上 下
12 / 120
籠の中の鳥

籠の中の鳥

しおりを挟む
 秀人は屋敷内を注意深く見ながら歩いていた。
 財政難であるが調度品は質のよいもので揃えられ、趣きもある。優子を囲っておくには最適だ。深層のご令嬢よろしく引きこもってきた優子は秀人からすると風切羽を切った鳥も同然。柔らかに揺れる黒髪を一房掴もうとしたところ、優子が振り向く。

「こちらがわたしの部屋です」

「あっちは?」

「あちらは姉の部屋ですね」

 優子の私室は良子より狭く、陽の当たらない角となる。この家が優子の将来性で成り立っていたのは誰もが知っており、部屋の割り当てが不当に思える秀人は傾げた。

「何故、一番良い部屋を使わない?」

「何故って……」

 優子も質問の意図が分からず傾げ返す。だが扉が開けられ、秀人は答えを自分で見つけた。部屋には沢山の書籍が並べられている。

「すごいな」

「両親が揃えてくれました」

「一日中、本を読んでるのか?」

「そういう日もあります」

 秀人が先に入室し、書庫といっても過言ではない空間へ好奇心を巡らす。棚へ手を伸ばし、中身を吟味し始めた。

「暁月様も本がお好きですか?」
 
 優子はその態度に少々期待を込め、尋ねてみた。
 
「いいや、まったく。これだけあれば価値のあるものがあるだろう? 知り合いに本に目がない男がいてな、好みなら大金を払うのもいとわないんだ」

 開いていた項がぱたん、と閉じられる。

「断っておくが俺に学はない。こんな薄暗い部屋で知識を貪る神経など分からんし、ここが年頃の女が生活する場所とは到底思えない」

 部屋の入口で立ち止まる優子へ、こちらに来いと顎で指示を出す秀人。
 奥の寝台までの距離がまるで処刑台に続く道程みたい。優子は浅い呼吸を繰り返す。

「扉は閉めろよ。見せつけてやりたいなら構わないが」

「あ、あの、ところでお姉様とは、その」

「嫉妬か? はは、そんな訳無いか。お前にそういう感情があれば、まだ可愛気があるのに」

 秀人は寝台に腰掛け、襟をくつろげる。着崩した姿から雄臭さが漏れ、優子をますます追い込む。

「可愛くないと思わるなら、こういう事はしなくとも」

「可愛くないが綺麗だとは思う。あんたは綺麗なものに囲まれ生きてこれたんだ。都合がいい物語ばかり読んできたからか、誰にでも等しくお優しい」

 秀人は優子を引き寄せ、そのまま組敷いた。抵抗する間もなく押さえ付けられ、呆然と見上げる優子。

 秀人が優子を綺麗と言い表すのは揶揄半分、本音半分だろう。優子はそれこそお伽噺より抜け出してきた、大事に大事に育てられたお姫様。

 ごくり、唾を飲む秀人。

「や、やめて下さい」

「悪いが最高に興奮してる。俺みたいな男があんたを好きにできるなんてな」

 優子の懇願は秀人の口付けによって吸い込まれていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。 だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。 そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました

灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き? 僕はレイチェルのこと大好きだよ。」 没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。 それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。 けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。 なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。 あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。 奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。

かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。  一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。  上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。  幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。  どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。  夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。  明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。  どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?  勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。 ※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。 ※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。 ※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。 ※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。

処理中です...