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一章
商業国家と属国サーシャ
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移動は徒歩と馬車が主流であり、船は港を中心とした漁業のみに使用されるこの世界に詳細な地図は存在していない。
正確には、各国にはある程度自国の状況を記したものは存在するのだが、それらを網羅した世界地図というのが無いのだ。
地図は国家機密として、どの国も戦略上、詳細は公開していない上に、基本的な用途は徴税を円滑に進める為のものなので、都市の位置が把握できていれば事は十分に足りる。
そもそも、地図を詳細に記すほどの測量技術は育っていない。
また、魔物が蔓延る中で開けた街を構築することは出来ず、市民の安全を守る上で城壁は必須と言え、こうした都市の構造に加え、この大陸の国家は広大な土地をそれぞれが所有し、それに対する人口が決して多くは無い。
それ故、各都市及び国家間は原則一つの街道により繋がっており、大体の方角さえ分かっていれば詳細な地図は不要という状況もある。
程々に遠距離で隣接する各国は、資源や食料事情も国内の優劣はあるが、危機的な飢饉や厳しい自然環境も少なく、戦争自体は起こるが、専ら各国のプライドに起因することが多く、侵略戦争は起きていないし、今後も起こる可能性は非常に低いという見解が各国間で共有されている。
つまり程々に仲良く、程々に仲が悪い絶妙なバランスの上に成り立っているとも言える。
その証拠にここ千年の間に滅亡した国家は、魔法王国セイシルのみであり、逆に新しく建国された国家が五つもある。
そのうちの一つが、巨大な商家の合議制という政治体制を持つ商業国家ラーズから独立した最も若い国にして最小の国サーシャ王国である。
サーシャ王国は隣国が唯一ラーズのみという立地にあり、農業国家とも呼ばれるほど農業が盛んである。
そもそも国の興りが、地理的問題に起因する。
その昔、商業国家ラーズは北に山脈を抱え、その先に大牧草地帯があった。
この地がとても豊かで牧畜と農業に適していたことから巨大な荘園を経営していた。
しかし、山脈による輸送の困難さに加え、農業と酪農に従事する民が、その繁栄に伴い増加し、首都から管理をすることが難しくなった。
そこで、元々牧草地帯を管理していた大地主を国王として国家を樹立したという非常に稀有な成り立ちをしている。
そもそも管理運営の効率化のための国家としてラーズ支援の下建国した経緯から、独立した今でも、貿易先は彼の国のみであり、国防は他国に隣接するラーズが全てを担っている。
属国とも揶揄されるが、ラーズを構成する商家の集まりに国王自ら参加することから、特段気にしているとも思われない温和な国でもある。
王都は国名から取ったサーシャ。
人口十五万人ほどが住む、国家最南端の街である。
そこから、国境の山脈までは広大な牧草地帯が広がるのみで、酪農用の見張り小屋以外に国防を司る砦などは一切存在していない。
これは、唯一の隣人ラーズに対する信頼の証とも言われるが、実際は荘園の中心都市が王都になっただけであり、酪農に適した場所に砦などを築いて、生態系を壊すことの無い様にとの配慮からである。
街の北には広大な穀倉地帯が広がり、いくつかの村と街が中心となり管理運営を行なっている。
エテルナはこの国の最北に位置し、北の穀倉地帯に水を供給し、北側からの魔物の侵入を防ぐ役割を果たしている。
長らく水源となっている湖の水量のバランス上、開墾出来ていない土地が多数あったのだが、今回の湖拡張により3倍以上の水量を確保するという恩恵を得た事で、北の穀倉地帯は数年をかけサーシャ王国最大の穀倉地帯へと発展し、それに伴いエテルナも王都と二分する中核都市へと発展していく。
話を共に戻すと、この国の国家事業でもある、農業関連の職業に従事する人は全人口の七割を超える。
農奴も相当数いるが、文字通り売るほど穀物は豊富である事と、純粋な労働力となる農奴を不当に扱い、生産性を低下させることは最大の愚行であるという教えにより、他国に比べ、衣食住の充実度は群を抜いており、一見すると農奴と判別することは困難なほど生活水準が高い。
主に栽培される穀物は主食であるパンに適した小麦で、建国以来その品質向上は国家戦略として重点的に取り組まれて来た。
その結果、サーシャ産の高品質な小麦は高級品として商業国家ラーズの商人を通じ各国に輸出され、他国では輸送コストも加え一般庶民には手の届かない逸品となっている。
また、肥沃な大地の恵みは、その他の農産物に対しても恩恵を与えていて、サーシャの農産物は種類が豊富で、野菜から果物、スパイスに至るまでが収穫されている。
これらは他国の高級品には劣るものの、総じて品質は高く安定している。
その上、毎日の様にラーズの商人が国内を巡回し、出荷を国内外問わず一手に引き上げている事で、不得手な商売を農民が行う必要が無い。
これは専門の農業に特化して取り組む環境が整を整える事で、品質と生産性の向上という農業国家の基盤を支える一助となっている。
この様に、サーシャとラーズ二つの国は商売を基軸とした運命共同体として百年以上を共に歩んで来たのだ。
今この国の王都サーシャに向け、二人の魔法使いが旅をしている。
正確には、各国にはある程度自国の状況を記したものは存在するのだが、それらを網羅した世界地図というのが無いのだ。
地図は国家機密として、どの国も戦略上、詳細は公開していない上に、基本的な用途は徴税を円滑に進める為のものなので、都市の位置が把握できていれば事は十分に足りる。
そもそも、地図を詳細に記すほどの測量技術は育っていない。
また、魔物が蔓延る中で開けた街を構築することは出来ず、市民の安全を守る上で城壁は必須と言え、こうした都市の構造に加え、この大陸の国家は広大な土地をそれぞれが所有し、それに対する人口が決して多くは無い。
それ故、各都市及び国家間は原則一つの街道により繋がっており、大体の方角さえ分かっていれば詳細な地図は不要という状況もある。
程々に遠距離で隣接する各国は、資源や食料事情も国内の優劣はあるが、危機的な飢饉や厳しい自然環境も少なく、戦争自体は起こるが、専ら各国のプライドに起因することが多く、侵略戦争は起きていないし、今後も起こる可能性は非常に低いという見解が各国間で共有されている。
つまり程々に仲良く、程々に仲が悪い絶妙なバランスの上に成り立っているとも言える。
その証拠にここ千年の間に滅亡した国家は、魔法王国セイシルのみであり、逆に新しく建国された国家が五つもある。
そのうちの一つが、巨大な商家の合議制という政治体制を持つ商業国家ラーズから独立した最も若い国にして最小の国サーシャ王国である。
サーシャ王国は隣国が唯一ラーズのみという立地にあり、農業国家とも呼ばれるほど農業が盛んである。
そもそも国の興りが、地理的問題に起因する。
その昔、商業国家ラーズは北に山脈を抱え、その先に大牧草地帯があった。
この地がとても豊かで牧畜と農業に適していたことから巨大な荘園を経営していた。
しかし、山脈による輸送の困難さに加え、農業と酪農に従事する民が、その繁栄に伴い増加し、首都から管理をすることが難しくなった。
そこで、元々牧草地帯を管理していた大地主を国王として国家を樹立したという非常に稀有な成り立ちをしている。
そもそも管理運営の効率化のための国家としてラーズ支援の下建国した経緯から、独立した今でも、貿易先は彼の国のみであり、国防は他国に隣接するラーズが全てを担っている。
属国とも揶揄されるが、ラーズを構成する商家の集まりに国王自ら参加することから、特段気にしているとも思われない温和な国でもある。
王都は国名から取ったサーシャ。
人口十五万人ほどが住む、国家最南端の街である。
そこから、国境の山脈までは広大な牧草地帯が広がるのみで、酪農用の見張り小屋以外に国防を司る砦などは一切存在していない。
これは、唯一の隣人ラーズに対する信頼の証とも言われるが、実際は荘園の中心都市が王都になっただけであり、酪農に適した場所に砦などを築いて、生態系を壊すことの無い様にとの配慮からである。
街の北には広大な穀倉地帯が広がり、いくつかの村と街が中心となり管理運営を行なっている。
エテルナはこの国の最北に位置し、北の穀倉地帯に水を供給し、北側からの魔物の侵入を防ぐ役割を果たしている。
長らく水源となっている湖の水量のバランス上、開墾出来ていない土地が多数あったのだが、今回の湖拡張により3倍以上の水量を確保するという恩恵を得た事で、北の穀倉地帯は数年をかけサーシャ王国最大の穀倉地帯へと発展し、それに伴いエテルナも王都と二分する中核都市へと発展していく。
話を共に戻すと、この国の国家事業でもある、農業関連の職業に従事する人は全人口の七割を超える。
農奴も相当数いるが、文字通り売るほど穀物は豊富である事と、純粋な労働力となる農奴を不当に扱い、生産性を低下させることは最大の愚行であるという教えにより、他国に比べ、衣食住の充実度は群を抜いており、一見すると農奴と判別することは困難なほど生活水準が高い。
主に栽培される穀物は主食であるパンに適した小麦で、建国以来その品質向上は国家戦略として重点的に取り組まれて来た。
その結果、サーシャ産の高品質な小麦は高級品として商業国家ラーズの商人を通じ各国に輸出され、他国では輸送コストも加え一般庶民には手の届かない逸品となっている。
また、肥沃な大地の恵みは、その他の農産物に対しても恩恵を与えていて、サーシャの農産物は種類が豊富で、野菜から果物、スパイスに至るまでが収穫されている。
これらは他国の高級品には劣るものの、総じて品質は高く安定している。
その上、毎日の様にラーズの商人が国内を巡回し、出荷を国内外問わず一手に引き上げている事で、不得手な商売を農民が行う必要が無い。
これは専門の農業に特化して取り組む環境が整を整える事で、品質と生産性の向上という農業国家の基盤を支える一助となっている。
この様に、サーシャとラーズ二つの国は商売を基軸とした運命共同体として百年以上を共に歩んで来たのだ。
今この国の王都サーシャに向け、二人の魔法使いが旅をしている。
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