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第2章 暗闇の中の光
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しおりを挟む婚約式までも忙しかったが、それに輪をかけるように忙しく、あっという間に日は流れていて、気がついたら婚約披露宴当日の朝になっていた。
窓の外を見ると、ミリアーナの心とは裏腹に、空は雲ひとつなく晴れている。雨が振ってしまえば良かったのに、そんなどうしようもないことをついつい考えてしまう。
どんなにミリアーナの気分が乗らなくても、周りは御構い無しに進んでいく。
光沢のあるシンプルなブルーのドレスに着替え、化粧をし、髪をセットする。普段よりも複雑な髪型であるにもかかわらず、侍女が普段よりも多いこと、彼女たちの手際の良さもあり、無事予定時刻前には準備が終わってしまった。彼女たちの優秀さが憎く感じられた。
あれよあれよという間に騎士に案内され、バルコニーに連れ出されてしまった。
バルコニーからは広場に集まった国民たちが一望できる。今居る位置だと辛うじて人々からは見えないが、じきに見世物にされるだろう。
雲ひとつない青空を目を細めながら眺めていると、ジークフリートやオルガータ、騎士たちが次々とバルコニーへとやって来た。
オルガータが懐中時計を開いて閉じる。そして、ジークフリートに向って大きく頷いた。
ようやく時間になったらしい。国民へのお披露目が始まった。
ジークフリートたちが前の方に進み出ると、一瞬ざわめきが大きくなった。
「今、上を向いているように、前を向きなさい」
ジークフリートは国民に語りかける。屋外であるにも関わらず彼の声は響きわたる。少々ざわついていた人々が静かになった。
「もう、闇は取り払われた。もう、怯える必要などない。俺が……俺たちがこの国を建てなおすことをこの場で誓おう」
前しか見ていなかったジークフリートが後ろを振り返った。
手を差し伸べられたので、ミリアーナは黙って側へと歩いて行く。隣まで歩いて行くと、腰に手を回され引き寄せられた。
「天の加護が無くなることを怖れる信心深き者たちよ、安心するといい。貴方たちの敬愛する前国王エーベルハルト様はちゃんと希望を残してくださっている」
ジークフリートはちらりとミリアーナを見ると再び前を向いた。
「彼女はミリアーナ・グランディアル。エーベルハルト様の孫娘……正真正銘、王族の生き残りだ。彼女は俺と一緒に玉座につく。天の加護はこれから先もこの国にあり続けるだろう。だから、恐れることなど何もない。安心して前に進んで行こうじゃないか」
ジークフリートが演説をするのを隣で感慨深く聞いていた。彼が言葉を重ねるにつれ、最初は暗く不安があからさまに顔に表れていた人々の顔から不安の色が消え、光が宿っていくのが分かる。彼を中心に希望が伝染していく。
これが彼の才能か……。なぜこんな若者が反乱軍のリーダーであったのかが理解できた。
思考を余所に飛ばしている間に、スピーチは終わったようだ。
ジークフリートに合わせてお辞儀をし、室内へと戻っていった。
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