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本編
第十六話 あの夜の真実1
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時は少し遡り、サミュエルの生誕パーティーの後の牢内にて、オリヴィアはそこで決して見る筈のない顔にぎょっと目をむく。
「……あ、あなたは、」
「……ぶふっ!!も、もうだめ…!あっはっはっ!!ドッ、ドレスをそんな風にして獄中の固いベッドに…っ、寝てる人初めて見た…っ!あはははは───!!!」
「…大叔父上。それくらいに……」
オリヴィアが着ているドレスのたっぷりしたスカート部分を集めて下敷きにして寝ている牢の前まで、現国王陛下の弟でサミュエルには父の叔父、大叔父のヴィクターが息も絶え絶えに笑い転げながら歩いてきた。後ろには、どこか疲れた顔のサミュエルを連れて。
「…え、えなに。何事?」
「あはははは───っ!!!」
「…オリヴィア…とりあえず立とうか…」
とりあえず現在の自分の立場はいまいち分からないが、一貴族令嬢として、一騎士として挨拶をすべきか、とオリヴィアはそれでものそのそとあくまでマイペースにベッドから立ち上がり彼女らを隔てる鉄格子の前まで近づき礼をする。
「第二近衛騎士隊所属、オリヴィア・ブラックがヴィクター王弟殿下にご挨拶を申し上げます」
「くっくっ…君の話はよく聞いてるよ。まさかこんな一面があるなんて知らなかったけど…ぶふっ!」
「はぁ…。サム?なんなのこの人」
「僕の大伯父上だよ…」
「…ん?サムの大伯父って……あれ?違法賭博に一枚噛んでるってサムが疑ってたやんごとなき身分の方じゃなかったっけ?」
「うん………」
「あー…ふふっ。話せばそれなりに長いんだけど、まぁそれは一回置いておいて。とりあえず先に重要参考人の保護をお願いしてもいいかい?麗しの白薔薇の騎士様」
「?」
滲んだ涙をぬぐってヴィクターがジャラリと音を鳴らしながら懐から鍵の束を取り出す。そしてそれを当たり前のようにオリヴィアの居る牢の錠前に差し込み半回転させる。
カチリ。軽い音と共にいとも簡単に外への扉が開く。
「さっズズイと出てきてくれたまえよ」
「はぁ…」
鉄格子の扉部分を押し開け個室の外へ出る。すると突然オリヴィアは横からの衝撃に襲われた。ぎょっとしてそちらを見遣れば、涙と鼻水に顔をぐしゃぐしゃにしたブラック伯爵が声もなく号泣しながらオリヴィアの頭を抱き込むようにしてしがみついていた。
「!?パパ!?」
「オ、オ、オリヴィアちゃん~~~!!!」
「はぁ…オリヴィア、すまない。これにはわけが…」
「レインマン隊長まで…どうして…」
個室の中からは気づかなかったが、ヴィクターはサミュエルの他にもブラック伯爵とレインマンも引き連れてきていたらしい。益々どういう事だと訝るオリヴィアだったが、そう離れてはいないだろう距離から何か物が壊れるような音が響きピクリと反応する。
「ちょっと急ごうか。みんな、こっちだ!」
言うが早いか駆け出したヴィクターに全員が続く。そうして辿り着いたのは、オリヴィアが居た牢と同じ造りの別の個室──だが、明らかに牢番ではない騎士数名の姿と、血を流し怯えている元ジャクソン公爵夫妻が居た。
「!?」
「なんだお前達!?」
「たっ、助けーっ!」
ぎょっとしたのはお互い同様だった。が、一人この事態を見越していたヴィクターは持ってきていた剣をオリヴィアへ投げて渡すと号令を飛ばす。
「レインマン!元ジャクソン公爵夫妻を保護!オリヴィア!この場を鎮圧しろ!」
「はっ!」
決して広くはない牢の中へ突入するレインマンとオリヴィア。突然の乱入者に一拍遅れて騎士達も応戦する、が、白刃一閃。オリヴィアの剣が騎士達の腕を正確に突く。
腕を戻し、狙い、突く。力任せに振るわれる相手の剣をヒラリと蝶が舞うように避け、また狙い、突く。
数度その動作を繰り返した後、オリヴィアの他に牢の個室内に立っている者はいなかった。レインマンが元公爵夫妻を無事に外へ連れ出すのを確認してから、足元で呻き声をあげ転がる騎士達を見下ろす。
「…で、どういう事が勿論ご説明頂けますよね?ヴィクター殿下……というか、これもしかしてタダ働き…?」
「あっはっはっ!さっきの君のダラけ切った姿を見て、もしや麗しの女性騎士っていうのは嘘なんじゃないかと一瞬疑ったが…ふふ、中々どうして、素晴らしい腕前を持っているじゃないか」
「…恐れ入ります」
「今、第二近衛だったっけ?どうだ?私の指揮する第三に異動する気はないか?」
「大叔父上!!いくら気に入ったからって私情で勝手に大叔父上の所に引き抜かないで頂きたい!」
「お?サム~私情を持っているのは私だけか?ん?」
「大叔父上…!」
「………私帰って寝ていいですか?」
一瞬にして緊張感が消えた空気を察知すると、キリリと鋭い目つきだったオリヴィアの瞳がとろん、ととろけた。
「……あ、あなたは、」
「……ぶふっ!!も、もうだめ…!あっはっはっ!!ドッ、ドレスをそんな風にして獄中の固いベッドに…っ、寝てる人初めて見た…っ!あはははは───!!!」
「…大叔父上。それくらいに……」
オリヴィアが着ているドレスのたっぷりしたスカート部分を集めて下敷きにして寝ている牢の前まで、現国王陛下の弟でサミュエルには父の叔父、大叔父のヴィクターが息も絶え絶えに笑い転げながら歩いてきた。後ろには、どこか疲れた顔のサミュエルを連れて。
「…え、えなに。何事?」
「あはははは───っ!!!」
「…オリヴィア…とりあえず立とうか…」
とりあえず現在の自分の立場はいまいち分からないが、一貴族令嬢として、一騎士として挨拶をすべきか、とオリヴィアはそれでものそのそとあくまでマイペースにベッドから立ち上がり彼女らを隔てる鉄格子の前まで近づき礼をする。
「第二近衛騎士隊所属、オリヴィア・ブラックがヴィクター王弟殿下にご挨拶を申し上げます」
「くっくっ…君の話はよく聞いてるよ。まさかこんな一面があるなんて知らなかったけど…ぶふっ!」
「はぁ…。サム?なんなのこの人」
「僕の大伯父上だよ…」
「…ん?サムの大伯父って……あれ?違法賭博に一枚噛んでるってサムが疑ってたやんごとなき身分の方じゃなかったっけ?」
「うん………」
「あー…ふふっ。話せばそれなりに長いんだけど、まぁそれは一回置いておいて。とりあえず先に重要参考人の保護をお願いしてもいいかい?麗しの白薔薇の騎士様」
「?」
滲んだ涙をぬぐってヴィクターがジャラリと音を鳴らしながら懐から鍵の束を取り出す。そしてそれを当たり前のようにオリヴィアの居る牢の錠前に差し込み半回転させる。
カチリ。軽い音と共にいとも簡単に外への扉が開く。
「さっズズイと出てきてくれたまえよ」
「はぁ…」
鉄格子の扉部分を押し開け個室の外へ出る。すると突然オリヴィアは横からの衝撃に襲われた。ぎょっとしてそちらを見遣れば、涙と鼻水に顔をぐしゃぐしゃにしたブラック伯爵が声もなく号泣しながらオリヴィアの頭を抱き込むようにしてしがみついていた。
「!?パパ!?」
「オ、オ、オリヴィアちゃん~~~!!!」
「はぁ…オリヴィア、すまない。これにはわけが…」
「レインマン隊長まで…どうして…」
個室の中からは気づかなかったが、ヴィクターはサミュエルの他にもブラック伯爵とレインマンも引き連れてきていたらしい。益々どういう事だと訝るオリヴィアだったが、そう離れてはいないだろう距離から何か物が壊れるような音が響きピクリと反応する。
「ちょっと急ごうか。みんな、こっちだ!」
言うが早いか駆け出したヴィクターに全員が続く。そうして辿り着いたのは、オリヴィアが居た牢と同じ造りの別の個室──だが、明らかに牢番ではない騎士数名の姿と、血を流し怯えている元ジャクソン公爵夫妻が居た。
「!?」
「なんだお前達!?」
「たっ、助けーっ!」
ぎょっとしたのはお互い同様だった。が、一人この事態を見越していたヴィクターは持ってきていた剣をオリヴィアへ投げて渡すと号令を飛ばす。
「レインマン!元ジャクソン公爵夫妻を保護!オリヴィア!この場を鎮圧しろ!」
「はっ!」
決して広くはない牢の中へ突入するレインマンとオリヴィア。突然の乱入者に一拍遅れて騎士達も応戦する、が、白刃一閃。オリヴィアの剣が騎士達の腕を正確に突く。
腕を戻し、狙い、突く。力任せに振るわれる相手の剣をヒラリと蝶が舞うように避け、また狙い、突く。
数度その動作を繰り返した後、オリヴィアの他に牢の個室内に立っている者はいなかった。レインマンが元公爵夫妻を無事に外へ連れ出すのを確認してから、足元で呻き声をあげ転がる騎士達を見下ろす。
「…で、どういう事が勿論ご説明頂けますよね?ヴィクター殿下……というか、これもしかしてタダ働き…?」
「あっはっはっ!さっきの君のダラけ切った姿を見て、もしや麗しの女性騎士っていうのは嘘なんじゃないかと一瞬疑ったが…ふふ、中々どうして、素晴らしい腕前を持っているじゃないか」
「…恐れ入ります」
「今、第二近衛だったっけ?どうだ?私の指揮する第三に異動する気はないか?」
「大叔父上!!いくら気に入ったからって私情で勝手に大叔父上の所に引き抜かないで頂きたい!」
「お?サム~私情を持っているのは私だけか?ん?」
「大叔父上…!」
「………私帰って寝ていいですか?」
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