ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪

文字の大きさ
上 下
1 / 7

第一話

しおりを挟む
「ティアーナ・ラフィト、そなたとの婚約を破棄する」


  王家主催の夜会、国王陛下と王妃陛下がまだお見えになっていないなか、鋭い声が広間に響き渡る。

「エドワード様、それはいったいどういうことですの?」


  賑やかだった広間が静まり返り、王太子であるエドワードとその婚約者、ラフィト公爵家の一人娘ティアーナの2人に視線が集まった。

  いや、3人である。王太子が守るように肩を抱き寄せている少女。

  平民でありながら光魔法に覚醒し、聖女として認められたアナスタシア。

 彼女は怯えるようにティアーナを見ている。

「どういうことも何も、自分で分かっているだろう。そなたが手を染めた悪事を。そなたのような悪女を王妃にむかえるわけにはいかない」

「わたくしに悪事と呼ばれるようなことをした覚えはございませんわ」

  翡翠色の瞳が真っ直ぐにエドワードを貫く。

  

  ティアーナ・ラフィト。公爵家の長女であり、次期王妃でもあった。彼女の振る舞い、知識、機知に富んだ会話、全てが貴族令嬢の模範であり完璧な淑女のものであった。

 婚約破棄を公衆の面前で告げられた今でさえ、いつも通りの完璧な笑みを浮かべていた。
  

  また社交界の薔薇と評される美貌は王国だけでなく周辺国でも勝る者はいない。しかしそれ故彼女を妬むものも多いのは事実だ。

 
 そんな彼女をエドワードは忌々しく睨みつける。

 「ここで認めれば良いものを。これだから心の醜い悪女は……。まあしょうがない。悪女にはしっかりと蹄鉄を下さなければならぬしな。

 ではそなたの悪事を教えてやろう」

  そう言うとエドワードは広間を見渡し、もったいぶって続けた。

「ティアーナ・ラフィトは聖女アナスタシアを嫉妬し虐めた。

彼女の制服を引き裂き、彼女を噴水へ突き落とした。

  それだけではない。

  アナスタシアを学園の裏庭に私の名で呼び出し、雇った下手人に彼女を襲わせようとしたのだ。あのときは私が駆けつけたからよかったものを。あと少し遅ければ取り返しのつかないことになっていたぞ」

「こ、怖かったですぅ……」
  
 思い出したのだろう、涙目になったアナスタシアをさらに抱き寄せ、ティアーナを侮蔑するように見る。

「エドワードさまぁ……」

抱き寄せられたアナスタシアは庇護欲をそそる表情で彼を見上げる。
 
  「アナスタシア、大丈夫だ。俺が守るからな」

 完全に2人の世界に入ってしまっているがティアーナは視線をそらさずエドワードを見据える。

「わたくしはそのようなおぞましいことをやっておりません。そもそも何に対する嫉妬でしょう?公の場でこれ以上好き勝手言うのはおやめ下さい」

「嫉妬は嫉妬だ。素直に認めれば良いものを。まあ、確かにそなた自身が直接手を染めた訳ではないのだろう。しかし、そなたがこの悪事の黒幕だということは日の目を見るより明らかだ。ここに証拠がある」

  エドワードは高らかと調査資料と思われるものを掲げた。
 随分と手の込んだ演出をなさいますのね、とティアーナは思いつつも不思議そうに尋ねるのを忘れない。

「証拠?」

「まず、学園内での制服を引き裂くなどの虐め、これにはアナスタシアの制服をハサミで引き裂こうとするハジー伯爵令嬢の姿が目撃されている。

  また、アナスタシアが何者かに噴水に突き落とされたあと、慌てて走りさろうとするマリリナ子爵令嬢の姿を見た者がいる」

  ひと息つくとエドワードはさらに続けた。

「そして、アナスタシアを襲おうとした下手人、やつの自白によると雇い主はフラントラン商会だそうだ。たしかテンリー侯爵家の傘下であったな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

婚約破棄された王太女は召喚勇者の生贄にされる。

克全
恋愛
ムーア王国のカミラ王女は、そのあまりに醜い容貌に怪物王女と陰で呼ばれていた。それでも前王妃から産まれた第一王女であったので、養子を迎えて女王となるはずだった。だがどうしても女王に成りたい第二王女と、外戚として権力を振るいたいミルズ王国のイザヤ王と、現王妃ゾーイの陰謀で勇者召喚の生贄にされてしまう。 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿させていただいています。

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄されたので歴代最高の悪役令嬢になりました

Ryo-k
ファンタジー
『悪役令嬢』 それすなわち、最高の貴族令嬢の資格。 最高の貴族令嬢の資格であるがゆえに、取得難易度もはるかに高く、10年に1人取得できるかどうか。 そして王子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢は、最高の『悪役令嬢』となりました。 さらに明らかになる王子の馬鹿っぷりとその末路――

二人の男爵令嬢の成り上がり!でも、結末は──

naturalsoft
恋愛
オーラシア大陸の南に姉妹国と呼ばれる二つの国があった。 西側のアネーデス王国 東側のイモート王国 過去にはお互いの王族を嫁がせていた事もあり、お互いにそれぞれの王族の血が受け継がれている。 そして、アネーデス王国で周辺国を驚かすニュースが大陸を駆け抜けた。 その国のとある男爵令嬢が、王太子に見初められ【正しい正規の手続き】を踏んで、王太子妃になったのである。 その出来事から1年後、隣のイモート王国でも、その国の男爵令嬢が【第一王子】の【婚約者】になったと騒がれたのだった。 しかし、それには公衆の面前で元婚約者に婚約破棄を突き付けたりと、【正規の手続きを踏まず】に決行した悪質なやり方であった。 この二人の結末はいかに── タイトルイラスト 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

幼い頃から母に「お父さんはね、あの星からあなたを見守っているのよ」と言い聞かされてきた私。——なんか、お父さん、生きてたんですけど!?

青猫
ファンタジー
「お父さんはね、あの星からあなたを見守っているのよ」幼い頃に母から言われた言葉は子供ながらに、「あぁ、お父さんはもういないんだな」という事を実感させる何かがあった。それから十数年後。そんな子供だったベルファド―ラは、今や王子の婚約者候補として、王子を諫め、必死に母娘二人で頑張っていた。しかし、気が強い性格は王子には好かれることは無かった。 そんな彼女は卒業式の日に王子から婚約破棄を言い渡される——。

処理中です...