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それぞれの誓い

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 優子は自覚していないが、優子は徳増のことになると途端に感情をあらわにする。それが恋愛感情が起因でないにしろ、周囲からすれば特別と映る。家柄や身分を考慮せず、優子と徳増が並べば、さぞ絵になるだろう。

 押し黙ってしまった父親に気まずくなって、優子はカップを寄せる。

「このお茶、あまり美味しくないですね? わたしが淹れたからかしら」

 優子の自虐的な呟きに父もお茶を含む。香りや色は言うほど悪くはないが、優子の舌はいつもの鼻に抜けていく旨味を拾えない。

「……私には分からん。美味しいよ。当分お前が淹れたお茶は飲めないからな、ゆっくり味わおう」

 世辞で言われていると優子は察し、それ以上の言及はしない。

「お父様、どうかお身体を大事になさって下さい。明日、わたしは立派に努めてまいります」

「優子……」

 花嫁の両親が参列しない結婚式にどんな印象を抱かれるか、優子とて承知している。
 そもそも祝福して貰いたいと言う方が酷であるし、本気で愛娘の晴れ舞台を記憶に残したいならば病をおして姿を見せるはず。ちなみに母親も体調不良を理由に参列を拒否していた。
 つまり、優子の結婚生活に影響を及ぼそうと両親は体裁を選ぶ。

「今まで大事に育てて下さり、ありがとうございます」

 優子は深く頭を下げ、家長は目頭を抑え、唇を噛んだ。



 夕食をすませ、私室で月を見上げているとノックがされる。来訪者が徳増と決めつけ、優子が扉を開けるとーーいきなり目の前に影が飛び込んできた。

「お、お姉様?」

 仰け反った優子だが姉の気配に姿勢を戻す。

「お姉様ですよね?」

「一人? 徳増は?」

「え? えぇ、わたし一人ですけれど……」

 良子は無遠慮に室内へ入り、外套を払う。明かりの下で素顔が見え、優子は姉と確信する。
 久し振りに対面する良子に言葉が出てこない。たくさん聞きたい事があるのに、無事で居てくれただけで胸が一杯となる。

「あなた、ちゃんと身代わりになってくれたみたいね」

 感動する優子の傍ら、良子の声は刺々しい。

「身代わりというか……お姉様には心に決めた人がいるのでしょう? その方とは? ご一緒に帰って来られたのですか?」

「はぁ? こんな家、帰って来るはずないでしょ! あんたって相変わらず鈍感ね。あたしは暁月と結婚したくなくて逃げてたの!」

 書籍に囲まれた色気のない環境を見下し、毒付く。てっきり屋敷に戻ってきてくれたのだと勘違いする優子は表情を曇らせる。

「お父様が倒れられ、明日からお世話する人が居ないんです。暁月様にはお医者様と使用人の手配をお願いしようと……」

「もしかして、あんたと入れ替わりで帰ってきて、あの男の看病するとか思ったの? 冗談じゃない。世話なら徳増にやらせれば? で、徳増は?」

 母親が違う姉妹が平等に扱われてきたかと問えば、答えは否。後妻の律子は優子ばかり可愛がり、父親も暁月との結婚を良子に強いた。使用人等さえ良子を厄介者扱いした中で、徳増だけは良子をお嬢様として接する。 
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