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第2章 暗闇の中の光

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 会議が終わり、ぞろぞろと人が部屋から出て行く。しばらくすると部屋にはミリアーナと侍女、ジークフリートと黒髪の男性だけになった。
 黒い髪だなんて珍しい、そう思って眺めているとふいに男性がこちらを向いたため、目が合った。
 カツカツカツとこちらへ向かって歩いてくる。一歩一歩の歩幅が大きいのであっという間にこちらにやってくる。そしてミリアーナの前に来ると立ち止まり、一礼をした。

「初めまして、王女様。オルガータと申します。今後たびたびお会いする機会があるかと思いますので、お見知りおきを」

「ご存知かとは思いますが、フレア……ミリアーナ・グランディアルです。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げる。

「ジークフリート・シュルツです。先ほどの会議で理解していらっしゃるかと思いますが、あなたの夫となります」

 淡々と話す様子を見て理解した。ジークフリートにとってもこの結婚は周りから強制されたものなのだ。

「お前、婚約者との初顔合わせなんだから、もう少し愛想よくしろよ……」

 隣でオルガータがぼそぼそと文句を言っているのが聞こえた。ジークフリートにも聞こえているはずだが無視することを決め込んだようだ。無言を貫いている。
 オルガータはわざとらしくため息をついた。

「じゃあ自己紹介も済んだことだし、そろそろ行きますか」

 この場は解散とばかりに歩き始めようとするのを慌てて引き止める。

「あの! ……侍女の方のお名前も伺ってもよろしいですか?」

「ん? なんだ? エレノア、お前名乗っていなかったのか?」

 オルガータは純粋な疑問を投げかける。

「名乗る必要はないかと思いましたので」

 エレノアはツンと顔を背け言い訳をする。
 ふぅ、と息を吐くとミリアーナに向き合った。

「では改めまして、エレノア・クロムウェルです」

 クロムウェル。この国の侯爵家の名前のはず。そして、聞き間違いでなければ、先ほど当主たちが罪に問われていたような……?
 私が反応に困っていることから、考えていることを察したらしい。

「ご察しの通りです。わたくしは罪人の娘よ」

 言いにくいことをはっきりと言い切った。
 もうとっくに罪を背負う覚悟を決めているのだろう。親兄弟が断罪されてもなお、どこか他人事で、その罪を背負う覚悟がまだ出来ていない私とは大違いだ。
 エレノアのまばゆいまでの強さは、改めて王女として自分が歩まなければならない道の険しさを照らし出す。
 心に溜まる澱を吐き出すように、そっと息を吐いた。


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