それ、二度寝の後でいいですか?〜高嶺の花令嬢の婚約破棄騒動は横道にそれつつありふれたハッピーエンドを目指す〜

KUZUME

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番外編2 サミュエルの初恋

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 サミュエルが知恵熱を出して寝込んだ翌日。サミュエルは既に公務にも出てとても物知りな1番上の兄の元を尋ねた。
 普段は劣等感を感じ、中々兄達の元へ自ら好んで足を運ぶことはないサミュエルだったが、どうしても聞きたいことがあったのだ。

 「あの、お兄ちゃん。今ちょっといい?」
 「ん?サムじゃないか。お前から私のところに来るのは珍しいね。こっちにおいで」
 「う、うん」

 ちょうど勉強が終わり、一息ついていた第一王子は自室の扉から顔を半分だけ出したサミュエルに気づくと快く室内へと招き入れる。そしてソファーにサミュエルを座らせると、控えていた侍女にお茶とお茶菓子を頼んでにこにこと可愛い弟を見つめる。

 「サムとこうしてお話するのは久しぶりだね。昨日は熱を出していたって聞いたけど、もう大丈夫かい?」
 「うん、もう大丈夫っ」
 「それは良かった。でも、無理はしちゃいけないからね。苦しくなったらすぐに言うんだよ」
 「うん」
 「そうだ。今度父上の公務について行くことになったんだけど、視察先が薔薇で有名な地でね。サムにお土産を買ってくるからね。楽しみにしていてね」
 「う、うん」
 「ああ、それからサムがハンカチを探しているって聞いたよ。必要なら私が首都のおすすめの店で買ってこようか?」
 「あ、えっと、それは大丈夫」
 「ああ、お茶がきたね。ありがとう。…このお茶菓子は最近国民の間で流行っているらしいんだ。さ、沢山お食べ」
 「うん、ありがとう…」

 歳が離れていることもあるが、元気で素直でちょっぴりシャイな1番下の弟を可愛がっている第一王子は、久々の二人きりの時間にあれこれと口を出して話しかけ続けるが、サミュエルがもじもじと何かを言いたそうにしていることに気づくとハッとして自身の口を手のひらで覆う。

 「おっと!ごめんね、サム!私ばっかり話してしまったね。私に何か話があったんだろう?」
 「う、うん。あのね、お兄ちゃんは、ブラック伯爵令嬢って知ってる?」
 「ブラック伯爵…長子のオリヴィア嬢のことかな?」
 「そう!その人!お兄ちゃんは、どんな人か知ってる?」
 「私は直接の面識はあまりないけれど…たしか、今社交界でとても人気のあるご令嬢じゃなかったかな。なんだったか…そうそう!一輪の白い薔薇と呼ばれているとか」
 「しろいばら…?どうして?」
 「白い薔薇のように美しいご令嬢っていう意味だよ」
 「お兄ちゃんも知ってるってことは…オリヴィア嬢は有名な人なの?二番目のお兄ちゃんも知ってたよ」

 ソファーから身を乗り出したサミュエルに、第一王子はおや、と頬を緩ませる。家族の前では元気な末っ子も、王子という特殊な環境ゆえか家族以外の大人の前ではどうにも相手の顔色を伺い縮こまってしまい、同年代の親しい友人と呼べる間柄の相手もいなかった。
 そんな弟がこんなにも他人に興味をいだくなんて、と第一王子はなんだか嬉しいようなむず痒いような気持ちになる。

 「ふふ、有名は有名だと思うよ。愛らしいお嬢さんだということでもそうだし、剣の腕もまだ12歳という幼さで中々のものらしい」
 「剣!?僕と4つしか違わないのに、もうそんなに強いの!?」
 「彼女は長子だからね。早くから習っていたって聞いたけど…もしかしたら将来は文官ではなく騎士団に入団するかも知れないね」
 「へぇ…」

 ぽかん、と口を開けているサミュエルの口の中に、第一王子はえいやと一口大の大きさのお茶菓子を入れてやる。
 それに驚きながらも口を閉じ素直に咀嚼したサミュエルが美味しさに頬を赤く染める。そんなサミュエルの姿に第一王子はにこにこと笑顔を浮かべる。

 「それにしても私にオリヴィア嬢のことを聞くなんて、サムは彼女とお友達になりたいのかな?」
 「もぐっ…!え、えっと、この前のお茶会で、その、ちょっとだけ、お話したから!だから、その」
 「そっか。どうだった?良い人だった?」
 「う、うん。ちょっとおもしろい人だと思った」
 「(面白い…?完璧な淑女だと噂されているブラック伯爵令嬢が?)」

 サミュエルのオリヴィアへの印象に若干の違和感を覚えた第一王子だったが、まぁそんなことより他人へと興味を示し始めたサミュエルの成長が喜ばしいな、と特にそれ以上は深掘りせずに穏やかなお茶の時間を楽しんだのだった。
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