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籠の中の鳥
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「やめて、徳増がわたしを傷付けるなんて、ありえないでしょ!」
優子が即座に否定したのに対し、徳増はゆっくり首を横に振った。
「ーー本当にそうでしょうか? たとえば、お茶に細工がされているかも知れませんよ?」
「細工? まさか毒でもいれてると?」
「はい。お嬢様が気付いていないだけで」
「ふーん、なら毒が入っていないって証明するわ」
優子は鼻で笑う。徳増がそんな真似するはずがないのだ。徳増はいつも優子を大切に扱い、味方でいてくれる。この先もずっと。
きっと秀人を悪く言わない自分が面白くないのだろう、優子は判断すると手を掴まれたままカップを口にする。
ごくごくと飲みきる優子。
「美味しいわ!」
空になったカップを徳増へ見せる。徳増にいつまでも厳しい顔をされたくないので、笑顔を添えて。
しかし徳増は表情を変えない。
「徳増、怒らないで」
優子はなにやら急に寂しくなってくる。徳増に突き放されるのが堪えられなくなり、わざと幼い子のような物言いをした。
一気に流し込んだせいか、胃からこみ上げてくるものがある。優子は徳増の手を背中へ回そうと突っ伏し、撫でて欲しいと合図した。
こういう露骨な甘え方をされれば結局この男は弱く、眉が動く。
「吐き気がしますか? 空腹に流し込むからですよ。夕食をきちんと召し上がらないから」
「食欲がわかないの」
「クッキーは別腹ですか?」
「そうよ、クッキーはあなたが作ってくれたんだから食べるに決まってるじゃない」
「……そうですか」
呆れた声でも優子を心地よくさせる。徳増は優子の背中を優しく擦った。
「徳増、わたしはね、お父様に誇りだと言われて嬉しかった反面、いつか期待を裏切ってしまうのではないかと怖いの」
撫でられ安心する優子から珍しく弱音が吐き出される。本人は優等生を演じるつもりはないが、根を上げる事で周囲の信頼を損なうんじゃないかと常に顔色を窺う。単純に自信がない。
「お父様、お母様やお姉様に見捨てられ、暁月様にも愛して貰えない、そんな姿が過ると不安で仕方ない。どうしたら上手く行くのかしら? 皆が幸せになれるのかしら?」
「残念ですが、そんな魔法ありませんよ。けれど、旦那様達がお嬢様から離れていこうと私が側にいますし、皆が不幸になろうとお嬢様が幸せであれば問題ありません」
徳増の手は背中から優子の髪へうつり、丁寧にすく。家長は優子を誇りと言い表すが、徳増は違う。
「貴女は私の理想。私のような者が触れてはならない芸術品です。だからこそ私に貴女は傷付けられない、壊せないのでしょう」
優子は目を瞑る。だんだんと眠気に包まれ、徳増の声が子守唄みたく遠い。そして心地よい。
「さて、薬がまわったようだな。最近は効きがいい、それだけ疲弊しているのか。お可哀想に」
優子が抱き上げられる。すると徳増の心音を無意識に探し当てて頬を寄せていった。
「芸術品とは価値が分かる者の手元にあってこそ、だ」
徳増の足は彼の私室へ運ばれていく。
優子が即座に否定したのに対し、徳増はゆっくり首を横に振った。
「ーー本当にそうでしょうか? たとえば、お茶に細工がされているかも知れませんよ?」
「細工? まさか毒でもいれてると?」
「はい。お嬢様が気付いていないだけで」
「ふーん、なら毒が入っていないって証明するわ」
優子は鼻で笑う。徳増がそんな真似するはずがないのだ。徳増はいつも優子を大切に扱い、味方でいてくれる。この先もずっと。
きっと秀人を悪く言わない自分が面白くないのだろう、優子は判断すると手を掴まれたままカップを口にする。
ごくごくと飲みきる優子。
「美味しいわ!」
空になったカップを徳増へ見せる。徳増にいつまでも厳しい顔をされたくないので、笑顔を添えて。
しかし徳増は表情を変えない。
「徳増、怒らないで」
優子はなにやら急に寂しくなってくる。徳増に突き放されるのが堪えられなくなり、わざと幼い子のような物言いをした。
一気に流し込んだせいか、胃からこみ上げてくるものがある。優子は徳増の手を背中へ回そうと突っ伏し、撫でて欲しいと合図した。
こういう露骨な甘え方をされれば結局この男は弱く、眉が動く。
「吐き気がしますか? 空腹に流し込むからですよ。夕食をきちんと召し上がらないから」
「食欲がわかないの」
「クッキーは別腹ですか?」
「そうよ、クッキーはあなたが作ってくれたんだから食べるに決まってるじゃない」
「……そうですか」
呆れた声でも優子を心地よくさせる。徳増は優子の背中を優しく擦った。
「徳増、わたしはね、お父様に誇りだと言われて嬉しかった反面、いつか期待を裏切ってしまうのではないかと怖いの」
撫でられ安心する優子から珍しく弱音が吐き出される。本人は優等生を演じるつもりはないが、根を上げる事で周囲の信頼を損なうんじゃないかと常に顔色を窺う。単純に自信がない。
「お父様、お母様やお姉様に見捨てられ、暁月様にも愛して貰えない、そんな姿が過ると不安で仕方ない。どうしたら上手く行くのかしら? 皆が幸せになれるのかしら?」
「残念ですが、そんな魔法ありませんよ。けれど、旦那様達がお嬢様から離れていこうと私が側にいますし、皆が不幸になろうとお嬢様が幸せであれば問題ありません」
徳増の手は背中から優子の髪へうつり、丁寧にすく。家長は優子を誇りと言い表すが、徳増は違う。
「貴女は私の理想。私のような者が触れてはならない芸術品です。だからこそ私に貴女は傷付けられない、壊せないのでしょう」
優子は目を瞑る。だんだんと眠気に包まれ、徳増の声が子守唄みたく遠い。そして心地よい。
「さて、薬がまわったようだな。最近は効きがいい、それだけ疲弊しているのか。お可哀想に」
優子が抱き上げられる。すると徳増の心音を無意識に探し当てて頬を寄せていった。
「芸術品とは価値が分かる者の手元にあってこそ、だ」
徳増の足は彼の私室へ運ばれていく。
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