31 / 36
番外編2 サミュエルの初恋
4
しおりを挟む
サミュエルが知恵熱を出して寝込んだ翌日。サミュエルは既に公務にも出てとても物知りな1番上の兄の元を尋ねた。
普段は劣等感を感じ、中々兄達の元へ自ら好んで足を運ぶことはないサミュエルだったが、どうしても聞きたいことがあったのだ。
「あの、お兄ちゃん。今ちょっといい?」
「ん?サムじゃないか。お前から私のところに来るのは珍しいね。こっちにおいで」
「う、うん」
ちょうど勉強が終わり、一息ついていた第一王子は自室の扉から顔を半分だけ出したサミュエルに気づくと快く室内へと招き入れる。そしてソファーにサミュエルを座らせると、控えていた侍女にお茶とお茶菓子を頼んでにこにこと可愛い弟を見つめる。
「サムとこうしてお話するのは久しぶりだね。昨日は熱を出していたって聞いたけど、もう大丈夫かい?」
「うん、もう大丈夫っ」
「それは良かった。でも、無理はしちゃいけないからね。苦しくなったらすぐに言うんだよ」
「うん」
「そうだ。今度父上の公務について行くことになったんだけど、視察先が薔薇で有名な地でね。サムにお土産を買ってくるからね。楽しみにしていてね」
「う、うん」
「ああ、それからサムがハンカチを探しているって聞いたよ。必要なら私が首都のおすすめの店で買ってこようか?」
「あ、えっと、それは大丈夫」
「ああ、お茶がきたね。ありがとう。…このお茶菓子は最近国民の間で流行っているらしいんだ。さ、沢山お食べ」
「うん、ありがとう…」
歳が離れていることもあるが、元気で素直でちょっぴりシャイな1番下の弟を可愛がっている第一王子は、久々の二人きりの時間にあれこれと口を出して話しかけ続けるが、サミュエルがもじもじと何かを言いたそうにしていることに気づくとハッとして自身の口を手のひらで覆う。
「おっと!ごめんね、サム!私ばっかり話してしまったね。私に何か話があったんだろう?」
「う、うん。あのね、お兄ちゃんは、ブラック伯爵令嬢って知ってる?」
「ブラック伯爵…長子のオリヴィア嬢のことかな?」
「そう!その人!お兄ちゃんは、どんな人か知ってる?」
「私は直接の面識はあまりないけれど…たしか、今社交界でとても人気のあるご令嬢じゃなかったかな。なんだったか…そうそう!一輪の白い薔薇と呼ばれているとか」
「しろいばら…?どうして?」
「白い薔薇のように美しいご令嬢っていう意味だよ」
「お兄ちゃんも知ってるってことは…オリヴィア嬢は有名な人なの?二番目のお兄ちゃんも知ってたよ」
ソファーから身を乗り出したサミュエルに、第一王子はおや、と頬を緩ませる。家族の前では元気な末っ子も、王子という特殊な環境ゆえか家族以外の大人の前ではどうにも相手の顔色を伺い縮こまってしまい、同年代の親しい友人と呼べる間柄の相手もいなかった。
そんな弟がこんなにも他人に興味をいだくなんて、と第一王子はなんだか嬉しいようなむず痒いような気持ちになる。
「ふふ、有名は有名だと思うよ。愛らしいお嬢さんだということでもそうだし、剣の腕もまだ12歳という幼さで中々のものらしい」
「剣!?僕と4つしか違わないのに、もうそんなに強いの!?」
「彼女は長子だからね。早くから習っていたって聞いたけど…もしかしたら将来は文官ではなく騎士団に入団するかも知れないね」
「へぇ…」
ぽかん、と口を開けているサミュエルの口の中に、第一王子はえいやと一口大の大きさのお茶菓子を入れてやる。
それに驚きながらも口を閉じ素直に咀嚼したサミュエルが美味しさに頬を赤く染める。そんなサミュエルの姿に第一王子はにこにこと笑顔を浮かべる。
「それにしても私にオリヴィア嬢のことを聞くなんて、サムは彼女とお友達になりたいのかな?」
「もぐっ…!え、えっと、この前のお茶会で、その、ちょっとだけ、お話したから!だから、その」
「そっか。どうだった?良い人だった?」
「う、うん。ちょっとおもしろい人だと思った」
「(面白い…?完璧な淑女だと噂されているブラック伯爵令嬢が?)」
サミュエルのオリヴィアへの印象に若干の違和感を覚えた第一王子だったが、まぁそんなことより他人へと興味を示し始めたサミュエルの成長が喜ばしいな、と特にそれ以上は深掘りせずに穏やかなお茶の時間を楽しんだのだった。
普段は劣等感を感じ、中々兄達の元へ自ら好んで足を運ぶことはないサミュエルだったが、どうしても聞きたいことがあったのだ。
「あの、お兄ちゃん。今ちょっといい?」
「ん?サムじゃないか。お前から私のところに来るのは珍しいね。こっちにおいで」
「う、うん」
ちょうど勉強が終わり、一息ついていた第一王子は自室の扉から顔を半分だけ出したサミュエルに気づくと快く室内へと招き入れる。そしてソファーにサミュエルを座らせると、控えていた侍女にお茶とお茶菓子を頼んでにこにこと可愛い弟を見つめる。
「サムとこうしてお話するのは久しぶりだね。昨日は熱を出していたって聞いたけど、もう大丈夫かい?」
「うん、もう大丈夫っ」
「それは良かった。でも、無理はしちゃいけないからね。苦しくなったらすぐに言うんだよ」
「うん」
「そうだ。今度父上の公務について行くことになったんだけど、視察先が薔薇で有名な地でね。サムにお土産を買ってくるからね。楽しみにしていてね」
「う、うん」
「ああ、それからサムがハンカチを探しているって聞いたよ。必要なら私が首都のおすすめの店で買ってこようか?」
「あ、えっと、それは大丈夫」
「ああ、お茶がきたね。ありがとう。…このお茶菓子は最近国民の間で流行っているらしいんだ。さ、沢山お食べ」
「うん、ありがとう…」
歳が離れていることもあるが、元気で素直でちょっぴりシャイな1番下の弟を可愛がっている第一王子は、久々の二人きりの時間にあれこれと口を出して話しかけ続けるが、サミュエルがもじもじと何かを言いたそうにしていることに気づくとハッとして自身の口を手のひらで覆う。
「おっと!ごめんね、サム!私ばっかり話してしまったね。私に何か話があったんだろう?」
「う、うん。あのね、お兄ちゃんは、ブラック伯爵令嬢って知ってる?」
「ブラック伯爵…長子のオリヴィア嬢のことかな?」
「そう!その人!お兄ちゃんは、どんな人か知ってる?」
「私は直接の面識はあまりないけれど…たしか、今社交界でとても人気のあるご令嬢じゃなかったかな。なんだったか…そうそう!一輪の白い薔薇と呼ばれているとか」
「しろいばら…?どうして?」
「白い薔薇のように美しいご令嬢っていう意味だよ」
「お兄ちゃんも知ってるってことは…オリヴィア嬢は有名な人なの?二番目のお兄ちゃんも知ってたよ」
ソファーから身を乗り出したサミュエルに、第一王子はおや、と頬を緩ませる。家族の前では元気な末っ子も、王子という特殊な環境ゆえか家族以外の大人の前ではどうにも相手の顔色を伺い縮こまってしまい、同年代の親しい友人と呼べる間柄の相手もいなかった。
そんな弟がこんなにも他人に興味をいだくなんて、と第一王子はなんだか嬉しいようなむず痒いような気持ちになる。
「ふふ、有名は有名だと思うよ。愛らしいお嬢さんだということでもそうだし、剣の腕もまだ12歳という幼さで中々のものらしい」
「剣!?僕と4つしか違わないのに、もうそんなに強いの!?」
「彼女は長子だからね。早くから習っていたって聞いたけど…もしかしたら将来は文官ではなく騎士団に入団するかも知れないね」
「へぇ…」
ぽかん、と口を開けているサミュエルの口の中に、第一王子はえいやと一口大の大きさのお茶菓子を入れてやる。
それに驚きながらも口を閉じ素直に咀嚼したサミュエルが美味しさに頬を赤く染める。そんなサミュエルの姿に第一王子はにこにこと笑顔を浮かべる。
「それにしても私にオリヴィア嬢のことを聞くなんて、サムは彼女とお友達になりたいのかな?」
「もぐっ…!え、えっと、この前のお茶会で、その、ちょっとだけ、お話したから!だから、その」
「そっか。どうだった?良い人だった?」
「う、うん。ちょっとおもしろい人だと思った」
「(面白い…?完璧な淑女だと噂されているブラック伯爵令嬢が?)」
サミュエルのオリヴィアへの印象に若干の違和感を覚えた第一王子だったが、まぁそんなことより他人へと興味を示し始めたサミュエルの成長が喜ばしいな、と特にそれ以上は深掘りせずに穏やかなお茶の時間を楽しんだのだった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる