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歌姫の国
68、観光旅行
しおりを挟む「ここが歌姫の国、ガイストス国か、中々に栄えているな!!」
「あんまりはしゃがないでね」
「せっかくだから件の歌姫に会いたいぞ」
「国の重要人物にそう簡単には会えないと思うよ」
ルーガスの有給の話で自分の有給のことを思い出し、上司に確認してみるとやはり大量に残っていたようだった、それならばと、一気に使って観光旅行に来たわけだ、入国に成功した私とレクス、噂の歌姫に会いたいと騒ぐレクスを嗜めながら道を進む。
「いやいや、案外そこら辺の路地裏で暴漢に襲われてるかもしれんぞ」
「……そんなベタな………」
「おいあんたら少し静かにしていてくれないか?、ラジオが聞こえん」
「え?、まぁ静かにしろと言われれば静かにするが………ここは大通り、我らだけが騒いでるわけでもあるまいーーーし?」
そんなふうにしゃべりながら歩いていると通行人の一人に煩いとイチャモンをつけられる。
とりあえず声の音量を下げるが、下げたところで他の奴らも騒いでるとレクスが言おうとしたところ、その場にいる私達以外の人達、全員がラジオを手に、目と口を閉ざして立ち尽くしている。
「そんな面白いラジオ番組があるのかな?」
「「「「「「「♪♪♪~~~」」」」」」」
「お?…………いい歌だな」
「………そうだね、凄く綺麗な歌声、綺麗……けど………なんか……悲しくて儚い歌だね」
周囲の人間が持っているラジオから一斉に同じ曲が流れ始める、何重にもなって響く、四重奏どころではその音色は聞いていて心地良い…………まるで時間が止まったかのように立ち止まっていた住人達、何分か経ったら歌い終わり、皆何事もなかったように動き出す、まるでさっき見た光景が幻だったと錯覚してしまうほど事もなげに動いている。
「旅人さん達、さっきはすみません………なにぶん一日一番の楽しみで、一回しかないので………」
「いや、こっちこそ悪かった、あんな綺麗な歌なら感情的になるのもわかるぞ………今のがこの国の歌姫の歌なのか?」
「そうですよ!!、旅人さん達も聞いていたらこの国から出たくなくなっちゃうかもしれないですね~、それじゃあ私は仕事があるので」
「おう、頑張れ」
適当なところで通行人と別れる私達。
「あそこまで綺麗な歌声とは………歌姫に会いたい気持ちが強くなったな、イヴ、歌姫に面会できないかこの国お偉いさんに頼んでーー」
「ーーーあんまり駄々をこねると家に帰ってもらうよ?」
「ーーッッッッ、す、すまん、も、もう言わんから許してくれ」
「素直でよろしい」
歌姫に会うために国お偉いさんに面会を頼もうと提案するレクスに釘を刺す私、元々この旅行は一人で行くつもりだったのにレクスが駄々をこねたから一緒に連れてきたのだ、これ以上は我儘を聞いてられない。
「ん?、おいイヴ、今何か聞こえなかったか?」
「何も聞こえなかったけど?」
「………確かに聞こえた……あ、また……これは……悲鳴、こっちだ」
「あ、ちょっと待っーーー、全く落ち着きないな」
何かが聞こえたらしいレクスは弾かれたように飛び出す、私の静止の声は間に合わず、一人でどっか行かれても困るのでレクスを追って路地裏を進んでいく…………すると何回目かの曲がり角で何かが勢いよくつっこんんできて突き飛ばされるレクス。
「ッッーーー、な、なんだ?」
「ッッッーーー、あ、すいません……」
どうやら男の子とぶつかったみたいだ、相手は申し訳なさそうに謝罪してくる。
「貴様、ここで何をしていた」
「ーーーえ?、………えっと、その、あの………」
「…………どうした?………言えないようなことでもーーー」
「ちょっと、レクスいきなり失礼でしょ」
「しかしイヴ、悲鳴が聞こえた路地裏にいたんだ、怪しいーー」
レクスはぶつかった少年をを質問攻めにする、怯えた様子で困り果てる少年、何とか追いつき、レクスの肩を掴んで落ち着かせようとする私。
「ーーーーーどこにった!!!!、こっちか??!!??」
「ーーーッッッ」
レクスが私の手を振り払おうとした時、近くから複数人の男の怒声が響き渡る。
「誰かに追われてるの?」
「ッッッッッ!!!!ーー、い、いえそのあの……」
「………はぁ……とりあえずこの場を凌いでからじゃないと話もゆっくりできないな、君、私に捕まって」
「え?、な、何を急に……」
「ーーーああもう焦ったい!!」
「わっッッーーー」
とりあえず助けてから話を聞こうとすると、彼は少し後退りして逃げようとする、面倒になった私は彼を抱える、俗に言うお姫様抱っこだ………女が男にする場合はなんて言うのだろうか。
『発疹皮膚武器展開、よし、しっかり捕まってなよ」
「は、はい」
『ーーー反動加速砲』
そのまま私は背中から砲身を出し、魔力を放出して天高く飛び上がり、建物の屋上へと着地、レクスも軽々登ってくる、少し遅れてさっきまでいた場所に男達が現れる。
「くそ……どこだ、探せ!!、近くにいるはずだ!!!」
「まいたか………ーーうわッと、な、何、どうしたのレクス?」
「………その小僧だけずるいぞ」
「………後で相手してあげるから、今は離れて」
「?」
急場を凌ぎ、一息ついているといきなりレクスが抱き付いてくる、何事かと思ったら、どうやら抱き抱えたままの少年に嫉妬しただけのようだ、よくわかって無い少年は小首をかしげる。
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