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本編
第三話 白薔薇と大熊と金髪ワンコ
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「おはようございます、レインマン隊長!」
「ああ、おはよう!!オリヴィア」
静謐さすら漂う王城の一角、陽の光が降り注ぐ清々しい近衛騎士団の詰所および訓練場でもある大広場には屈強な騎士達の雄叫びが響き渡る。
清々しい空気感が漢共の暑苦しい熱気に相殺…いやマイナスだな、と毎日のことながら思いつつ、出仕したオリヴィアは自身の直接の上司である近衛騎士団第二隊隊長トム・レインマンと挨拶を交わす。
「本日の業務内容を報告致します!午前中は詰所にて新人騎士達の訓練監督および指導担当!休憩を挟みまして、午後は第二王女殿下の城下視察の護衛任務に就きます!」
「うむ!!了解した!!」
目の前の筋肉が眩しい。会話を交わす度に「!」の多い男ではあるが、彼はこの王城においてオリヴィアが最も尊敬し信頼する上司だった。
オリヴィアはそんな尊敬する上司に完璧な姿勢で頭を下げると、騎士服の裾を翻し一旦訓練場を去る。
詰所奥の女性騎士専用部屋にて訓練着に着替えると、両腕の裾を肘まで捲りあげ、私物の木剣を手に再び訓練場へと戻る。
「……おい、あれ」
「……ああ、あの噂の…」
オリヴィアの姿を目にした訓練場の騎士達の間で、細波のように囁き声が生まれそして大きな波となる。
一人の騎士として、貴族令嬢としてもひそひそ話など取るに足らないと全く意に解さないオリヴィアだったが、ここで曲がった事が大嫌いなレインマンが大声で喝を飛ばす。そそくさとオリヴィアから目を逸らし訓練へと戻っていく騎士達に、気にならないとはいえその光景を見て気分が良いものだな、とオリヴィアは小さく笑みをこぼす。
「レインマン隊長。恐れ入ります。そして何やら私事でお騒がせをしているようで申し訳ありません」
「ふん。普段からお前の為人を知っていれば、あんなくだらない記事、すぐに真っ赤な嘘だと気づくさ」
「ふふ、ありがとうございます」
勿論、レインマンはオリヴィアの普段──オン状態の完全超人状態のオリヴィアしか知らないのだが、新人の頃から目をかけ自身の期待にそれ以上で応えてきてくれたオリヴィアの事を部下として、また一人の人間として最大限に信頼していた。
「あー…しかし、ところで…婚約破棄の方はどうなのだ?」
おや、とオリヴィアは目を見開いた。様々な貴族の噂が飛び交う王城において、ゴシップの類に一切興味のなかった筈のレインマンがわざとらしく咳払いなんかをしてその大きな図体を折り曲げてオリヴィアに耳打ちをする。
「誓って私自身の不正云々は事実無根でありますが、ダン・プラット男爵令息との婚約破棄は事実です」
「多分…?」と心の中で付け足して、オリヴィアもレインマンの真似をしてこそこそっと耳打ちを返す。
「なっ…!!俺は分かっている…分かっているからな!!オリヴィア!!!」
「は?」
「きっと恐らく、いや確実に…!オリヴィアの武勇に相手の男が尻込みをしたか、もしくはお前に嫉妬して己のちっっっぽけな男としてのプライドを守る為に、お前を貶めるようあんな大法螺を吹いたのだろう!!!!!」
「はぁ…。?」
何やら熱く語っているレインマンを冷静に見つめながら、そういえば婚約破棄の理由ってなんなんだ、とオリヴィアはふと思う。なんか色々と喚いてはいたが…あの婚約者はなんと言っていたのだっけ。なにせあの日のオリヴィアは完全オフ状態で、オン状態の仕事中ならば剣を振り回しての大立ち回り中でも一言一句聞き逃さず記憶していたに違いないのに。
と、突然訓練場がにわかにざわつき出す。なんだなんだとオリヴィアとレインマンが騒ぎの中心へと視線を遣れば、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。
「あ、オリヴィア!」
遠目からも分かるふわふわの金髪を風に靡かせ、
屈強な騎士達の間に混ざっても引けを取らないがっちりとした肩幅の背の高い人物が、オリヴィアの姿を見つけると手を上げた。
「サミュエル殿下!?」
現王の孫にあたるサミュエル・エバンス第三王子が、まるで人懐こい大型犬のようにそれは嬉しそうに頬を弛ませてオリヴィアに笑いかけた。
「ああ、おはよう!!オリヴィア」
静謐さすら漂う王城の一角、陽の光が降り注ぐ清々しい近衛騎士団の詰所および訓練場でもある大広場には屈強な騎士達の雄叫びが響き渡る。
清々しい空気感が漢共の暑苦しい熱気に相殺…いやマイナスだな、と毎日のことながら思いつつ、出仕したオリヴィアは自身の直接の上司である近衛騎士団第二隊隊長トム・レインマンと挨拶を交わす。
「本日の業務内容を報告致します!午前中は詰所にて新人騎士達の訓練監督および指導担当!休憩を挟みまして、午後は第二王女殿下の城下視察の護衛任務に就きます!」
「うむ!!了解した!!」
目の前の筋肉が眩しい。会話を交わす度に「!」の多い男ではあるが、彼はこの王城においてオリヴィアが最も尊敬し信頼する上司だった。
オリヴィアはそんな尊敬する上司に完璧な姿勢で頭を下げると、騎士服の裾を翻し一旦訓練場を去る。
詰所奥の女性騎士専用部屋にて訓練着に着替えると、両腕の裾を肘まで捲りあげ、私物の木剣を手に再び訓練場へと戻る。
「……おい、あれ」
「……ああ、あの噂の…」
オリヴィアの姿を目にした訓練場の騎士達の間で、細波のように囁き声が生まれそして大きな波となる。
一人の騎士として、貴族令嬢としてもひそひそ話など取るに足らないと全く意に解さないオリヴィアだったが、ここで曲がった事が大嫌いなレインマンが大声で喝を飛ばす。そそくさとオリヴィアから目を逸らし訓練へと戻っていく騎士達に、気にならないとはいえその光景を見て気分が良いものだな、とオリヴィアは小さく笑みをこぼす。
「レインマン隊長。恐れ入ります。そして何やら私事でお騒がせをしているようで申し訳ありません」
「ふん。普段からお前の為人を知っていれば、あんなくだらない記事、すぐに真っ赤な嘘だと気づくさ」
「ふふ、ありがとうございます」
勿論、レインマンはオリヴィアの普段──オン状態の完全超人状態のオリヴィアしか知らないのだが、新人の頃から目をかけ自身の期待にそれ以上で応えてきてくれたオリヴィアの事を部下として、また一人の人間として最大限に信頼していた。
「あー…しかし、ところで…婚約破棄の方はどうなのだ?」
おや、とオリヴィアは目を見開いた。様々な貴族の噂が飛び交う王城において、ゴシップの類に一切興味のなかった筈のレインマンがわざとらしく咳払いなんかをしてその大きな図体を折り曲げてオリヴィアに耳打ちをする。
「誓って私自身の不正云々は事実無根でありますが、ダン・プラット男爵令息との婚約破棄は事実です」
「多分…?」と心の中で付け足して、オリヴィアもレインマンの真似をしてこそこそっと耳打ちを返す。
「なっ…!!俺は分かっている…分かっているからな!!オリヴィア!!!」
「は?」
「きっと恐らく、いや確実に…!オリヴィアの武勇に相手の男が尻込みをしたか、もしくはお前に嫉妬して己のちっっっぽけな男としてのプライドを守る為に、お前を貶めるようあんな大法螺を吹いたのだろう!!!!!」
「はぁ…。?」
何やら熱く語っているレインマンを冷静に見つめながら、そういえば婚約破棄の理由ってなんなんだ、とオリヴィアはふと思う。なんか色々と喚いてはいたが…あの婚約者はなんと言っていたのだっけ。なにせあの日のオリヴィアは完全オフ状態で、オン状態の仕事中ならば剣を振り回しての大立ち回り中でも一言一句聞き逃さず記憶していたに違いないのに。
と、突然訓練場がにわかにざわつき出す。なんだなんだとオリヴィアとレインマンが騒ぎの中心へと視線を遣れば、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。
「あ、オリヴィア!」
遠目からも分かるふわふわの金髪を風に靡かせ、
屈強な騎士達の間に混ざっても引けを取らないがっちりとした肩幅の背の高い人物が、オリヴィアの姿を見つけると手を上げた。
「サミュエル殿下!?」
現王の孫にあたるサミュエル・エバンス第三王子が、まるで人懐こい大型犬のようにそれは嬉しそうに頬を弛ませてオリヴィアに笑いかけた。
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