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暁月という男

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 女性の件に続き、徳増の新たな一面を見せられ、優子が緊張に似た強張り方をした。
 無意識で徳増の裾を掴む。

「徳増、暁月様をきちんとお手伝いできるの?」

 シワを正すことはせず、むしろ上着を引っ張る幼い仕草に目を細める徳増。

「大丈夫です、私は丸井家に少しだけ貸しがあるのですよ」

「貸し?」

「はい、丸井家のかわいい仔猫がした悪戯の後始末をして差し上げました。そんな私の願いなら丸井の旦那様は聞き入れてくれましょう」

「仔猫? 悪戯? どういう意味?」

「お話してもお耳を汚すだけ。お嬢様は知らなくてもいいのですよ」

 両親が丸井家は選民意識がかなり強いと言っていたが、優子自身は交流したことはない。優子の教育係をすやる徳増の出自は低くないにしろ丸井が交友するだろうか、判断がつかないまま、やりとりは進む。

「私が丸井家との間を執成したら、私を召抱えて頂けますか?」

「おとなしく俺の手足となり働くか?」

「暁月様の手足となるのを優子様がお望みになれば、ですね」

 秀人は会話に間を作る。
 徳増の出す交換条件は悪くない、いや、魅力しかない。そこが怪しくもある。
 優子をうまく取り込めさえすれば、徳増は家令となったも同然、秀人の目は徳増が優子には過ぎた道具として映す。

「そこまで言うなら丸井との交渉をやらせてやってもいい。ただしーー」

 ぎらり、秀人の表情が尖る。

「お嬢さんが本当に清廉潔白なのか、調べてもいいか? なに、どうせすぐ夫婦となるんだ。味見程度に齧ってもいいだろう? 傷物にした責任はきちんと取ろう」

 秀人が言わんとする主旨は直球で優子を打ちのめす。衝撃を一人では受け止めきれず、優子はさっと徳増の影へ身を寄せた。未だ身も心も捧げる覚悟はできていない。

「暁月様、旦那様が臥せっているのです。戯れもそこまでにして下さい」

 徳増が助け舟を出す。

「おう、そうだったな。孫の顔でも見せてやれば元気がでるんじゃないか?」

 高笑いを添えられ、徳増も絶句する。
 婚姻前に行為をするなど非常識。しかし秀人に正当法は通用しないし、常識を語っても無駄だ。 

 徳増を退け、秀人は隠れた優子の腕を強引に掴もうとした。

「さぁ、お嬢さんの部屋に案内しろ」

「乱暴な真似はおやめください!」

「使用人は口を出すな! これは夫婦の問題だぞ」

「まだ正式なご夫婦ではありません!」

「は、御託はうんざりだ。いい加減黙れ、使用人。妻になる女をどうしようとお前に関係ない。これ以上口を出せばーーお嬢さんをもっと酷く扱うぞ」

 怯えきった優子は声を出せない。掴まれた部分から秀人の本気の熱が浸食してくる。

 優子とて、言われなくともその時がくれば身を捧げるつもりだ。秀人との子供を授かるのが義務であると承知する。
 ただし、こんな展開は心が追いつかない。率直に抱かれたくない。

「暁月様、信じて下さい、わたしはーー徳増との間を疑い、こういう事をされるのが悲しいです」

「その顔……庇護欲を煽るのがうまいな。そこの使用人や大抵の男共なら許してやるんだろう。だが、俺は違う」

「は、離して下さい! 話を聞いてください!」

「話は寝台の中で聞いてやる」

 奥の部屋へ引きずられそうになり、ついに優子は悲鳴を上げた。

「騒ぐな。なんなら使用人が見ている前で剥いでもいいんだが?」
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