ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪

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第五話

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結果はやはり黒。

あなたは国王の子ではございませんでした。
 
 もちろん、大陸連合はあなたを王太子とすること、そして王族とすることを認めません。

しかし、よほどあなたの母君を愛していたのでしょう。国王はあなたを実の子であると言い張り、幼いうちに王太子にさせてしまいました。

 オリエーンズ王国は国王の権限が強く国王が法律より上に立ち、国内の誰であれ逆らうことはできません。国王があなたを王太子と言ったならそれは国内では覆すことのできない事実なのです。

 しかし、それは国内だけの話。

あなたが将来国王になるとします。もちろん国内ではあなたは絶対的な王。

 ですが、大陸連合に王族としてさえ認められていないものが王として君臨したら、大陸連合の名の下隣国は国民を欺き支配する反逆者とみなし、攻め入ることが可能になります。

これは大陸連合発足時に全王国、帝国の合意のもと決められたことです。

 攻めた国はその領土を得て、自国のものとすることができます。それはすなわち攻められた国の滅亡。

 このオリエーンズ王国はあなたが国王に即位した段階で滅びることが確定したのです。

 国王はもともと大陸連合にあまり賛成的でありませんでした。また、これまで王族として認められない者が統治した国はなく、この取り決めは一度も作用したことがなかったこともありなんとでもなると考えていたのでしょう。

 一方、国内の貴族はそのように楽観的に考えることはありませんでした。

 しかし、王権が強いこの国では国王に反対することはすなわち死を意味します。そこで貴族は大陸連合へと助けを求めました。

もちろん非公式ですけどね。

大陸連合は平和のために結成された機関。将来とはいえ戦争になるのは
避けたかったのです。
 オリエーンズ王国貴族の求めを受け入れました。

また、オリエーンズ王国貴族は独裁を強めていた国王に不満が高まっていたこともあり、この一連の出来事から国王排除も決意しました。
 
 幸運なことにオリエーンズ王国には大陸連合から正式に認められた王位継承権を持つお方がおりましたので。

 大陸連合の支援のもと貴族は国王と偽王太子排除のため水面下で動き出しました。

 しかし、いまから12年前、国王によって面倒なことになりました。

 正式な王位継承権を持つお方が偽王太子の婚約者として王命により決まってしまったのです。

そのお方こそティアーナ・ラフィト様。王位継承権第一位です。

 ティアーナ様はお母君が国王の妹であり、お父君が王国の筆頭公爵でございます。父方のお祖母様はノルディマン帝国の皇女殿下でございました。お母君がお亡くなりになり王位継承権第一位が大陸連合から認められたのです。

 大陸連合憲章により、反逆者の親族は連座刑が適用されます。

 このままではティアーナ様を巻き込むことになってしまうので、それを防ぐため派遣されたのが私、アナスタシアです。

 代々大陸連合裁判所の裁判長を務めるノルディマン帝国エリス伯爵家の次女であり、エドワード殿と年齢が近いこともあり私に任されました。

 任務はティアーナ様とエドワード殿を婚約破棄させること。
 そして、エドワード殿を監視すること。

 どうでしょうか?私は立派に任務を遂行致しました。
 国王へのクーデターを行う今日に合わせてあなたにティアーナ様を婚約破棄させるよう仕向けました」

アナスタシアは話し終えると周りを見渡した。

 彼女の話を強制的に聞かされたエドワードは呆然としており、その虚な目は何も映っていなかった。

「皆様、長い間捜査へのご協力ありがとうございました。

 大陸連合は今日を持ってこのオリエーンズ王国の王をティアーナ・ラフィト様に認めました。

 前国王、偽王太子、前国王を欺いた愛妾の3人は大陸連合によって裁かれます。

 では、私はこれにて」

優雅にお辞儀をし、捕縛されたエドワードを連れて騎士とともに立ち去ろうとするアナスタシアにそこにいた貴族は一斉に頭を下げ道を開ける。
 
 もちろんティアーナも深く頭を下げ、見送る。

広間の開け放たれた扉の向こうにはエドワードと同様に呆然とした前国王と、状況がわかっていないのだろう、暴れようとして押さえつけられているエドワードの母である愛妾の姿が見えた。
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