女魔技師の魔道具露店旅〜戻ってこい?、だから婚約破棄したら困るのそっちだって言ったじゃん〜

ターナー

文字の大きさ
上 下
8 / 12

8、side黒鉄、生き返った日

しおりを挟む


ゆっくりとまぶたを開け周りを確認する、世界には塵が積もれば山となるなんてことわざがあるらしい。

一理あると感じさせる光景が広がっていた。

屑鉄が積もって一山作られ、歪なバランスで保っていたが、時間とともに崩れてまた新たな屑鉄が頂点に乱雑に積まれていく。

大半は上に引っかかることもできず、騒音を立てながら落ちていき、最後に甲高い音を立てて地面に叩きつけられる。

地面に落ちた屑鉄は二度と陽の目を見ることはなく、一生を終える、いや、終わったからこそここに行き着いたのか。

運良く万が一、頂点に残れたとしても次に弾かれたらそこまで、後は転がり落ちるだけで地面という最底辺へ落ちていく。

確かに集まれば山になるだろう、しかしそれに価値はあるのか?

小さい事でもコツコツとやれば山になる、そこに善悪の区別はない、なぜならこうして乱雑に処理したごみ山がいくつも集まってできたのが、不毛の地、廃品解体処理屑鉄投棄場

生き物はおらず、魔物だってここには近づかない、ここにあるのはただのガラクタのみ、最初からか途中からかは判別がつかないが、無駄、無意味、無価値、存在否定の烙印を押され、原型を止めることすら許されない、せめて嵩張らないように朽ちてくれ、捨てた人間の心理はこんなところだろう。


(…………俺は……そうだな………さしずめ人間の形をした塵………)


無価値な屑鉄塗れの世界で唯一、人が眼中に入れてくれる存在かもしれない、邪魔臭いという理由で。

なんとなくそれでも誰か見てくれるだけマシか、そんな歪んだ価値観になんの疑問も持たずに納得する。

彼はそもそも人間ですらない、人でもなければ魔物でもない。

神を目指して、中途半端に人の力を超え、天使どころか、悪魔にもなれず、なら自分達は一体何なのか、彼なりに出したのがさっきの答え。

形があり、木材やら硝子よりも硬度を誇っていた、鉄や鋼が今やただのガラクタ、元の姿など面影もない、いや、硬く、一度形を決めてしまえば後は変えづらい、だからこそここまで執拗に潰されるということなのだろうか?

ともかく、有形物ですらこの有様なのだ、最初から形などない無形な記憶などいくらでも歪み、改竄され、無から有にすらなる、さながらいらない物を叩き、潰し、切り刻み、有形物をバラす解体処理工程のよう、一つ違うのは減ることはあっても増えることはないということだけ。

それでも妄想に浸れる分まだ意味がある気がする、無形物にすら負ける鉄と鋼、その事実に辟易する彼。

何にもわからない彼が自信を持って言えるのはこの世で最も脆いもの、それは鋼と鉄。

硝子も木材も石も、存在を許されるが、鋼と鉄だけは許されず削られ、燃やされ、溶かされ、屑鉄という残りカスになる事すら出来ない物もある。

哲学とも言えない幼稚な考えを頭の中で展開するが、胸の中の憂鬱が増しただけだった。

(……………鉄と鋼なんて……脆すぎる………)

上から他のに比べると巨大な塵が落下してきて奇跡的、または必然的に当たらなかったのか、それすらわからない。

彼女と同じ最底辺に落ちてきたものを横目で確認する。

自身と同じ、人間の形を型取った塵、ただ自我あるかないかそれだけの違いしかない。

「……新入りか……よろしくな………」

「………………」

体の大半が壊れ、歩くこともできない彼はこうやって、もう意識すらない機械人形オートマタに話しかけるのが日課になっていた、そうでもしなければ孤独に耐えられないからだ………もちろん、もはやただのガラクタと化している人形は無反応………。

「………返事が来るわけないか……」

「よろしく先輩~」

「ーーーー??!!」

気楽な女の声が響き渡る、自分と同じ、奇跡的にまだ稼働しているオートマタが返答したのかと思い、視線をオートマタに移すが、ピクリとも動いていない、騒音が多いのでさっきまでは気が付かなかったが、足音が鳴っている、こちらへ近づいてきている………。

「………ヘッッ、なんだ?、俺を解体しにきたのか?、ご苦労様だぜ」

「違うよ、珍しいオートマタの反応があったから見にきたんだ、にしてもこりゃひどい、好き勝手ゴミ捨てて、自然は大切にしなきゃいけないんだけどな~」

「………それで?、解体じゃないなら俺にいったいなんの用だ?」

「ん?、なんの用かって?、修理しようと思って」

「………何でわざわざそんなことするんだ?」

「だって、きみ珍しいタイプのオートマタだからバラしたら元に戻せなくなりそうだし~それだったら修理して、きみの性能を見せてほしいな~、幸い近くに材料はたんまりあるし、歩けるようにするぐらいだったら今すぐできると思う」

「………物好きな女だぜ」

「ねぇねぇ、貴方の名前はなんていうの?」

「悪いな、覚えてない」

「ええ?………それじゃあ私が名付けてあげる」

「おいおい、勝手なこと言ってんじゃーーー」

「うーーん、そうだ、黒髪黒目だから『黒鉄』、君の名前は黒鉄だ!!」

「………話聞けって」

ツナギを着て、額にはゴーグル、腰のホルダーにいろんな種類のスパナやドライバー、工具が差してある女は満面の笑みで俺の体を修理を始める。

「………ね」

「んぁ?」

「黒鉄?、起きて、次の町に着くよ?」

「………悪い、寝てた………」

「珍しいね、黒鉄がうたた寝するなんて、なんかニヤニヤしてたけど、どんな夢見てたの?」

「………教えない」

「ええ??!!、何でなんで、教えてよ~」

「………モフモフな毛に浮気するエマには教えてやるもんか」

「そ、それは、人類ならしょうがないっていうか~」

「教えないったら教えない」

「そんな~」

俺はきっとあの時からエマに惚れていたんだろう、機械人形オートマタのくせに、分不相応にも彼女に恋してしまったのだろう……だけど人間ではない俺に告白する資格なんてない、だからせめてネジ一本に至るまで、彼女ために使い切ると、あの日決意した。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】元婚約者が偉そうに復縁を望んできましたけど、私の婚約者はもう決まっていますよ?

白草まる
恋愛
自分よりも成績が優秀だからという理由で侯爵令息アッバスから婚約破棄を告げられた伯爵令嬢カティ。 元から関係が良くなく、欲に目がくらんだ父親によって結ばれた婚約だったためカティは反対するはずもなかった。 学園での静かな日々を取り戻したカティは自分と同じように真面目な公爵令息ヘルムートと一緒に勉強するようになる。 そのような二人の関係を邪魔するようにアッバスが余計なことを言い出した。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

【完結保証】嘘で繋がった婚約なら、今すぐ解消いたしましょう

ネコ
恋愛
小侯爵家の娘リュディアーヌは、昔から体が弱い。しかし婚約者の侯爵テオドールは「君を守る」と誓ってくれた……と信じていた。ところが、実際は健康体の女性との縁談が来るまでの“仮婚約”だったと知り、リュディアーヌは意を決して自ら婚約破棄を申し出る。その後、リュディアーヌの病弱は実は特異な魔力によるものと判明。身体を克服する術を見つけ、自由に動けるようになると、彼女の周りには真の味方が増えていく。偽りの縁に縛られる理由など、もうどこにもない。

処理中です...