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本編

第十五話 ここからが本当の断罪の時間だ!

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 顔を覆っていた兜を脱ぎ、脇に抱えたオリヴィアは満足そうに微笑む。
 サミュエルは「あーあ」と言わんばかりに苦笑しているが、室内に居る他の人々は全く動じずにそのままでいる。パーティーで断罪され、牢にてその身柄を拘束されている筈のオリヴィアの登場に一体どういう事だ、とダンが騒ぎたてるもオリヴィアはどこ吹く風。そちらには視線も合わせずに玉座に座る国王陛下へとオリヴィアの視線は注がれる。
 と、突然爆笑が貴賓席から噴き上がる。今度は一体なんだとダンとローズマリーがそちらを向くと、爆笑どころか最前列で体を二つに折り曲げ、今にも床に転がり出さん勢いで大爆笑をしている一人の貴賓の姿。

 「っひ───!!あははははははは───!!!やっ、やば…っ、ひっ!こ、呼吸…困難っ、ぶふっ!なる…っ!」

 よくよく見ると、周囲の騎士達はなんとも言えない顔をしているが、誰も笑い転げる彼を諌める事は出来ていない。それもその筈だろう。ようやく大爆笑の波から生還した彼が折り曲げていた背筋を正し、その顔を真っ直ぐに正面、オリヴィア達へ向ける。その人物が誰なのか気づいたダンは硬らせていた表情をほっと弛ませる。

 「ヴィクター王弟殿下…!」

 彼はれっきとした王室の一員、現国王陛下の実弟であると同時にローズマリーとダンの共犯者にして後ろ盾。なぜこの場にオリヴィアが現れたのか分からないが、とにかく彼ならばこの場を上手く治めてくれるだろうとダンは安堵してヴィクターの言葉を待つ。が、どこか様子がおかしい。

 「……落ち着いたかね、ヴィクター」
 「ええ、陛下…落ち着きまし……ひっ!ひひっ!」
 「…」

 笑い過ぎてしゃっくりを起こしているヴィクターおおおじの背を、隣の席についていたサミュエルが黙ってさする。ひっ、ひっ、としゃっくりに合わせ揺れる肩をその場の全員が見守る不思議な時間が少しばかり過ぎた頃、ようやくヴィクターが改めて背筋を真っ直ぐに伸ばし、ダン達のすぐ前まで進み出る。

 「あー…んんっ!…さて。特別褒賞を授与する前に、最後の仕事が残っている」
 「…ヴィクター殿下?それは、このオリヴィアざいにんへの処罰をこの場で言い渡すという事ですの?」

 動揺を隠せないダンとはかわって、僅かに口端をヒクつかせるだけで表情を変えないローズマリーがヴィクターに問い掛ける。

 「そうだね。逃げられちゃったらたまらないから、確実に今日、ここで仕留めておきたくてね」
 「…」

 流石に何かがおかしい、と気づかないわけがない。ローズマリーはふぅふぅと息をしながら笑みを崩さないヴィクターを睨みつける。

 「…貴方…馬鹿なの!?分かっていて!?貴方もただじゃ──!!」
 「ローズマリー・ジャクソン!ならびにダン・プラット!」
 「!」
 「!」

 ヴィクターの一喝に、室内の左右で整列していた騎士達が一斉に中央に居るヴィクター達を取り囲む。

 「なっ!?なんなんだよ!一体!」
 「おや、状況が分からないかな?ダン・プラット君」
 「はぁ!?お、おいローズマリー…!どうなってるんだ…!・ヴィクターあいつは君の協力者だって…!」
 「五月蝿いわね!少し黙っていてくださる!?この、間抜け!」
 「なっ!?」
 「おやおや。ふふ、狡賢いローズマリー嬢はとっくに自分達が置かれている状況が分かっているようだけれど…ここはセオリー通り主役に格好良く宣言させてくれるかな?」
 「なにを…っ」

 宣言させて欲しいと言いつつ噛み付くローズマリーを避けてヴィクターはオリヴィアにウィンク一つを残して一歩下がる。それを受け、オリヴィアは彼に代わってローズマリーとダンの正面に立つとキッとまなじりを吊り上げ、そして室内中に響き渡るよう声高に叫ぶ。

 「ローズマリー・ジャクソン!ならびにダン・プラット!両名を違法賭博場運営、犯罪教唆、収賄罪、および名誉毀損で逮捕する!!!」
 「は、はぁ!?何わけの分からない事を言ってるんだ!!元々おかしい奴だったけど、遂に頭がトチ狂ったのかオリヴィア!?」
 「何を証拠に…っ!そっちこそ名誉毀損ですわ!!わたくしを誰だとお思い!?伯爵令嬢ごときが、一体誰に向かって剣を向けているのよ!!!」
 「ロ、ローズマリィ~!」

 にわかに騒々しくなってきたそこへ、騎士達の間を縫って数人の人物が出てくる。

 「証拠と言うが、お嬢さん。君のどの罪の証拠かね?なにせ数が多くてね」
 「!?あ、あんたブラック伯爵…!」
 「ブラック卿。ひとまずご息女の名誉毀損に関する証拠でしたら、こちらに証人を連れてきております」
 「おお、ありがとうレインマン第一近衛隊長。で、こちらの騎士達が…」
 「おっと。待ちたまえよレインマン隊長。その騎士共は収賄罪の容疑者でもあるね」
 「~っ!あ、あんただって違法賭博にどっぷりだったじゃないの!!あんただって共犯だわ!!」
 「その点は安心して欲しい。潜入捜査というものは知っているかな?まぁ、ついつい勝ち過ぎて目立ってしまったけれど、お嬢さんがホイホイ釣れてくれたので助かったとも」
 「誰がそんな嘘を信じると…!」
 「それはこの私が保証しよう。我が弟、ヴィクターに潜入捜査を命じたのはこの私なのだから」
 「!?」

 朗々とした声がローズマリーの金切り声を遮る。
 玉座から、老いてなお鋭い瞳の老人が眼下を見下ろす。
 全員が国王陛下へ注目している中、ブラック伯爵達に少し遅れてやっと騎士達の壁を突破してきたサミュエルがオリヴィアの隣へ並ぶと、彼女の耳元でこそっと耳打ちをする。

 「待たせたっ、オリヴィア!ローズマリー・ジャクソンの関与が疑われる事件の全て、裏が取れた!ジャクソン元公爵の意識も回復したそうだ」
 「よし!それじゃあ後は私に任せて…サムは陛下への私の特別褒賞の口利き頼んだからね」
 「はぁ…全く君は…。でも確かに、こんな大仕事を終えた後には僕もたっぷり寝たいよ」

 苦笑をこぼすサミュエルはしかし、オリヴィアに同意すると彼女の背を押す。

 「さぁ、悪党退治も終幕の時間よ」
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