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2巻
2-1
しおりを挟むプロローグ
クリノリン王国の南の田舎地方。
冒険者達には、はじまりの村とも呼ばれるルルビ村。
と、いう情報はさておき。重要なのは、その村の東の端。そこにある一軒の風変わりな家。
昼夜を問わず、ぎゃあぎゃあと騒がしいその建物は、屋内も庭も多種多様な従魔──従魔術師と契約をした魔物達で溢れている。
正確には、様々な事情で飼育できなくなったため、自身の従魔術師に手放されてしまった従魔達だ。
気づいたらワケありの従魔を泣く泣く、時には勝手に、預けられていくようになり。
そしてまた気づいたら押しかけ弟子ができ。
ついには、従魔の預かり処なんて看板を掲げている。
そんな家の主であるツバキは、従魔だらけの家を眺めて改めて思う。随分と賑やかになったな、と。
最初は自身の従魔であるサザンカと二人きりの静かな家だったのに、今では沢山の従魔達に、弟子であるラーハルトも一緒に生活している。
ツバキはため息を吐く。
わざわざ村の端に居を構え、周囲とはあまり交流もせずに気楽に暮らそうと思っていたのに、今では従魔達の生活費を稼ぐために積極的に冒険者ギルドで依頼を受けているし、預かり処の見学人さえ募る始末。
先日なんかは、全国的に人々を騒がせていた連続従魔盗難事件なんてものにも巻き込まれ、なんやかんや介入に介入を重ね、結局先陣を切って解決のため奔走してしまった。
仕方ない、とツバキは今度は自分を落ち着かせるように深く息を吐く。
袖触れ合うも他生の縁、なんて言葉もある。
これもきっと、何かの縁。
第一章 寒い夜は一緒にいてあげる
「……はぁ。いつも通りの朝だ」
まだ夜も明けきらない早朝の空の下。
美しくも狂気的な大音量で鳴き続ける極彩鳥達を前に、うっすらと笑ったラーハルトは喉を鳴らして気合いを入れた。
台所とリビング、中庭を走り回って慌ただしく従魔達の朝食を準備しながら、それでもツバキは笑みを浮かべる。
「ああ~! いつも通りの日常だわ!」
目の回るような、と形容するにふさわしい朝だが、ツバキもラーハルトも「なんて静かでゆっくりした朝なんだ……!」
とでも言いたげに、にこにこと口角を上げている。
それもそのはず。以前関わった従魔盗難事件の被害従魔のうち、主人不明、あるいは特殊なケースで引き取り手のない従魔の保護については、預かり処が一手に引き受けていた。そのため、事件解決後の二人は朝から晩まで、文字通り気が狂いそうなほど忙しかったのである。
しかし、預かっていた被害従魔達を然るべき専門の機関や新しい主人へと引き渡し、不正に捕らえられていたものは野生へと無事に返すことができた。それでようやく、ツバキとラーハルトは怒涛の日々から解放されたのだった。
「これで夜に寝る生活に戻れる……」
「牛を一頭丸々餌にする日々も終わったんですね……」
『真夜中に突然始まる遠吠え大会も終了だ……』
のっそり起きてきたサザンカも加わり、二人と一匹は大きく息を吐く。
「これでご近所からの苦情祭りも終了よ!」
「イエス!」
『他の従魔同士で起きていた揉めごとの仲介も終わりだー!』
と、それぞれが歓喜に浸る中、預かり処の戸がコンコン! と軽快な音を立てて叩かれた。
──コンコン、ココン、コンッ!
「……ん? こんな朝から誰ですかね?」
訝しむラーハルトに、ツバキがぽん、と手を叩く。
「あ、冒険者ギルドの人かも。うちが落ち着いたらまた引き受けてほしい依頼があるって言ってたんだよね」
「それなら俺が出ますよ! 師匠は先に朝食を食べててください!」
「ありがとう! 頼むね」
「はい!」
身につけていたエプロンを外して、ラーハルトは足早に玄関へと向かう。
玄関へ向かっている間にもコンコン、コンコンと響き続けるノックの音に、ラーハルトは「はーい! 今!」と大声を出す。
しかし、音がやむどころか、ついには高速で途切れることなく戸が叩かれ始めたので、ラーハルトも流石に顔を顰める。
「ちょっと! 今出ますって! そんなにコンコンコンコン、戸が壊れ──」
ガラリ、と玄関の引き戸を引くやいなや、何かがラーハルトの鳩尾に突撃した。
「ぐふっ!?」
バサリと羽ばたく音と、燃えるような真っ赤な色がちらりと見えたのを最後に、ラーハルトの意識は途絶えた。
轟音──もとい、ラーハルトが吹っ飛ばされた音を聞き、急いで玄関へ駆けつけたツバキが見たものは、気絶したラーハルトとその腹の上で優雅に毛繕いをしている真っ赤な鳥だった。
『ふうっ。風で羽がバサバサになってしまったのぅ』
「!? あ、あんたなんでここに……」
驚愕するツバキを見て、赤い鳥は不思議そうに首を傾げる。
『うん? 妾は妾のいたいところにおるのじゃ!』
「うそ~……流石にうちじゃ手に負えないから、王都の従魔術協会の総本山に送ったのに……」
『お~い、ツバキ。さっきの音は……ぅおっ!? どうしてソイツがここにいんだよ!?』
遅れてやってきたサザンカの言葉に、鳥は気分を害した様子で一鳴き。
『なんと! 無礼な犬っころじゃ! 妾をソイツとな!?』
「引き渡した従魔術師と従魔契約してたよね? え? どうやって勝手に……」
『従魔契約じゃと? ふん。本気で言っておるのかこの小娘は』
『……ツバキ。面倒ごとになるのは百パーセント確定だ……流石に相手が悪い……』
項垂れるツバキとサザンカ相手にニヤリと真っ赤な鳥は笑ってみせる。
そして畳んでいた両翼を広げてみせると、それは美しい鳴き声を上げた。
『カッカッカッ! この気高き羽をなんと心得る! 音に聞こえし幻の魔物! 不死鳥サマとはこの妾のことよ!!』
ピーピーピーピー甲高い鳥の鳴き声が響き渡る預かり処の玄関にて、転がったままのラーハルトがぽつりと呟いた。
「……とりあえず俺の腹の上からどいてほしい」
いつもは元気いっぱいでリビング内を跳ね回っている毛玉猫達も、機嫌良く歌うように鳴く三つ目烏のピー助も、その他室内飼いの従魔達も、今日は皆静かに部屋の隅に固まっていた。
『やはり獣というものは、皆美しく気高いことのなんたるかを分かっておるのじゃな。ふふん! 敬われるのは決して気分が悪いものではない。今後共に暮らす仲間として、この妾に話しかける権利を授けよう!! さあ! そこの毛玉! 長旅で疲れた妾の枕となるのじゃ!!』
『みゃ、みゃ~ん……!』
『む、何故逃げる! まあ仕方ない。あまりの恐れ多さに尻込みしておるのじゃな』
「……」
ラーハルトは自身の膝の上でどっしりと寛ぐ真っ赤な鳥、もとい不死鳥を見下ろし、心の中で長いため息を吐いた。
『こりゃ、お前。ぶらっしんぐの手が止まっておるぞ』
「す、すみません……」
『うむ! 永らく生きてきたが、人にぶらっしんぐなるものを施されるのは初めての出来事じゃった。妾の毛艶の良さたるや! 特別にお前を妾のぶらっしんぐ係としてやるのじゃ!』
「はは、そうすか……」
鳥と言っても、不死鳥は中型犬くらいの大きさだ。その体重にラーハルトの膝が段々と痺れてくる。
退いてもらってもしばらくは立ち上がれないな……とラーハルトが遠い目のまま無心でブラシを動かしていると、出掛けていたツバキとサザンカが戻ってきた。
「しっ、師匠!! どうでした!?」
ラーハルトの向かいのソファーに倒れるようにドサリと座り込んだツバキは、疲れた顔を隠しもせずに返事をする。
「村の冒険者ギルドに確認してもらってきたけど、まじで王都の従魔術協会から不死鳥が消えてた……」
「ひ、引き渡して従魔契約を結んだSランクの従魔術師は!?」
真っ青な顔のラーハルトに、ツバキは肩をすくめた。
「不死鳥相手に従魔術がまっっったく発動しなくて、今真っ白になってるって」
「ええ!? でもうちから引き渡した時、従魔契約失敗してませんでしたよね!?」
「失敗してなかったけど、成功もしてなかったみたい」
「は!? 結局失敗してたってことですか?」
「ううん、そうじゃなくて……うーん……」
珍しく言葉に詰まったツバキが顎に手を当てる。
「よし、まずいつも通りいこう。ラーハルト! 不死鳥についての基本情報は!?」
しばらく黙っていたツバキは一つ頷くと、びしりとラーハルトを指差す。
「ぅえっ!? えっと……」
突如質問されたラーハルトは戸惑いつつも、ツバキに従うべく反射的に口を開く。
「えっと、不死鳥は、ですね……鳥型の魔物で、個体数は少なく……死ぬ時には燃え、その灰から再び生まれるという生態以外はよく分かっていない、伝説級と分類されるとても珍しい存在です」
「うんうん、そうね。特性や性質は?」
「えっと、一説には魔法も使うとか、癒しの力を持つとか」
「他に何か特記事項は?」
「……ええっと、身体の大きさを自在に変えられるとか、人間に化けられるとか、時間を操れるとか、実は魔物ではなく神獣の類とか、見ればお金持ちになれるとか、尾羽を持っていると幸福になるとか、とか、とか!」
頭の中の辞書をどれだけめくっても一ページ、いや半ページすら埋まらないような薄い内容しか出てこないが、ジッと見つめてくるツバキに、焦ったラーハルトは思い出せる限りの情報を述べる。
しかしその内容がどんどんとおかしな方向へ行き出したところで、ツバキがさっと手を挙げた。
「ストップ!!」
「あとは口から温泉が出るとか~! ……へ?」
「良い、良い! もう十分! っていうか、途中からのは何!?」
「すみません……何か答えなきゃと思いまして……」
『妾をなんだと思っておる! 口から出るのはゲロだけじゃ!』
膝上で寛ぐ不死鳥にすら文句を言われ、しゅんと肩を落とすラーハルト。
「ゔっ、すみません……」
ツバキはやれやれとラーハルトの肩を軽く叩く。
「一番最初に答えた、死ぬ時に燃えてその灰の中から甦る、っていうの以外はきちんと検証できていない眉唾ものね」
「……引っかけ問題っすか」
「ちっがうわよ。あんた重要なこと一つ忘れてるわよ!」
「えっ?」
ツバキの言葉にラーハルトはぽかんと口を開ける。
そのラーハルトの膝の上では、不死鳥が興味は失せたとばかりに欠伸をして長い首を自身の羽毛の中に埋めている。
「不死鳥を従魔にした、っていう記録や文献がほぼ残されてないのよ。だから、不死鳥と従魔契約を結ぶ方法がそもそも謎だらけってわけ」
「……へ?」
「だから王都の従魔術協会総本山っていう、界隈のトップ中のトップがこんな田舎の村まで出てきたのよ。持ち主不明のグレーな従魔だって、この村にも冒険者ギルドはあるわけだし、そこだけで十分に対処できたわよ、不死鳥なんて例外中の例外がいなければ」
「はっ、確かに……そうかも?」
不死鳥を引き渡した時はあまりの忙しさに特に深く考えていなかったラーハルト。だが、思い返してみれば、やけに厳重だった引き渡しや処理の必要だった大量の書類に、今になって「ああっ!」と合点がいく。
「や~……流石に私も不死鳥なんて初めてお目にかかったし……引き渡しの時のSランク従魔術師との従魔契約にも問題ないように見えたんだけどなぁ……戻ってきちゃったかぁ……」
「え? え? でも、そんな物凄い貴重な魔物、うちでどうこうできるものでは……」
「ないね。もちろんね」
「ツバキ師匠が従魔契約とか……」
ラーハルトの提案に、ツバキは渋い顔をする。
「う~ん。できるできないは置いといて、なんかこれから従魔術協会のすっごく偉い人が来るらしいから、勝手なことはしない方が良いと見た」
「す、すっごく偉い人が来るんですか」
「うん、来る。すっごく偉い人が」
「……」
「……」
やっといつもの日常に戻った、と思ったのも束の間。
またしてもやってきそうな面倒事の予感に、ラーハルトとツバキは目を見合わせる。
そしてラーハルトの膝の上ですっかり寝こけている、面倒事の原因になるであろう不死鳥を見つめて、二人は深いため息を吐いた。
♦︎
『で、どうすんだ? あれ』
預かり処の台所内。
シンクに山と積まれた従魔達用の皿の片付けを黙々とこなしているツバキは、足元でふさふさの白い毛を擦り寄せて寝そべっているサザンカの問いに、ため息で返す。
『ラーハルトの奴にはああ言っちゃいたが、お前だったら不死鳥相手だろうがなんだろうが、問題なく契約できるだろうが』
「……」
朝食を食べ終え、従魔達は庭で思い思いに時間を過ごしている。
ツバキとサザンカしかいない台所に響くのは、流れる水の音と食器同士の触れ合う少し耳障りな音だけ。
「サザンカ」
水を流す音が止まる。
ツバキもサザンカも口を閉じれば、庭から響いてくる従魔達の楽しそうな鳴き声だけが微かに聞こえる。
「そりゃ縁を結ぶことはできるけど……従魔術での契約となると別だよ。多分、私も従魔契約はできないと思う」
『つっても、すげえ従魔術師でも従魔契約できなかったんだろ?』
「だからもっと偉い人が来るんだよ」
『そいつでも無理だったら?』
「……そしたらもっともっと偉い人が来るよ」
『はぁ……しばらく落ち着かねぇなぁ……やあっと騒がしくなくなったのによぉ』
じとりとしたサザンカの視線にツバキはゔっ、と唸る。
一人と一匹の脳裏によぎるのは、つい最近までのバタバタと忙しなかった従魔盗難事件の後始末。
「私だって面倒事は嫌だよ! でもさ、外の人の言う伝説級がどういう位置付けなのか知らないけど、恐らく神獣の類の不死鳥には手を出したくない! 分かってるでしょ? 神獣に下手に手を出すと、呪われるってこと」
ツバキは変わらずじとぉっとした視線を送ってくるサザンカから視線を外して前を向く。
すると、ちょうど目の前にある窓から、庭で何やら従魔達と共に駆けずり回っているラーハルトの楽しそうな顔が確認できる。
その光景を見て口端を僅かに緩めるツバキの横顔に、サザンカも鼻先に寄せていた皺をやっと緩めた。
『……分かった。そうだな、その方が賢明だ……はぁ、仕方ねえから、またしばらく騒がしくなるのは勘弁してやる』
「ありがと、サザンカ」
『ただし不死鳥の世話はラーハルトに押し付けろ! なんかすげえ偉い人間が来るっつってたけど、この間の調査団みてぇにずっっとうちに居座らせるなよ!! 居座らせるなら従魔達の世話をさせろ!!』
「ふふ、分かった」
一人と一匹の会話は、他に誰もいない静かな台所で始まり、そして終わった。
♦︎
まだ陽も昇り切らぬ早朝。
普段通り半分白目を剥きながら極彩鳥達と一コーラスハモってきたラーハルトが、三十分だけでも二度寝……とふらふらしながら自室の扉を開けると、そこには。
『こりゃ、妾の羽をぶらっしんぐするのじゃ!』
「……」
ふかふかのベッドの真ん中に、どんと居座るスッキリキッパリパッチリおめめの開いた不死鳥の姿。
「……あの、俺これからちょっと寝たいんですけど」
『でも妾は今やってもらいたいのじゃー!』
「……」
僅か三十分、されど貴重な三十分の二度寝を諦めざるを得ないことを悟るラーハルト。
そして彼は、不死鳥が戻ってきてからたかだか数日だというのに、自室に常備されるようになった不死鳥用のブラシを大人しく手に取った。
従魔達に昼食を与え終わったラーハルトは、日光浴がしたい! と騒ぐドライアドのデュポンを連れて庭へと出た。
『うう~ん! 燦々と降りそそぐ陽!! 輝くボク!!』
「あの~俺も昼飯食べたいんだけど……もう日光浴足りた?」
『足りたか足りていないかというと、十分なのだけれどね! けれど、陽光にキラキラとそれはもうダイヤモンドのごとく輝くボクの、この緑の葉を! 一目見たいと切望するこの世の全ての命あるモノ達への義務とでも言おうか!! そう!! まだボクはこの陽のもとにいたいのだよ!!』
相変わらず口が回るデュポンにげっそりしながら、ラーハルトはため息を吐く。
「……お前この前自分で歩いてなかったっけ? ここに鉢植え置いていって良い? 自力で家の中に帰ってこれるでしょ?」
『歩けるけれども繊細で美しい根っこが痛むので却下さ!! ボクの美の僕よ! ちょっと暑いからジョウロで水を降らせてくれたまえよ!!』
「……(ちょっとくらい太陽光で焦がしても良いかな)」
空腹も重なり、無駄に騒々しいデュポンに小さく苛ついたラーハルトが手中の鉢植えを必要以上の力を込めてぎりぎりと握り締めた時、唐突にラーハルトの頭上が陰った。
「ん? ……っどわあ!?」
影に気づいたラーハルトが上を見上げた瞬間、視界いっぱいに広がった赤色にラーハルトは吹っ飛んだ。
「ぶふぅっ!!」
『おっと』
『食後の運動に付き合うのじゃ!!』
顔面で不死鳥をキャッチしたラーハルトは、受け身も取れずに盛大にコケる。
ちゃっかり鉢植えから飛び出したデュポンは、尻餅をつくラーハルトを尻目に華麗に着地し、クルクルと空中を舞う自身の鉢植えを根と葉で器用にキャッチすると、やれやれと肩をすくめる。
『全く美しくないね!! 倒れるならばそれは翼を失った天使が頽れるようにしなやかに、指先まで意識を巡らせそして地面に触れる時は重さを感じさせないように』
「ケ、ケツが……っ!」
悶絶するラーハルトを意にも介さず演説を続けるデュポン。
『そう! ふわりと! ふわりと一枚の羽根が地面に舞い落ちるかのように!! なんならボクがお手本をやってみせるけれどもね!! どうかい!?』
「とりあえずお前には黙っていてほしい」
『なんだいなんだい! ご立腹だね!! そんなにお尻が痛むのかい!?』
耐性ができたとはいえ、やはり通常運転のデュポンにイラりときているラーハルトに、同じくイラりときている不死鳥がバッサバッサと翼を羽ばたかせる。
『ほれほれ、さっさと立つのじゃ!』
『む! 赤い君! この者はボクの日光浴を手伝っているのだよ!!』
『なんじゃと!? そんなもん、妾の用事が優先されるに決まっておるだろうが!』
怒りの矛先をデュポンに向けた不死鳥だが、相手が悪い。
『いやいやいや、ボクの美しさが何よりも優先されるのは自明の理、この世の理!! 赤い君よ、その燃えるような素晴らしい翼も、このボクの美しさの前では霞むというもの……だが案ずるなかれ!! このボクの美しさに敵うモノなどこの世に二人といないのだから!! 心配ご無用さ!!』
『何をわけの分からんことを言っておるのじゃこの葉っぱは!! その葉っぱ啄んでやろうか!?』
『なんと……っ! ああっ……! 嫉妬の炎にその身を焼かせてしまうボクの美しさよ……』
『なんて五月蝿い葉っぱじゃ!! なんの話をしていたのか分からなくなってきたのじゃ!!』
『ボクの美について話していたのさ!』
ピーチク、パーチク。
中身があるようで全くない、ただただ騒々しいだけの会話を続ける二匹に挟まれてしまったラーハルトは、苛立ちもとっくに通り越えて項垂れた。
「……どうでも良いから、俺を間に挟まないでほしい」
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