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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで2

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「な、なんだね! 君は? 人の家に勝手に侵入してきて! 警察を呼ぶぞ!」

 打った腰を擦りつつ、伯父様は斗真さんへ食って掛かる。確かに登場の仕方は不審者であり警戒心も剥き出しになるだろう。

「ご挨拶が遅れました、峯岸斗真と申します。姫香さんとは結婚を前提にお付き合いをさせて頂いてます」

「峯岸……斗真? 帰国していたのか?」

 浅田さんといい、伯父様までもが彼の名に怯む。

「えぇ、彼女が別の相手と結婚すると言うものですからすっ飛んで来た次第です。浅田さんとも先程お話をして、姫香との結婚は無かった事になったはずですが? お耳に入っていませんか? あぁ、もしかして浅田さんが伝え忘れたのかな? 都合が悪い件は隠蔽する性格ですし」

「そ、それは……」

「それから庭で花を愛でていたら聞こえてきたのですが、諸々の補償は峯岸が責任を持って対処致します。姫香のお父様の復帰も我がグループでバックアップしますのでご安心下さい」

 ちなみに庭で花を愛でていたのではなく、事態に割り込む機会を狙っていた。私の身に危険が及ぶと分かるなり、飛び込んできたのが証拠だ。

 あの峯岸グループが後ろ盾となると宣言すれば伯父に返す言葉はない。よって残される道はーー保身だ。

「いやいや、姫ちゃんが峯岸の御曹司と気持ちを通わせていたなんて。姫ちゃんは何も言わなかったものですから。私もね老婆心ながら浅田さんを紹介しただけで、峯岸さんという方がいると知っていれば仲人などしません。はは、これからは親戚同士、仲良くしましょう」

 へらへら媚びへつらう様に怒りを覚え、伯父様の元へ駆け寄る。

「私が世間知らずで、伯父様のような人に付け込まれたのが悔しい。もう私達に関わらないで!」

「ーーと、未来の妻が言っておりますので親戚付き合いは遠慮します。結婚式も参列して頂かなくて結構です。あなたは未来永劫他人です」

「いや、私は、そのだな」

「大変申し訳ありませんが、これから商談がありまして時間が無いのです。さようなら」

 斗真さんは伯父様の襟をむんずと引っ張り上げ、窓から放り出す。裸足で庭へ出された伯父は慌てふためくもカーテンを締めてしまう。

「……さてと」

 仕切り直す意味の一呼吸をし、斗真さんは私を見た。髪が乱れ、散々泣いた姿はさぞかし酷いだろう。鏡を見なくても分かる。

「姫香、俺には半日しか、十二時間しか猶予がない。本当の気持ちを教えてくれ。どうして別荘からいなくなった? 姫香の口から聞きたい」

「ご、ごめんなさい、私、私は」

「浅田や伯父様には、自分が思っている事をはっきり言えたじゃないか? 俺には言ってくれないの?」

「言っても、いいんですか?」

「姫香の気持ちが聞きたくて、ここまで追いかけてきたんだ。あぁ、姫香の家、懐かしいな。昔はよく遊びにきた」

 斗真さんはぐるりと室内を見回し、壁の家族写真に目を留めた。

「俺は姫香より少しだけ姫香のお母さんの記憶がある。お母さんはよく窓辺で花を眺め、読書をしていた。俺が両親に構って貰えないのを可哀想と思ったんだろう。童話を読み聞かせてくれ、俺はシンデレラの話を一番気に入ったんだ。なにせシューズメーカーの息子だからな」

 花占いでもする風に思い出を一片、一片、話してくれる。

「姫香が生まれた日の事も覚えているよ。いつか出会う自分のシンデレラには脱げないガラスの靴を贈りたいと当時から考えててさ、姫香を見たとき予感がしたんだ。この子が俺のお姫様だって」

 ここまで言って貰え、私は何を迷うのだろう。
 涙を拭い、姿勢を正すと胸に手を当てた。

「あの時、父の容態が急変して病院へ行かなければいけませんでした。商談を控えている斗真さんにそれを伝えれば私の側についていてくれると自惚れ、どうしても言い出せなかったんです」

「それは自惚れじゃないな。事情を聞いたらそうしていたし、聞かなくとも此処にいるけど」

「あ、あの、仕事は大丈夫なんですか?」

「秘書に散々嫌味を言われた。だが、優先順位は間違えない。俺は仕事も姫香も諦めない選択をする」

「どちらも諦めない選択を?」

「あぁ、姫香はどうするんだ?」

「ーー私は斗真さんが好き、あなたの側にいたい、イタリアへついていきたい。でもお父様の側にもいたいです。こんな我儘を言っても?」

「それが俺のお姫様のご要望とあらば。それではお姫様に魔法をかけてあげましょう」

 斗真さんは胸ポケットに差してあった薔薇をこちらへ向けて、ステッキのように回す。

「あ、言い忘れたが俺の魔法はタダじゃないうえ、掛けたら一生解けないがいいか?」

「ふふ、斗真さんが三人目の魔法使いですか? 魔法使いさん、私、持ち合わせがないんですが?」

「お金なんていらない。俺をもう一度好きだと言って抱き締めてくれればいいよ」
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