捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第12章 嵐は東の彼方からくる

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 ドタバタとした慌ただしい足音が、冒険者ギルドに併設されている救護室に響く。
 「アリオス!!」
 バン! と勢いよく扉を開ければ、ツンと鼻につく消毒液の匂いと、微かに血の匂いが混ざったなんとも言えない匂いが漂い、うっと眉間に皺を寄せる。
 はあはあと肩で息をし、額に汗を滲ませたツバキとラーハルトを出迎えたのは。
 「……おお~。どうした~? 2人共えらく慌ててるね~」
 ベッドの上で上半身を起こし、のほほんとお茶を飲んでいるアリオスだった。
 「いや、大怪我して死にかけてるんじゃないんかい!!」
 「ええ~? ちょっと切っただけだよ~。額だったから、ちょっと血が多く出ちゃったけど~」
 ツバキとラーハルトは、扉を開けたままその場に膝から崩れ落ちる。
 預かり処に駆け込んできた人物いわく、まるでアリオスが大怪我を負い、今にも死にそうだという言い方だったため、最悪を想定して2人が急いで駆けつけたところに呑気にお茶である。
 「ていうか、あれ~。2人共、今日は預かり処で何か催し物やるんじゃなかった~?」
 「っ、あんたが死にかけてるって聞いて、駆けつけないわけないでしょうが!!」
 ルルビ村の鍛冶屋であるアリオスは、以前に縁あって預かり処から炎馬えんばという従魔を譲ってもらっている。
 更に彼の本職は鍛冶屋で従魔術師ではないため、従魔術の初歩をツバキに教わるなど、浅い仲ではない。
 「そうですよ! アリオスさんが大怪我をしたって聞いて、そのまま何事も無かったかのように催しを続けられるわけないじゃないですか!」
 「あはは~、そっか、心配かけてごめんねえ」
 「……はあ」
 立ち上がったツバキはアリオスが寝ているベッドまで近寄り、そばに置いてある椅子へと腰掛ける。
 「まあ、それ以外にも、ちょっと催しを続けられる空気でもなくなっちゃってたし、ね」
 「何か問題でもあったの~?」
 「それが、新聞社の記者が来てて、それでなんか因縁をつけられちゃいまして」
 「因縁?」
 ツバキの後に続いて椅子に腰掛けたラーハルトに、アリオスはそれで? と続きを促す。
 「なんでも、預かり処うちが従魔術師協会のルールに違反してるとか、なんとか……」
 「違反してるの~?」
 「まさか! 言いがかりですよ! ねっ!? ツバキ師匠!!」
 「……」
 「……師匠?」
 ラーハルトと目を合わせないツバキが、それよりも、とアリオスへ問いかける。
 「一体何があったわけ?」
 「えっ、師匠……えっ?」
 「いつも通りに、炎馬ジョゼフィーヌと素材採取に山へ出かけてたのよね? いつもよりも深い場所まで行ってたの?」
 「いや、いつも通りだよ~。特別に欲しいレア素材なんかもなかったし、いつもと同じ場所にしか行ってないよ~」
 「ねえっ! ちょっと! 師匠! 師匠!?」
 「うるさい」
 「ぶべっ!!」
 ラーハルトを拳で黙らせたツバキは、じゃあなんで怪我なんて、とアリオスに聞く。
 「う~ん、それが、俺にもよく分からないんだけど、ジョゼフィーヌが……」
 「ジョゼフィーヌが? そういえば、ジョゼフィーヌはどこ? 彼女は怪我をしていないの?」
 アリオスは一瞬口篭ってから口を開く。
 「……ジョゼフィーヌはここにはいないよ」
 「え?」
 アリオスが握りしめたベッドシーツにきつく皺が寄る。
 「……この怪我は、ジョゼフィーヌがつけたんだ」
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