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「……手元に携帯がありません。個人の携帯を持ち歩いていないので」
とは嘘でポケットに入っている。
「そう? じゃあ、これに書いておくね」
部長は嘘を見破りもせずメモ用紙へ記入しかけ、はたと仕草を止めた。
「どうかしましたか?」
「君もこういうキャラクターものを使うんだ?」
コンコンと人差し指で用紙をつつく。まるで私がファンシー用品を使用するのが意外と言いたげに。
部長を含めた皆に自分がどう認識されているか承知している。私が家でぬいぐるみに囲まれていると知れば、さぞ驚くだろう。
「部長は『ねぇかわ』をご存知ですか?」
「名前は聞いたことがあるが内容までは。教えてくれない?」
「ーーえ、知りたいんですか?」
「あぁ、君が興味を持つものなら知っておきたいな」
仕事に関係ない事を部長へ説明するのは新鮮、それに少し嬉しい。
「『ねぇかわ』はSNSでも人気なんですけど、可愛いだけじゃなくシュールで、ブラックジョークも折り混ざっていて最近ハマっているんです」
「ふーん、そうなの」
まじまじ『ねぇかわ』を眺める姿が面白い。私は側に寄り、一番お気に入りのキャラクターの紹介もしてみた。
「私はこの『山猫』というキャラクターが好きなんですよ。山猫は頭が良くて何でもそつなくこなす割、肝心な場面で素直になれない性格でして」
「ーーなるほど。頭が良くて何でもそつなくこなすが、素直じゃない、ね」
山猫のイラストを睨み、眉間にシワを作った部長。
「仮にそれが好きな男のタイプと共通しているなら由々しき事態だぞ? 土壇場で己の意思を表明出来ないのは不甲斐ないからな」
思ってもみない方向からの推察をされ、私は吹き出してしまう。
「何がおかしいの?」
「すいません。実は山猫を初めて見た時、部長に似てるって感じたんです。ほら、切れ長な目元とか柔らかそうな毛質がそっくりじゃないですか?」
本人と比べてみたら想像以上に似ていて、クスクス笑いが止まらなくなる。
部長はますますシワを刻んで不服そう。それがまた山猫に似ているものだから面白い。
「……ほぅ、つまりそれは僕が君のタイプって意味でいいのかな?」
「え? えぇ! いきなりどうして、そんな話になるんです?」
「僕が嫌いならば山猫というキャラクターを好きになったりしないでしょう? 少なくとも君は僕の容姿は好ましいんじゃない? そうか、顔立ちが好きか」
大胆なことをさらりと言ってのける。私の笑いは完全に引き、そこから部長のペースに飲まれていく。
「こんなことを言うと嫌味に受け取られるかもしれないが、僕はこの見た目で随分苦労をしてきてね。それは得した数を上回るくらい」
連絡先を記入したメモを名刺のように差し出してきて、私は反射的に頂戴する。
「それでも君に容姿を気に入られるのは光栄だな。ありがとう」
部長はにっこり微笑む。この人は自分がとの角度で笑えば魅力的か、きちんと把握しているのだろう。
「私は部長を見た目で判断しているんじゃありません!」
「うん、だから喜んでいる。君は僕を異性として接しない。社内恋愛するにあたって先ずは男であるのを意識させないと」
「っ、なっ!」
いけない、このまま社内恋愛をする流れになっている。私はルックスではなく仕事面を尊敬すると言ったまで。それに部長を異性とみなさないのは、部長自身がそうさせたのだ。
言い返したい。けれど今はなにより茶番を阻止せねばーー。
「ニャア」
部長が鳴いた。小首を傾げ、甘えるみたいに。
「……」
「どう? 君好みの猫になれた?」
喉まで出かけた言葉を消失させるほど破壊力のある仕草を前にし、私は開いた口が塞がらない。
「勤務中こんなところで二人きりで過ごしたんだ。もはや社内恋愛は始まっていると言っていいんじゃないかな?」
二人きりで過ごしたというより、二人で資料室の掃除をしただけ。仕事をサボっていないかと言われれば、すべき作業は他にある訳だけど。
特に部長は私をからかう暇など無いはず。
とは嘘でポケットに入っている。
「そう? じゃあ、これに書いておくね」
部長は嘘を見破りもせずメモ用紙へ記入しかけ、はたと仕草を止めた。
「どうかしましたか?」
「君もこういうキャラクターものを使うんだ?」
コンコンと人差し指で用紙をつつく。まるで私がファンシー用品を使用するのが意外と言いたげに。
部長を含めた皆に自分がどう認識されているか承知している。私が家でぬいぐるみに囲まれていると知れば、さぞ驚くだろう。
「部長は『ねぇかわ』をご存知ですか?」
「名前は聞いたことがあるが内容までは。教えてくれない?」
「ーーえ、知りたいんですか?」
「あぁ、君が興味を持つものなら知っておきたいな」
仕事に関係ない事を部長へ説明するのは新鮮、それに少し嬉しい。
「『ねぇかわ』はSNSでも人気なんですけど、可愛いだけじゃなくシュールで、ブラックジョークも折り混ざっていて最近ハマっているんです」
「ふーん、そうなの」
まじまじ『ねぇかわ』を眺める姿が面白い。私は側に寄り、一番お気に入りのキャラクターの紹介もしてみた。
「私はこの『山猫』というキャラクターが好きなんですよ。山猫は頭が良くて何でもそつなくこなす割、肝心な場面で素直になれない性格でして」
「ーーなるほど。頭が良くて何でもそつなくこなすが、素直じゃない、ね」
山猫のイラストを睨み、眉間にシワを作った部長。
「仮にそれが好きな男のタイプと共通しているなら由々しき事態だぞ? 土壇場で己の意思を表明出来ないのは不甲斐ないからな」
思ってもみない方向からの推察をされ、私は吹き出してしまう。
「何がおかしいの?」
「すいません。実は山猫を初めて見た時、部長に似てるって感じたんです。ほら、切れ長な目元とか柔らかそうな毛質がそっくりじゃないですか?」
本人と比べてみたら想像以上に似ていて、クスクス笑いが止まらなくなる。
部長はますますシワを刻んで不服そう。それがまた山猫に似ているものだから面白い。
「……ほぅ、つまりそれは僕が君のタイプって意味でいいのかな?」
「え? えぇ! いきなりどうして、そんな話になるんです?」
「僕が嫌いならば山猫というキャラクターを好きになったりしないでしょう? 少なくとも君は僕の容姿は好ましいんじゃない? そうか、顔立ちが好きか」
大胆なことをさらりと言ってのける。私の笑いは完全に引き、そこから部長のペースに飲まれていく。
「こんなことを言うと嫌味に受け取られるかもしれないが、僕はこの見た目で随分苦労をしてきてね。それは得した数を上回るくらい」
連絡先を記入したメモを名刺のように差し出してきて、私は反射的に頂戴する。
「それでも君に容姿を気に入られるのは光栄だな。ありがとう」
部長はにっこり微笑む。この人は自分がとの角度で笑えば魅力的か、きちんと把握しているのだろう。
「私は部長を見た目で判断しているんじゃありません!」
「うん、だから喜んでいる。君は僕を異性として接しない。社内恋愛するにあたって先ずは男であるのを意識させないと」
「っ、なっ!」
いけない、このまま社内恋愛をする流れになっている。私はルックスではなく仕事面を尊敬すると言ったまで。それに部長を異性とみなさないのは、部長自身がそうさせたのだ。
言い返したい。けれど今はなにより茶番を阻止せねばーー。
「ニャア」
部長が鳴いた。小首を傾げ、甘えるみたいに。
「……」
「どう? 君好みの猫になれた?」
喉まで出かけた言葉を消失させるほど破壊力のある仕草を前にし、私は開いた口が塞がらない。
「勤務中こんなところで二人きりで過ごしたんだ。もはや社内恋愛は始まっていると言っていいんじゃないかな?」
二人きりで過ごしたというより、二人で資料室の掃除をしただけ。仕事をサボっていないかと言われれば、すべき作業は他にある訳だけど。
特に部長は私をからかう暇など無いはず。
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