2 / 2
プロローグ…?
”イッパ”の噂 2
しおりを挟む
「……へっぶしょい!!!!……んぁ……」
「おい!手で抑えないか!全く……君のその腕は何の為に付いている?」
「んー、メアリに勝つため、かな?」
そう言って不敵な笑みを浮かべる彼女の思惑に気づき、はっとしたメアリは急いで顔をテレビゲーム画面に戻す。そして、彼女の操作する四駆に目をやったが、もう手遅れだった。
テレビ画面には、堂々一位でゴールする、黒のレースカーが映っていた。そして隣からは「やったー!」と喜ぶ歓声が、嫌というほど耳に入ってきた。
「あああ!しまった……」
自分の白いレースカーが二番目にゴールするのを見届けながら、思わず情け無い声を出してしまう。
やがて順位表が表示され、一番上に「ミミアリ♡」その下に「メアリ」と並んでいる。
ミミアリは、声にならない何かを吐き出し続けているメアリに向かって、天高くガッツポーズを掲げた。
「やった!!ようやく勝てた!まさに神のご加護!!!」
「そんなインチキな加護があってたまるか!」
メアリは、隣でステップを踏みながら手を空高く掲げている卑怯者に声を上げた。あやうくゲームコントローラーを投げつけそうになる。殴りたい、その笑顔。
「いいかい……勝利の女神は、今まで私に微笑んでいたのだ。だがそれを君は……くしゃみで明後日の方向へ吹き飛ばしてしまった!もう一回勝負だ、ミミアリ。一分で女神を連れ戻す。」
「ごめんごめん。なんせ急に出ちゃうもんだから、抑えるヒマが無かったんだよ」
……誰かが私たちのこと噂してるのかな。
ミミアリは、レースカーをゼロから本気カスタマイズし始めたメアリに冗談めかして笑った。
「……もしそうなら私も一緒に出なければおかしいじゃないか」
一瞬カスタマイズの手を止めたが、メアリは鼻で笑って、またタイヤのホイールを選ぶ作業を再開した。
「どうせ、大学のやつらが下らん世間話をしているのだろう?そんなことより、次のレースの準備したまえ。さっきので50連勝の夢は潰えてしまったが、次は絶対に越える。さあ早く、もちろんポテチを食べているその手を拭いた後で、だ」
「それなんだけど……これからその大学の講義なんだ。残念だけど勝利の女神さんには、また今度微笑んでもらってよ」
どうせ次やったら私が負けるから。と笑顔を付け加えて。
ウエットティッシュで手を拭き、せかせかと帰り支度を始めるミミアリの背中に「勝ち逃げする気か!!」とメアリは一応叫んだが、やがてコントローラーを置いて立ち上がると、ポケットから何かを取り出した。
そして、リュックに荷物を詰めていたミミアリの手を引っ張り、首を傾げた彼女にそれを握らせる。
「何これ?」
「見ての通り、てんとう虫のバッチだよ」
ミミアリの手のひらには、百円玉くらいの大きさのてんとう虫が冷たく乗っていた。
「わぁ……かわいい」
赤い輝きを纏ったそのバッチは、今にも呼吸をはじめそうな程、綺麗だった。
「君のリュックはシンプルでいいと思うのだが、ワンポイントあってもいいだろう?それ、君にあげるよ」
「本当に?ありがとう……大切にするから!」
突然のことに驚いた表情を見せるミミアリだったが、すぐに笑顔に変わった。
彼女がプレゼントをくれるなんて……
そして早速、紺色の無地のリュックの右下にてんとう虫を付けてみる。確かに、付ける前よりもだいぶ印象が良くなり、ミミアリは嬉しそうな表情を見せた。
「ああ、出来るだけ大切に扱ってくれたまえ」
メアリは、嬉しそうなミミアリを怪しげな笑みで見つめながら、聞こえるか聞こえないか微妙な声量で呟いた。
「それと、明日は何の予定もないから煮るなり焼くなり好きに過ごすといい」
「ほんとっ?」
さらに想定していなかったことを言われて、ミミアリは高い声をあげた。それから、ぶつぶつと何かを言い出したかと思ったら。
「……分かった!じゃあ、またね!!バッチありがとう!」と言って、そそくさと玄関を開けて飛び出してしまった。
ガ、チャッ。と扉が締まりきる音が部屋に響き、それをテレビゲームのBGMが包みこむ。
ついさっきまでの賑やかさが、風のように通り過ぎてしまったので、メアリは玄関の前で少しぼうっとしてしまった。
そしてようやく、片付けでもするかと思い立った瞬間、まるで思い出したかのようにくしゃみが出た。
「あの時のやつか」
メアリはくしゃみを抑えた手を見つめる。
あの時。つまり、ミミアリが”神のご加護”を授かっていた時。実はメアリも出そうになっていたのだ。
しかし、隣から遠慮を知らない一撃が炸裂してしまったので、驚いた拍子に引っ込んでしまった。
「まあいいさ。噂なんていくらでもすればいい」
まるで誰かがそこに居るかのような声のトーンで、メアリは扉に向かって言葉をぶつける。
「壁に耳あり障子に目あり。隠れた亡者を見つけ出し、白日の元に晒すまで」
まるで詩を読んでいるようだった。
メアリは、扉に背を向けた。
そして、テーブルのお菓子を片付けて、ゲーム機を仕舞おうとした時、片方のコントローラーがぬるぬるしていることに気がついた。
ミミアリめ……すでに触っていたのか。いい根性だ、次に来る時どんな辱めを受けてもらおうか。今から楽しみだ……
メアリは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、ウエットティッシュでそれを拭き始めた。
その後、テレビ画面を消して反射で映る自分の姿を見ながら。
「……せっかくいい感じにキメたのに、台無し」と溜息をついた。
「おい!手で抑えないか!全く……君のその腕は何の為に付いている?」
「んー、メアリに勝つため、かな?」
そう言って不敵な笑みを浮かべる彼女の思惑に気づき、はっとしたメアリは急いで顔をテレビゲーム画面に戻す。そして、彼女の操作する四駆に目をやったが、もう手遅れだった。
テレビ画面には、堂々一位でゴールする、黒のレースカーが映っていた。そして隣からは「やったー!」と喜ぶ歓声が、嫌というほど耳に入ってきた。
「あああ!しまった……」
自分の白いレースカーが二番目にゴールするのを見届けながら、思わず情け無い声を出してしまう。
やがて順位表が表示され、一番上に「ミミアリ♡」その下に「メアリ」と並んでいる。
ミミアリは、声にならない何かを吐き出し続けているメアリに向かって、天高くガッツポーズを掲げた。
「やった!!ようやく勝てた!まさに神のご加護!!!」
「そんなインチキな加護があってたまるか!」
メアリは、隣でステップを踏みながら手を空高く掲げている卑怯者に声を上げた。あやうくゲームコントローラーを投げつけそうになる。殴りたい、その笑顔。
「いいかい……勝利の女神は、今まで私に微笑んでいたのだ。だがそれを君は……くしゃみで明後日の方向へ吹き飛ばしてしまった!もう一回勝負だ、ミミアリ。一分で女神を連れ戻す。」
「ごめんごめん。なんせ急に出ちゃうもんだから、抑えるヒマが無かったんだよ」
……誰かが私たちのこと噂してるのかな。
ミミアリは、レースカーをゼロから本気カスタマイズし始めたメアリに冗談めかして笑った。
「……もしそうなら私も一緒に出なければおかしいじゃないか」
一瞬カスタマイズの手を止めたが、メアリは鼻で笑って、またタイヤのホイールを選ぶ作業を再開した。
「どうせ、大学のやつらが下らん世間話をしているのだろう?そんなことより、次のレースの準備したまえ。さっきので50連勝の夢は潰えてしまったが、次は絶対に越える。さあ早く、もちろんポテチを食べているその手を拭いた後で、だ」
「それなんだけど……これからその大学の講義なんだ。残念だけど勝利の女神さんには、また今度微笑んでもらってよ」
どうせ次やったら私が負けるから。と笑顔を付け加えて。
ウエットティッシュで手を拭き、せかせかと帰り支度を始めるミミアリの背中に「勝ち逃げする気か!!」とメアリは一応叫んだが、やがてコントローラーを置いて立ち上がると、ポケットから何かを取り出した。
そして、リュックに荷物を詰めていたミミアリの手を引っ張り、首を傾げた彼女にそれを握らせる。
「何これ?」
「見ての通り、てんとう虫のバッチだよ」
ミミアリの手のひらには、百円玉くらいの大きさのてんとう虫が冷たく乗っていた。
「わぁ……かわいい」
赤い輝きを纏ったそのバッチは、今にも呼吸をはじめそうな程、綺麗だった。
「君のリュックはシンプルでいいと思うのだが、ワンポイントあってもいいだろう?それ、君にあげるよ」
「本当に?ありがとう……大切にするから!」
突然のことに驚いた表情を見せるミミアリだったが、すぐに笑顔に変わった。
彼女がプレゼントをくれるなんて……
そして早速、紺色の無地のリュックの右下にてんとう虫を付けてみる。確かに、付ける前よりもだいぶ印象が良くなり、ミミアリは嬉しそうな表情を見せた。
「ああ、出来るだけ大切に扱ってくれたまえ」
メアリは、嬉しそうなミミアリを怪しげな笑みで見つめながら、聞こえるか聞こえないか微妙な声量で呟いた。
「それと、明日は何の予定もないから煮るなり焼くなり好きに過ごすといい」
「ほんとっ?」
さらに想定していなかったことを言われて、ミミアリは高い声をあげた。それから、ぶつぶつと何かを言い出したかと思ったら。
「……分かった!じゃあ、またね!!バッチありがとう!」と言って、そそくさと玄関を開けて飛び出してしまった。
ガ、チャッ。と扉が締まりきる音が部屋に響き、それをテレビゲームのBGMが包みこむ。
ついさっきまでの賑やかさが、風のように通り過ぎてしまったので、メアリは玄関の前で少しぼうっとしてしまった。
そしてようやく、片付けでもするかと思い立った瞬間、まるで思い出したかのようにくしゃみが出た。
「あの時のやつか」
メアリはくしゃみを抑えた手を見つめる。
あの時。つまり、ミミアリが”神のご加護”を授かっていた時。実はメアリも出そうになっていたのだ。
しかし、隣から遠慮を知らない一撃が炸裂してしまったので、驚いた拍子に引っ込んでしまった。
「まあいいさ。噂なんていくらでもすればいい」
まるで誰かがそこに居るかのような声のトーンで、メアリは扉に向かって言葉をぶつける。
「壁に耳あり障子に目あり。隠れた亡者を見つけ出し、白日の元に晒すまで」
まるで詩を読んでいるようだった。
メアリは、扉に背を向けた。
そして、テーブルのお菓子を片付けて、ゲーム機を仕舞おうとした時、片方のコントローラーがぬるぬるしていることに気がついた。
ミミアリめ……すでに触っていたのか。いい根性だ、次に来る時どんな辱めを受けてもらおうか。今から楽しみだ……
メアリは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、ウエットティッシュでそれを拭き始めた。
その後、テレビ画面を消して反射で映る自分の姿を見ながら。
「……せっかくいい感じにキメたのに、台無し」と溜息をついた。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
声劇台本置き場
ツムギ
キャラ文芸
望本(もちもと)ツムギが作成したフリーの声劇台本を投稿する場所になります。使用報告は要りませんが、使用の際には、作者の名前を出して頂けたら嬉しいです。
台本は人数ごとで分けました。比率は男:女の順で記載しています。キャラクターの性別を変更しなければ、演じる方の声は男女問いません。詳細は本編内の上部に記載しており、登場人物、上演時間、あらすじなどを記載してあります。
詳しい注意事項に付きましては、【ご利用の際について】を一読して頂ければと思います。(書いてる内容は正直変わりません)
今日から俺は魔法少女!?
天野ナギサ
キャラ文芸
いつか変身して町のヒーローになりたい松城京馬。
しかし、現実は甘くない。変身も怪物も現れず中学2年生になった。
そんなある日、怪物と妖精が現れ変身することに!
だが、姿は魔法少女!?
どうする京馬!!
※カクヨム、Nola、なろうにも投稿しております。
『古城物語』〜『猫たちの時間』4〜
segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズ4。厄介事吸引器、滝志郎。彼を『遊び相手』として雇っているのは朝倉財閥を率いる美少年、朝倉周一郎。今度は周一郎の婚約者に会いにドイツへ向かう二人だが、もちろん何もないわけがなく。待ち構えていたのは人の心が造り出した迷路の罠だった。
七つ話し~熱帯夜の悪夢~
佐々倉 桜
キャラ文芸
2ヶ月行方不明だった甘味処~七竜~の店長が帰ってきた。
そんな彼は1つのお願い事をされる。『ストーカー被害にあっている友人を助けて。』
単純な事件だと思っていたが物語はあらぬ方向へと進んでいく。
『パセリがつぶやく』
segakiyui
キャラ文芸
谷望美はまきの病院の管理栄養士。栄養ぶの持て余しものなのは自覚があるが、井田医師からのあまりな栄養箋に内科へ怒鳴り込んだ。拒食の山野かほ子にどうすれば食事が提供できるか。たぬき主任の岩崎、クール看護師田賀、心臓病患者のゆかりとともに、望美はかほ子に迫っていく。
YESか農家
ノイア異音
キャラ文芸
中学1年生の東 伊奈子(あずま いなこ)は、お年玉を全て農機具に投資する変わり者だった。
彼女は多くは語らないが、農作業をするときは饒舌にそして熱く自分の思想を語る。そんな彼女に巻き込まれた僕らの物語。
事故って目が覚めたら自販機だった件
沙々香
キャラ文芸
小説家になろうのリメイク。
ズボラな引きこもりの青年【斎藤陽斗】 そんな彼がある日飲み物を買いにコンビニに行こうとした……。 が!!!しかし所詮はニート、超絶面倒くさがり! 当然、炎天下の中行く気力も無く、自宅のすぐ前の自販機で買おう……そう妥協したのだった。 しかし…………自販機の前まで来た時だった、事件が起こってしまった。 青年はボーッとしていて気付か無かった、車が横まで迫っていた事に……。 目が覚めると動かない、辺りを見渡しふと見た車のドアガラスに映る自分は……自販機?! 自販機になってしまった青年のファンタスティックでちょっとクレイジーな非日常的コメディ!!! ※この小説は、他のサイトと重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる