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一章

ロズワルド支部長

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 王都サーシャの魔術協会は一階に受付と販売エリアがあり、魔術士特有のローブに身を包んだ人達や杖を持つ人でごった返していた。

「こちらも人が多いですね。」

「まぁ、支部も兼ねているからな」

 順番を待つ間散策をしてみると、フロアは高度な加工の跡が見える高価な石畳に木製のカウンターが並び、程良く観葉植物が配置され、どことなく気品を感じる。
 働く職員達も男性は紺色、女性はえんじ色の揃いのローブに身を包み、しっかりした教育が施されているのが見て取れる。

 販売エリアでは、魔術士向けの武器や防具を中心にポーションや発動を補助する魔道具など戦いに必要なものから、魔石を使用したランプなど生活用品の魔道具が並び、こちらには一般の人たちも数多く見受けられる。
 魔道具やポーションの製作販売も魔術協会の大きな収益源となっているが、さすがは支部その種類も豊富だ。

「レオ、そろそろ私達の番の様だぞ。」

「はい、今行きます。」

 物珍しく魔道具を物色している僕に師匠から声がかかる。
 混雑するサーシャ魔術協会では入口にある番号を取り、呼ばれるのを待つシステムになっていて、次が僕らの様だ。

 番号が呼ばれ、紺のローブに身を包んだ受付へと進む。

「ようこそ、サーシャ魔術協会へ!本日はどういったご用件でしょうか?」

「はい、支部長から手紙を頂きまして訪ねて来ました。レオとルナと言いますが、支部長に面会出来ますか?」

「支部長からですか?来客の予定は聞いていないのですが、身分証とその手紙を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?封筒のみで結構なのですが……」

 魔術協会で扱う封筒は封をする時に開封されていないことを示す魔法がかけられているのだが、それとは別にサインなどに本人を示す魔法を付与することがある。
 これは真贋判定に使われていて、それを調べるのだろう。

「これで良いでしょうか?」

「はい、確かめさせて頂き……ます……!?
と、特級魔術士ですか???その様な役職は……しかし、この身分証は本物……」

 僕らの身分証を見た受付の男性は、だんだんと独り言になって行く……特級魔術士の存在は知らない者の方が多いとはいえ各国に一つしか無い支部でさえも認知されていないとは、ますます意図的に隠しているとしか思えない。

「あの~。」

「は、はい!」

「僕らの役職も含めて、ロズワルド支部長に確認して頂ければと思うのですが……」

「そ、そうですね。暫くお待ち下さい。」

 毎度毎度、特級魔術士と言うだけで面倒しか無い気がする。
 この点は師匠も同意見な様で深い溜息を吐く。

「まったく、毎度毎度面倒なことだ。あのタヌキに今度会ったら文句を言わねばならんな。」

「まったくです。それにしても、シャナは僕らの事で拘束されたと言ってましたが、受付の職員程度では知らされていないんでしょうかね?」

「多分ロズワルドの側近達だけだろうな。」

「その理由を聞いても?」

「まぁ、大したことはない……来た様だぞ」

 本題を話す前に、先ほどの受付が息を切らして受付カウンターから出て来た。

「お、お待たせしました。支部長がお会いになります。支部長室にご案内します。どうぞこちらに!」

 急に恐縮しているところを見ると、僕らの事を聞いて来たらしい。

 支部長室は二階の一番奥にあり、木彫細工の高級そうなドアが設えてある。

「失礼します!ルナ様とレオ様をお連れ致しました。」

「ようこそおいで下さいました。どうぞ、お座りになって下さい。」

 支部長ロズワルドは仕立ての良い灰色のローブに身を包む、まさにロマンスグレーを絵に描いたような灰色の髪の老紳士だが、溢れ出る魔力量と身のこなしが、まだ現役である事を物語っている。

「呼ぶまで誰も部屋に入れない様に」

 ロズワルドにそう指示されると案内をしてくれた職員は恭しく退席する。

「久しぶりですね、ルナ様。レオ様は初めてですね、サーシャ王国支部長のロズワルドです。」

「初めまして、特級魔術士のレオです。ルナは僕の師にあたります。」

「久しいなロズワルド。タヌキに根回しとは、相変わらず食えんやつだ。」

「まぁまぁ、それぐらいやらないとまた破壊して逃げられますからね。年の功です。」

「ぬかせ!まぁ、今回はタヌキに免じて話だけは聞いてやろう。」

「破壊って、何したんですか!」

「レオ様はご存じないんですね。以前ルナ様は王城の橋桁を吹っ飛ばしたんですよ。」

「中に入れないからだ!」

「王が面会を断ったからと言って普通は橋桁を破壊して乗り込みませんよ。ちなみにまだ指名手配は解けて無いので、街中では慎重に行動して下さい。」

「なっ、お前!わざとだろ?」

「まぁ、なんとでも。」

「たくっ、食えんやつだ。それより本題を話せ。」

「手紙で送った通り、先日発見された未踏破の遺跡調査をお願いしたい。」

「それだけではあるまい。レオ、このロズワルドは協会の中でも一、二を争う戦力と言われた男だ。特殊な付与魔術の使い手で遺跡の調査もやっていた。そいつが調査如きで私を呼ぶか!」

「歳には勝てませんよ。が、仰る通り遺跡がダンジョン化しています。そして何より、冒険者ギルドより先に踏破して頂きたい。」

「この街の冒険者ギルドと争っているのか?」

「ええ、元は冒険者が発見したのですが、ご存知の通り古代魔法文明の遺跡調査は我々の管轄です。もちろん冒険者ギルドに戦力面で依頼したり合同で調査する事はありますが、あくまでも主導は我々です。しかし、サーシャの冒険者ギルドはこの取り決めを破ろうとしているのです。」

「それはお前の保身のためか?」

 魔術協会が各国一つの支部制を採っているのに比べ、冒険者ギルドは各ギルド単位で支部として独立採算制を採っており、それぞれの権限と独自性が強い。
 それだけに各支部長同士は決して仲が良いとは言えず、不正や汚職をお互いに告発することもある。

「いえ、断じて違います。この遺跡は保管庫で本来の持ち主はインディアと言えばお分り頂けますか?」
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