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第一話
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「ティアーナ・ラフィト、そなたとの婚約を破棄する」
王家主催の夜会、国王陛下と王妃陛下がまだお見えになっていないなか、鋭い声が広間に響き渡る。
「エドワード様、それはいったいどういうことですの?」
賑やかだった広間が静まり返り、王太子であるエドワードとその婚約者、ラフィト公爵家の一人娘ティアーナの2人に視線が集まった。
いや、3人である。王太子が守るように肩を抱き寄せている少女。
平民でありながら光魔法に覚醒し、聖女として認められたアナスタシア。
彼女は怯えるようにティアーナを見ている。
「どういうことも何も、自分で分かっているだろう。そなたが手を染めた悪事を。そなたのような悪女を王妃にむかえるわけにはいかない」
「わたくしに悪事と呼ばれるようなことをした覚えはございませんわ」
翡翠色の瞳が真っ直ぐにエドワードを貫く。
ティアーナ・ラフィト。公爵家の長女であり、次期王妃でもあった。彼女の振る舞い、知識、機知に富んだ会話、全てが貴族令嬢の模範であり完璧な淑女のものであった。
婚約破棄を公衆の面前で告げられた今でさえ、いつも通りの完璧な笑みを浮かべていた。
また社交界の薔薇と評される美貌は王国だけでなく周辺国でも勝る者はいない。しかしそれ故彼女を妬むものも多いのは事実だ。
そんな彼女をエドワードは忌々しく睨みつける。
「ここで認めれば良いものを。これだから心の醜い悪女は……。まあしょうがない。悪女にはしっかりと蹄鉄を下さなければならぬしな。
ではそなたの悪事を教えてやろう」
そう言うとエドワードは広間を見渡し、もったいぶって続けた。
「ティアーナ・ラフィトは聖女アナスタシアを嫉妬し虐めた。
彼女の制服を引き裂き、彼女を噴水へ突き落とした。
それだけではない。
アナスタシアを学園の裏庭に私の名で呼び出し、雇った下手人に彼女を襲わせようとしたのだ。あのときは私が駆けつけたからよかったものを。あと少し遅ければ取り返しのつかないことになっていたぞ」
「こ、怖かったですぅ……」
思い出したのだろう、涙目になったアナスタシアをさらに抱き寄せ、ティアーナを侮蔑するように見る。
「エドワードさまぁ……」
抱き寄せられたアナスタシアは庇護欲をそそる表情で彼を見上げる。
「アナスタシア、大丈夫だ。俺が守るからな」
完全に2人の世界に入ってしまっているがティアーナは視線をそらさずエドワードを見据える。
「わたくしはそのようなおぞましいことをやっておりません。そもそも何に対する嫉妬でしょう?公の場でこれ以上好き勝手言うのはおやめ下さい」
「嫉妬は嫉妬だ。素直に認めれば良いものを。まあ、確かにそなた自身が直接手を染めた訳ではないのだろう。しかし、そなたがこの悪事の黒幕だということは日の目を見るより明らかだ。ここに証拠がある」
エドワードは高らかと調査資料と思われるものを掲げた。
随分と手の込んだ演出をなさいますのね、とティアーナは思いつつも不思議そうに尋ねるのを忘れない。
「証拠?」
「まず、学園内での制服を引き裂くなどの虐め、これにはアナスタシアの制服をハサミで引き裂こうとするハジー伯爵令嬢の姿が目撃されている。
また、アナスタシアが何者かに噴水に突き落とされたあと、慌てて走りさろうとするマリリナ子爵令嬢の姿を見た者がいる」
ひと息つくとエドワードはさらに続けた。
「そして、アナスタシアを襲おうとした下手人、やつの自白によると雇い主はフラントラン商会だそうだ。たしかテンリー侯爵家の傘下であったな」
王家主催の夜会、国王陛下と王妃陛下がまだお見えになっていないなか、鋭い声が広間に響き渡る。
「エドワード様、それはいったいどういうことですの?」
賑やかだった広間が静まり返り、王太子であるエドワードとその婚約者、ラフィト公爵家の一人娘ティアーナの2人に視線が集まった。
いや、3人である。王太子が守るように肩を抱き寄せている少女。
平民でありながら光魔法に覚醒し、聖女として認められたアナスタシア。
彼女は怯えるようにティアーナを見ている。
「どういうことも何も、自分で分かっているだろう。そなたが手を染めた悪事を。そなたのような悪女を王妃にむかえるわけにはいかない」
「わたくしに悪事と呼ばれるようなことをした覚えはございませんわ」
翡翠色の瞳が真っ直ぐにエドワードを貫く。
ティアーナ・ラフィト。公爵家の長女であり、次期王妃でもあった。彼女の振る舞い、知識、機知に富んだ会話、全てが貴族令嬢の模範であり完璧な淑女のものであった。
婚約破棄を公衆の面前で告げられた今でさえ、いつも通りの完璧な笑みを浮かべていた。
また社交界の薔薇と評される美貌は王国だけでなく周辺国でも勝る者はいない。しかしそれ故彼女を妬むものも多いのは事実だ。
そんな彼女をエドワードは忌々しく睨みつける。
「ここで認めれば良いものを。これだから心の醜い悪女は……。まあしょうがない。悪女にはしっかりと蹄鉄を下さなければならぬしな。
ではそなたの悪事を教えてやろう」
そう言うとエドワードは広間を見渡し、もったいぶって続けた。
「ティアーナ・ラフィトは聖女アナスタシアを嫉妬し虐めた。
彼女の制服を引き裂き、彼女を噴水へ突き落とした。
それだけではない。
アナスタシアを学園の裏庭に私の名で呼び出し、雇った下手人に彼女を襲わせようとしたのだ。あのときは私が駆けつけたからよかったものを。あと少し遅ければ取り返しのつかないことになっていたぞ」
「こ、怖かったですぅ……」
思い出したのだろう、涙目になったアナスタシアをさらに抱き寄せ、ティアーナを侮蔑するように見る。
「エドワードさまぁ……」
抱き寄せられたアナスタシアは庇護欲をそそる表情で彼を見上げる。
「アナスタシア、大丈夫だ。俺が守るからな」
完全に2人の世界に入ってしまっているがティアーナは視線をそらさずエドワードを見据える。
「わたくしはそのようなおぞましいことをやっておりません。そもそも何に対する嫉妬でしょう?公の場でこれ以上好き勝手言うのはおやめ下さい」
「嫉妬は嫉妬だ。素直に認めれば良いものを。まあ、確かにそなた自身が直接手を染めた訳ではないのだろう。しかし、そなたがこの悪事の黒幕だということは日の目を見るより明らかだ。ここに証拠がある」
エドワードは高らかと調査資料と思われるものを掲げた。
随分と手の込んだ演出をなさいますのね、とティアーナは思いつつも不思議そうに尋ねるのを忘れない。
「証拠?」
「まず、学園内での制服を引き裂くなどの虐め、これにはアナスタシアの制服をハサミで引き裂こうとするハジー伯爵令嬢の姿が目撃されている。
また、アナスタシアが何者かに噴水に突き落とされたあと、慌てて走りさろうとするマリリナ子爵令嬢の姿を見た者がいる」
ひと息つくとエドワードはさらに続けた。
「そして、アナスタシアを襲おうとした下手人、やつの自白によると雇い主はフラントラン商会だそうだ。たしかテンリー侯爵家の傘下であったな」
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