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しおりを挟む序章 運命と出会う何秒か前
商人、薬師、剣士、魔法使い、僧侶──
数ある職種の中で、魔物──時に人を襲い、生活を脅かす恐ろしい獣──を使役するスペシャリストがいる。
冒険の相棒として、仕事の助手として、もしくは人生の友として。彼らは魔物と絆を紡ぐ特殊な術を身につけている。
従魔術と呼ばれるその魔法を修めた彼らを、従魔術師と呼ぶ。
♦︎
クリノリン王国の南の田舎地方。年間を通して穏やかな気候と豊かな土壌で知られるルルビ村は、冒険者達の間では別名"はじまりの村"と呼ばれていた。
ルルビ村には、広大な薬草畑がそこかしこにあるために、初級冒険者向けの薬草採取のクエストが途切れない。また、村の周辺に出没する魔物が初級冒険者でも十分討伐可能なレベルばかりなのも、ルルビ村にその異名がつけられた理由の一つだった。
さて、そんなルルビ村の東の端。冒険者向けの宿や商店はおろか、民家もまばら。空き地や畑ばかりが広がる一角に、家がぽつんと建っている。
そして、他の民家とは一風変わったその家に続く、ルルビ村の外れのあぜ道を、トボトボと歩く切なげな後ろ姿が一つ。
青年はハアア、と時折ため息を吐きながら痛む四肢を引き摺って歩く。
「今日もテイム成功しなかったし……パーティはクビだし……はぁ……」
心なしかヨレッとした服装の青年の頭上で、三つ目烏がカアと鳴いた。
瞬間。ぽとり、と頭頂部に感じる軽い違和感。
「……泣きそう」
帽子も何も装備していない青年の輝く金の髪に、白い糞がぺちゃりと付着していた。
♦︎
時は少し遡る。田舎の村とはいえ、ガヤガヤ、ザワザワと騒めきの絶えない冒険者ギルドの受付で、金髪の青年はズビズビと鼻を啜っていた。
「えーと……ラーハルトさん? 今回の成果をお聞きしても……?」
「うっ、ぐすっ……今回、もっ……成果っはっ……ないで……ヴっ……です……」
「パーティの皆様は……」
「ヴっ……クビにっ……なりっ、なりま、じだぁ……!」
「うーん……」
いつもは笑顔の眩しい受付のお姉さんも、綺麗に整えられた眉尻を下げて困ったように頬に片手を添える。
ラーハルトと呼ばれた青年と、彼の相手をしなければならない受付係の周囲は、悲愴な空気に包まれきっている。
いつもの光景となりつつあるそれを見て、ギルド内に併設された簡易食堂にいる他の従魔術師達は酒をあおりつつガハハと笑った。
「おーい! ラーハルト! お前いつまで従魔術師として冒険者やってんだ!?」
「冒険者ったって、役職は他にもあるだろ!? 剣士でも魔法使いでも、他の役職に登録し直してこいよ!」
「そうだぜ! 従魔のいない従魔術師なんて笑い話だ!」
一日の終わりにほろ酔いで頬を染めた従魔術師達が、やいのやいのとヤジを飛ばす。
「この町周辺に現れる魔物すらテイムできないなんて、お前にゃ従魔術師の才能がこれっぽっちもないんじゃねえのか!」
「……!!」
文字通り顔面蒼白になったラーハルトに、会心の一撃が突き刺さる。
ヴっと嗚咽を漏らし、立ち尽くしたままついに声もなくボロボロと大粒の涙をこぼし始めたラーハルト。
その様子を眺めていた受付係の頭に、ある人物の名が浮かぶ。彼女はあっ! と声を上げてラーハルトの手を掴んだ。
「そうだ! ラーハルトさん! ここの東の外れに居を構えていらっしゃる従魔術師さんをご存じありませんか!?」
「ぐずっ……?」
受付係はにっと口角を持ち上げて口を開いた。
ここ数日の悩みの種だったこのやり取りからやっと解放される、と。
第一章 出会い
そして現在、ルルビ村の東の端にて。
「……で? こんな時間にうちに押し掛けてきたってわけ?」
馴染みのない、珍しい造りの家の門前。腕組みをしていかにも「不機嫌です」という態度の黒髪の女性──もとい、家主であるツバキを前に、ラーハルトはビクリと肩を揺らす。
見たところ、かなり歳下だろう女性相手に恐怖を感じる自分を恥じつつ、しかしもうここが最後の砦だ……! とラーハルトは意を決する。
「おそ、遅い時間にごめんね! でも、冒険者ギルドの受付のお姉さんからここを紹介されて……! 俺、本当に今困ってて、それで……!!」
拳を握って力説するラーハルトに、腕組みをしているツバキは「はぁ」と深いため息を吐くと、腕組みを解いて家の中を指差す。
「色々と! 言いたいことはあるけど……とにかく、今はちょうど夕飯時なの。お腹を空かせた子達を待たせられないから、あんたも入って。どうせ話長いでしょ? 食べながら聞くから」
「え?」
ギロリ! とラーハルトを一瞥してから、ツバキは踵を返して家の中へさっさと入っていく。
こちらを振り返らない背中を見ながらラーハルトはぼけっとしていたが、ツバキが消えていった先から漂う良い匂いに、腹をグウと鳴らした。
とりあえず自分のお腹の音に正直になろう……とラーハルトは慌ててその家の中に足を進めたのだった。
「う、うわあ……!」
これまた見たことのない横開きの扉を抜けた先、リビングだろうその部屋に広がる光景に、ラーハルトは感嘆の声を漏らした。
大きな机に所狭しと置かれた、湯気の立つ美味しそうな夕食の数々……は、さておき、部屋の中では多種多様な魔物達が寛いでいる。
「!」
グルル! という大型魔物の鳴き声にハッとして声のした方に目をやれば、庭に続く扉の外には室内に入らない大きさの魔物達が待機している。
「え、えっ……!? す、凄い! この辺では絶対お目にかかれない上級魔物までいる!」
空腹も忘れ、興奮して駆け出そうとしたラーハルトだったが、何かが足にぶつかる。
『みゃあんっ!』
「っ!? う、うわっ! ごめん! 気づかなかった! ごめんね!? 怪我はしてない!?」
『みゃ~ん……』
ラーハルトに蹴飛ばされかけた小さな猫のような魔物の毛玉猫が、恨めしそうな鳴き声を発して、その場に膝をついたラーハルトの顔面目掛けてぽふぽふと体当たりをする。
が、そこは小さな毛玉。鼻先をくすぐるだけの可愛らしいそれに、ラーハルトは蹴飛ばしかけたことも忘れて「ふあふあぁ……」と恍惚のため息をこぼす。
「ちょっと! そんなところにうずくまってないでよ!」
「あっ、ご、ごめん!」
「毛玉共! ご飯だよ! 誘惑してないでほら、こっちにおいで~」
『みゃん! みゃあ~ん!』
「あっ……」
小鉢を沢山載せたトレイを持ってツバキが現れると、毛玉猫達は一匹残らず彼女のもとに駆けていく。
幸せのふわふわから突如引き離されたラーハルトは残念そうな声を上げたが、忙しそうにくるくると動き回っているツバキを目にしてハッとした。
「あの! 手伝うよ! 俺、一応従魔術師だから……その、餌やりの方法とか知ってるし……」
「あっ、じゃあ庭の子達お願い! 肉食の子達はもう終わってて、あとはそこにいる草食の子達のだけだから!」
「う、うん!」
毛玉の群れから脱し、ウルフ種と呼ばれる狼に似た中型魔物に餌をやっているツバキから飛んできたお願いに、ラーハルトはウキウキと湧き立つ心を感じながら庭へ出た。
そして、既に用意されていた草食魔物用の干草を定位置だろう場所へ運ぶ。
「水もおねがーい!」と背後から追加で飛んできた声に、ラーハルトもいつになく大きな声で返事をすると、綺麗に洗って置いてあった桶を持って水道に近寄った。
ふと、水が桶に溜まるのを待っているラーハルトの目にブラシが映り込む。思わず手に取って見ると、よく使い込まれていることが分かった。
このブラシを使っている人物を思い浮かべて、そして使っている光景を想像して、ラーハルトの頬が弛む。
(きっと、すごく良い人なんだろうな。ちょっと怖いって思っちゃったけど)
その後すぐに「人間のごはん!!」と響いたツバキの大声を聞き、ラーハルトは急いで桶を水で一杯にすると再び庭の扉から家の中へと駆け戻っていった。
口一杯に頬張った温かな夕食をもぐもぐと咀嚼する。美味しい……と不覚にも涙腺が緩んだところで、前に座ったツバキの視線に気づいたラーハルトは、慌てて口の中に残ったご飯を飲み込む。
「んぐうっ! もぐっ……んー!」
「ちょっと! そんな慌てなくていいから! ゆっくり噛んで食べる!」
「……っ! っく。う、うん。ごめんね、突然押し掛けて、夕食までご馳走になっちゃって……」
「それはもう聞いた」
ちゃっかりお碗に盛られたご飯をおかわりしていたラーハルトが、握りしめたフォークはそのままに、居住まいを正して自己紹介をする。
「えっと、改めて……俺はラーハルト。従魔術師で、冒険者ギルドにも冒険者として登録してる」
「……私のことをどう聞いているか知らないけど、私はツバキ。私も冒険者ギルドに登録している職業冒険者の従魔術師だよ」
「えっ!? 君、冒険者なの!?」
「なんだと思ってたわけ? 従魔園でも経営してると思った?」
"職業冒険者の従魔術師"。
従魔術師といえども、一概にその全てが冒険者とは限らない。中にはそれぞれの従魔の特性を用いて、農業や建設などの力仕事や、運送業を営んだりしている者もいる。
家を見せてから自己紹介をするとよく返されるその反応に、ツバキは頬杖をついて、はあとため息を吐く。
「いいけど。もうその反応されるの慣れたよ」
「あ、ごめん! 冒険者やってる従魔術師ってもっとこう、イカついイメージあって……て、あー……ごめん。これも偏見だよね」
「いいよ。どうせ冒険者ギルドの受付嬢に従魔の引き取り屋って聞いてきたんでしょ? で? だれを無責任に放り出すわけ?」
「え?」
「なに」
「放り出す?」
「……」
噛み合わない会話に沈黙が落ちる。と、突然第三者の声が部屋に入ってきた。
『おーい、ツバキ~。門のところに置いてあったぜ』
と、真白い毛を持つ大きな犬型の魔物が、口に籠を咥えてのっしのっしと部屋の中央まで進むと、その籠をぽすり、とツバキの膝の上に置く。
「ちょっと、なによこれ」
『いつもの』
「……はっ!?」
ツバキが素っ頓狂な声を出す横で、ラーハルトは目を見開いた。
「……えっ? えええっ!? グレートウルフ……いや、まさか、フェフェフェフェ……!?」
『おっ? なんだこいつ』
『ピイイーッ、ピイッ』
「あっ! やだ! 孵化したばっかの雛を置いていきやがったな!? 母鳥はっ!?」
犬型の魔物に話しかけられ固まっていたラーハルトは、可愛らしい雛の鳴き声とツバキの怒声を聞いて、ますます驚愕する。
「あえお、おあっ!? えっ!? 三つ目烏の雛っ!?」
額にある三つめの瞳もまだ開いていない、烏に似た魔獣の雛が、親を探して鳴いている。
「ちょっとサザンカ!! この子置いてったクソ野郎まだ近くにいる!?」
『まだ近くをうろついてるな。匂いがする』
「捕まえてこい!」
『ピイィ、ピッピッ!』
「??????????」
一瞬にしてカオスと化したツバキの家で、ラーハルトの疑問に答えてくれる者はいなかった。
サザンカに首根っこを咥えられ引き摺られてきた不届き者に、ツバキが特大の雷を落とした後。ツバキはピィピィと鳴き続ける雛を膝に載せ、唖然としているラーハルトに改めて向き合っていた。
「まったく……この国の従魔術師のマナーとか責任感、どうなってんのよ」
三つ目烏の雛のまだ小さな嘴を撫でながら、ツバキは独り言ちる。放置していった従魔術師にはきっちりとお灸を据えたが、結局雛は預かることになった。
「あー、ラーハルト……だっけ。なんでか知らないけど、冒険者ギルドに飼育しきれなくなった従魔の引き取り屋、って思われてるの、私」
「……はぁ」
「そんな看板掲げたことないんだけどね。で、こうやって勘違いしたクソ従魔術師が勝手に従魔を置いてっちゃうのよ」
「……はぁ」
「だからてっきり、あなたもそういう類いかと思ったんだけど……違うの?」
「……はぁ」
『……おい、小僧! はぁはぁはぁはぁ生返事ばっかりしやがって、聞いてんのかっ!?』
「……はぁ……はっ!?」
諸々の衝撃で飛んでいたラーハルトの意識が、床に伏せっていたサザンカの一喝で帰ってくる。
「はぇぅ、ああ、あの! 冒険者ギルドの受付さんから、確かにここに来れば俺の悩みも解決するかも、とは聞いてきたけど……その、従魔の引き取り、ではなくて……」
ちらっちらっとサザンカへ落ち着かなさげに視線を寄越すラーハルトに、ツバキは嘆息する。
「ちなみにサザンカはフェンリルじゃないよ」
「えっ!? でも」
「なんなのかな~! ここの人達って本当にサザンカ見るとおんなじ反応するんだけど、本当にフェンリルじゃない!」
「えええ!? でも、こんな大きくて立派な体躯で、人語も解するような知能のある狼型の魔物なんて、考えられるのは伝説級のフェンリルくらいしか……!?」
「そもそもサザンカはウルフ型の魔物でもないよ!?」
「は!?」
「サザンカは、厳密に言うと犬型なの!! わんちゃん!!」
「はあ!? わ、わんちゃん!?」
『おいこら、わんちゃんって言うんじゃねえ! お犬様と呼べぃ』
三者三様の叫びを聞き、お腹が満たされツバキの膝の上でこっくりこっくり船を漕ぎ出していた雛が驚いたようにピイイ! と鳴く。
「い、犬型って……精々が仔山羊くらいの大きさの魔物しかいないんじゃ……それも大体が愛玩用で、冒険者の従魔向きじゃないんでしょ?」
「え? 私もまだここの魔物全てを知り尽くしているわけじゃないから、なんとも言えないけど……少なくとも私の故郷では、サザンカくらいの大きさの大型の犬型魔物は普通にいたよ」
「ここ? 故郷? そういえばこの家も珍しい造りだけど……もしかしてツバキって違う国から来たの?」
「あー、うん。東の方のすっごい田舎から……まぁ、それはさておきだよ。で! 結局ラーハルトは何しにうちに来たわけ? 悩みってなによ。私はお悩み相談屋でもないつもりなんだけど」
我関せずと欠伸をしているサザンカを、まだ納得がいかないようにじろじろと見つめるラーハルトだったが、ツバキからの質問にここへやってきた当初の目的を思い出す。
ラーハルトは何やら言いにくそうにまごついてから、へにょっと太い眉尻を下げる。
「実は……俺、従魔術師なんだけど、全っ然、まったく。魔物をテイムできないんだ……」
ラーハルトの告白に対し、ツバキは何か言おうとして口を開き、そして閉じる。
「そんなことは従魔術の師匠か学校にでも行って相談してこい」と言おうとして、けれどラーハルトのなんとも言えない悲愴感漂うその表情に、言葉を飲み込んだのだ。
「……それで?」
「うっ、それで……それで、冒険者ギルドの受付さんが、ここでは従魔を譲ってくれるかもって言っていた、んだけど……」
「……あなたは私に、ここにいる従魔を譲ってほしいわけ?」
「ヴっ……その……」
煮え切らない態度のラーハルトに、ツバキは隠しもせずに大きなため息を吐く。
「まぁ、餌やりを手伝ってもらったし。話くらいは聞いてあげる」
ツバキの口から出たその言葉を聞き、サザンカは内心で、それが便利屋だの相談屋だの思われる所以だ、と目を閉じたまま耳だけを動かしながら思った。
ダイニングから出ていくツバキの背を追って、ラーハルトは不思議な床の、けれどもどこか落ち着く雰囲気の一室へとやってきた。
「草? を編んでいるのか……?」
その不思議な床の部屋にも、やはり寛いでいる複数の魔物達がいる。まだ若そうなのに、ツバキという少女は随分優秀な従魔術師なのだな、と実感すると同時に、劣等感を覚えたラーハルトは視線を下に落とす。
「で、魔物をテイムできないって、あなた従魔術の勉強は?」
ツバキの問いかけに、ラーハルトはハッとして顔を上げた。
机に置かれたカップには、薄緑色のお茶が揺れている。
カップに触れると伝わるその温かさに、ラーハルトの緊張が少し緩んだ。
「あ、お茶ありがと……従魔術については、首都の魔術学校できちんと従魔術コースを修めたよ」
「ふぅん。あなたの知識がないとか、レベルが足りないとかでもないのね?」
「うん……卒業後は、従魔術師の冒険者パーティに加入して下働きしながら、機会がある度に魔物をテイムしようとしていたんだけど……毎回、成功しなくて……それで、そのパーティもクビになっちゃって……」
「……」
ラーハルトの話を聞いてしばらく考え込んだツバキがタンッ! と良い音をたてて自身のカップを卓の上に置く。そしてその音に驚いたラーハルトの腕を掴むと、グイッと力任せに引っ張り立たせた。
「よしっ! じゃあ一回やってみせてよ!」
「え……えっ!?」
「私も別にS級従魔術師! とかってわけじゃないけど、もしかしたら何かアドバイスできるかもしれないしさ」
「それ、は、嬉しいけど……今からっ!?」
「あなたさっきうちの庭見たでしょ。色んな魔物がいるから。もしかしたら相性の問題かもしれないし。さっ! とにかく試してみるべき!」
「えええ!?」
ツバキは渋るラーハルトの腕をグイグイと引き、すっかり陽が落ちて静かになった庭へと出る。
昇る月は少し欠けているが、雲一つない空の下、月明かりがほのかに辺りを照らしている。
「ちなみに、テイムを試してみたことのある魔物の種類は?」
「えっと、妖精兎、グレートウルフ、ケルピーに……極彩鳥と……オーガも……」
「動物型が多いんだね。なにかこだわりがあるの?」
「いや、そういうわけじゃ……ただ、冒険者だから、強い魔物をテイムしたくて」
「うーん……じゃあ、とりあえずうちにいる妖精兎をテイムしてみて。それでその後に毛玉猫にチャレンジしてみよう」
「う、うん……」
ラーハルトが緊張のあまり両の拳を体の横で握り締めている間に、ツバキは指を咥えて甲高い音を鳴らす。
すると少しの後、近くの草むらからガサガサと音がして、キラキラ輝く蝶のような小さな翼を頭に生やした、兎に似た魔物が三匹ひょっこりと頭を出した。
『キ? キ?』
『キーッ!』
「おーよしよし」
「おお……」
どうしたらその小さな翼で自重を支えられているのか原理は不明だが、極々最小限の羽ばたきだけでヒュンヒュンと素早く低空を飛び回る妖精兎達。彼らは嬉しそうにツバキの周囲に光る鱗粉を振りまいた。
「よっし。じゃ、まずは妖精兎についてどれくらい知ってるか聞かせて?」
「へ?」
さあ、いざ実践──! と振り上げたラーハルトの拳がスカッと空気を無駄に掻き回して落ちる。
「よ、妖精兎について?」
「そうだよ。テイムするにあたって彼らの情報を知っていないと。どうテイムするか、何よりテイムした後、彼らをどう飼育していくのか分からないんじゃ困るでしょ?」
正論過ぎて考えもしていなかったツバキの指摘に、言われてみればそれもそうか、とラーハルトはうんうんと頷くと、脳内の魔物事典をひっくり返す。
「ええと、妖精兎、妖精兎……兎に似た小型の飛行型魔物。妖精の粉のようにキラキラとした鱗粉を振り撒くことからその名がついた……可愛い見た目に反して、その鱗粉には軽度の麻痺状態を与える毒があり、攻撃性は強い……が、魔物レベルは低く、雑食で、初級の従魔術師に推奨されている……だったかな」
「うんうん。従魔術についてきちんと勉強したっていうのは嘘じゃないみたいだね。よし、じゃ、レッツテイム」
「うえっ!? もう!?」
「もうって、妖精兎についての知識は十分だよ。あとは実技実技」
「うっ……! や、やるぞ……!」
気合いを入れ直したラーハルトが改めてぐっと拳を握る。
そして腰のポーチに手を伸ばすと、そこから黒くしなる鞭を取り出し構える。
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