
「ーー嘘でしょ? 嫁ぎ先に連れて行くの?」
「はい、暁月様も認めて下さいました」
「どういう意味か分ってるんでしょうね! 徳増を愛人にしたの?」
一気に沸き上がった怒りをぶつけられ、優子は項垂れる。良子の反応は当たり前で、徳増に好意を抱いているなら尚更だ。どう説明しても姉は納得しないだろうし、ならばいっそ黙っていた方がいい。不用意に良子を傷つけたくないと唇を噛む。
「本当はあたしが徳増が好きなのを知っていて、こんな仕打ちをしたんじゃない? 徳増と結ばれたくて家出をしたのを恨んでるんでしょ? 暁月みたいなのと結婚させられる腹いせ?」
ここまで理不尽にまくし立てられると、流石に優子の口も開く。
「わたしは、そんな……徳増がお好きならお父様達に相談なさったら良かったんじゃないですか? 正々堂々お気持ちを貫こうとされたら状況は変わっていたかもしれませんよ?」
たとえ素直に打ち明けたところで、両親が良子と徳増の交際を許したはずがない。優子はそうした根本的な部分を理解していないのだ。常に真っ直ぐ、常に正しい道を選べばいいと疑わない。
掴みかかってきそうな鋭さで徳増を探す良子。
「徳増なら仕事へ。今夜は遅くなると聞いてますが……あの、徳増が何か?」
「は、あんたに関係ないでしょう? あんたは暁月と結婚するんだからさ」
いまいち良子の目的が掴めないが、優子は姉に椅子をすすめてみる。誤解があるなら解きたい、話し合いをしたい。もう一度仲の良い姉妹に戻りたい。
「わたしはお姉様が無事ならそれでいいんです。暁月様との結婚を身代わりとは考えていません。お姉様が心に決めた相手とーー」
話の途中でかぶりを振る良子。それ以上は言ってくれるなという意味だ。
「その相手が徳増だと言ったら、あんたはどうする?」
良子は着席せず、本棚へ寄りかかった。家出をした令嬢であるのを誤魔化す服装は胸元を強調しており、丈も随分短い。街ですれ違う人々は良子の顔より身体へ意識を向けるだろう。
「徳増?」
優子が質問を聞き返すだけなので、良子は分かりやすく噛み砕いて言い直す。
「あたし、徳増が好き。徳増と結婚したい」
「……」
「使用人と結婚したいなんて物好きと笑えばいいよ。あたし本気。徳増を愛している」
「そんな、まさか、お姉様が徳増を愛している?」
「気付かなかった? まぁ、気付くはずないわよね。あんた鈍感だもの」
良子は適当な一冊を抜き出すと、姉妹の在りし日がそこへ綴られているかのよう語り始めた。
「あんたに専属の使用人がつくと聞いた時、他の使用人達と同じであたしを馬鹿にするんだと思った。綺麗で頭も良くて、おまけに性格までいい妹と比べてくるに違いないと決めつけてた」
「違う! 徳増はそんな人間じゃない!」
「そう、その通り。徳増はあたしみたいなのにも礼を尽くしてくれた、否定しないでくれたよ。だから惹かれたんだ。
ねぇ、徳増をあたしにくれない? あんたは結婚するんだし、徳増はもう要らないよね?」
優子は姉の幸せを願う一心で暁月との結婚を決めた。ところが真実の蓋を開いてみれば、良子が心に決めた相手というのは徳増であると言う。これは手放しで喜べない。
優子にとっても徳増は信頼出来る人間である。徳増へ心を寄せる良子を責めるつもりはないが、愛している相手に父の世話をさせろと平然と言い放つ唇が信じがたく受け入れ難い。
第一、徳増はものではなく、譲る譲らないの対象とはなり得ないのに。
「申し訳ありませんが、お姉様のお願いでもきけません。徳増はわたしと共に暁月家にまいります」
「ーー嘘でしょ? 嫁ぎ先に連れて行くの?」
「はい、暁月様も認めて下さいました」
「どういう意味か分ってるんでしょうね! 徳増を愛人にしたの?」
一気に沸き上がった怒りをぶつけられ、優子は項垂れる。良子の反応は当たり前で、徳増に好意を抱いているなら尚更だ。どう説明しても姉は納得しないだろうし、ならばいっそ黙っていた方がいい。不用意に良子を傷つけたくないと唇を噛む。
「本当はあたしが徳増が好きなのを知っていて、こんな仕打ちをしたんじゃない? 徳増と結ばれたくて家出をしたのを恨んでるんでしょ? 暁月みたいなのと結婚させられる腹いせ?」
ここまで理不尽にまくし立てられると、流石に優子の口も開く。
「わたしは、そんな……徳増がお好きならお父様達に相談なさったら良かったんじゃないですか? 正々堂々お気持ちを貫こうとされたら状況は変わっていたかもしれませんよ?」
たとえ素直に打ち明けたところで、両親が良子と徳増の交際を許したはずがない。優子はそうした根本的な部分を理解していないのだ。常に真っ直ぐ、常に正しい道を選べばいいと疑わない。
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