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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで2

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 私が抱き締めやすいように斗真さんは膝を折る。彼が芝居がかったやりとりをするのは私を素直にさせる為で、斗真さんが好きな事やお金がない事もありのまま伝えられる。

「斗真さん、好きです」

「うん、俺も姫香が好きだ。この薔薇を受け取ってくれる? 花好きの君なら一本の赤い薔薇の花言葉、知ってるよな?」

「……はい、私にも斗真さんしかいません」

 薔薇を受け取ると、斗真さんから強く抱き寄せられた。

 私、本当に幸せよ。そう心より感じられた時、室内に母の気配があった気がする。たぶん母は私達を祝福して微笑んでくれたのだと思う。そして父の回復を祈っていると。

 ーーこうして、私の初恋は実ったのでした。




 後日、私は鏡の前でくるり、ターンをしている。

「ねぇお父様、どこかおかしくないかしら?」

 今日は斗真さんと私の婚約パーティーが催され、日本からは父が出席してくれた。当初は親しい人だけを呼ぶ計画であったが、斗真さんの秘書がパーティーを仕切った事で仕事関係者も招く運びとなり、随分大掛かりな会となる。

「おかしくなどないよ。姫香は何を着ても愛らしい」

「もうお父様ったら、私に甘いんだから!」

 父はあれから容態が安定し、車椅子を使用しつつも日常生活へ戻れた。最近では現場復帰も視野に入れ、病に伏せていた期間を感じさせない程の活力で満ちている。

「姫香の花嫁衣装を見るまではと踏ん張っていたが、それだけじゃ物足りなくなってきたよ」

「当たり前です! お父様にはいつまでも元気でいて貰わなくては。この先、授かればですが家族も増えます」

 伯父様や浅田さんの話は体調が完璧になったら全貌を話そうと決めている。しかしながら父も薄々は気付いているはずだ。

「新しい家族、か。それは魅力的な提案だ」

 控室に斗真さんが入ってくる。ドアを開いてからコンコン、ノックをして。
 今日はいつにも増して端正な顔付きと服装で、そんな含み笑いを仕掛けられるとドキドキする。

「斗真さん! お父様の前でよしてよ!」

「何だ? 言い出したのは姫香だろう?」

「私はその、お父様が寂しくないようにと」

 私はイタリアに在住し、屋敷で一人暮らしをする父。皆、変わらず支えてくれてはいるものの、あの広さは持て余し寂しいはずだ。

「姫香、斗真君、二人の気遣いは本当に有り難く思っている。特に斗真さんには金銭面でかなり負担をかけて申し訳ない」

「頭を上げて下さい、お義父さん。法的には未だですが俺はあなたの息子です。家族とは支え合うものでしょう?」

 車椅子の脇に片膝をつき、目線を合わせる斗真さん。
 斗真さんは立場に驕ることなく、相手に寄り添うことが出来る人。私は彼を尊敬する。

「娘を宜しく頼むよ。私の大事な娘を幸せにしてやってくれ」

「はい、必ず幸せにします」

 父と斗真さんが固く握手を交わすのをみ、目頭が熱くなった。

「父と握手しているのを見たら感度しちゃった。ありがとう、父に優しい言葉を掛けてくれて」

 控室を出て、斗真さんと会場へ向かう。

「私以外の肉親である伯父様があんな風だから、父は孤独を感じていると思ったの。私も日本へ頻繁に帰れないし」

 再会した頃より私の口調は砕け、きちんと意見も言えるようになった。

「お義父さんの研究の手伝いが出来るのは峯岸グループとしてもメリットはあるんだ。頭を下げなくたっていい。それに君も今や研究員の一人じゃないか? 妻の夢を応援してもいいよな?」

 悪いはずがない。私は父の仕事を正式にサポートする研究員として迎えられた。

「だから、そういう所が好きなんです! こんな格好いい斗真さんと結婚出来るなんて、私は幸せだなぁ」

 自分から手を繋ぎ、微笑む。すると珍しく斗真さんは複雑な顔を浮かべた。

「どうしたの?」

「いや、前に秘書に言われた事が過ぎってさ」

「何を言われたの?」

「『女性の言葉を額面通り受け取ってはいけません』と。この頃の姫香は素直に気持ちを伝えてくれるようになって、それはそれで嬉しいんだが、素直じゃない君も恋しいというか。あれはあれで可愛かったなと」

 それはそれで、あれはあれと乾いた笑い声を出す斗真さん。

「……斗真さん、私に素直になる魔法を掛けたんじゃなかった? ふーん、そっか、素直じゃない私の方が好きなんだ?」

「あ、おい! 姫香!」

 私は頬を膨らめ、手を離す。慌ててフォローしようとする斗真さんを擦り抜け、駆け出す。
 幸いこのパンプスは私専用、走ってもジャンプしようと脱げないのだ。

 パーティーの参列者の面々に緊張していたのが嘘みたいに心が軽くなる。
 数十秒後、私の王子様が追い付いたら、ガラスの靴の履き心地を伝えてみよう。

 最高に幸せですーーと。


おわり
 
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