55 / 75
魔王襲来編
55、side魔王、生ける墓標
しおりを挟む「………まさか我を倒す女がいるとは……世界は広いな……」
「男女差別反対……っと」
突如乱入してきた鋼鉄の女、身体中から武器を生やした次は今度は地面からも生やし、果ては我と対等に殴り合ってきた……殴り倒された我の敗北………女は我が敗北を認めたと察すると壁に叩きつけられた我と視線を合わせるように腰を落とし、覗き込んでくる。
「それで、何か言い残すことはある?、できる範囲ならお願いも叶えてあげるよ」
「……貴様、我が憎くないのか?」
「憎いさ……この戦争で私の知人や仲間が何人も死んだ………貴方が憎くないわけがない」
「ならばなぜ我の遺言を聞く?、我を倒してきた人間は問答無用で我にとどめを刺してきたというのに………」
「………確かに憎い、けどさ、気づいたんだよ」
「何にだ?」
「戦争に善も悪もない、正義の反対はまた違う正義、どうしようもないイタチごっこの末起きることなんだって……始めた時点でどっちも悪い………でも、ここまできたら和平交渉なんてできやしない、だったらせめて遺言ぐらいは聞いておきたかったのさ………私の身勝手な自己満足でしかないけどね……」
「……なるほど、酔狂な事だ………」
「お褒めに預かり光栄です」
女は戯けるように呟く。
「………我も、酔狂なようだ……そうだな、墓を作ってほしい………」
「墓?……魔族って墓つくらないの?」
「いや、そんなことはない」
「それなら私が墓作る必要ないんじゃない?、魔族達が作ってくれるでしょ?」
「……それがな、私の墓が作られることはないのだ……」
「なんで?」
「我は不滅、我は不死身、死んでも魔素が集めて何度でも生き返る………故に作られる事は無い………我の死が弔われることはない、我の死が惜しまられることはないのだ………」
「………なるほどね………でも悪いね、それは叶えられないかな……」
「……だろうな」
魔王である自分の墓なんか作ったことがバレた場合、どうなるかなど火を見るより明らかだ。
「本当に悪いね」
「気にするな………気まぐれで言っただけのーーー」
「ーーそうだ、なら私が貴方の墓になるよ!!!」
「ーーこと?………どういう意味だ?」
女は我の呟きに言葉を割り込ませてくる。
「私が貴方を倒したでしょ?、私、イヴ・ペンドラゴンが生きてる限り、貴方が生きていたという証明になるし、偶には黙祷を捧げる、それなら出来るよ」
「………そうか、それは助かる………初めて安心して逝ける………」
我の意識はだんだんと薄れていく、しかしいつものように血と憎悪に塗れることはなく、不思議と穏やかな気持ちだ……。
0
お気に入りに追加
2,367
あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる